すべての法人の義務「決算報告書」とは?その役割・種類・書き方と開示義務 | 税理士コンシェルジュ

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すべての法人の義務「決算報告書」とは?その役割・種類・書き方と開示義務

2020年5月28日
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すべての法人は「決算報告書」を提出する義務があります。それには起業したばかりの小規模な法人も含まれており、決算期には書類を作成しなければいけません。では、決算書を作成する目的や役割とは何なのでしょうか?この記事では、すべての法人に提出が義務付けられている決算報告書の基礎知識について解説していきます。

決算報告書とは?

決算報告書(決算書)とは、企業や会社などすべての法人が、1年間の事業年度を終えて決算の結果をまとめた書類一式のことです。つまり、「決算報告書」と呼ばれる1つの書類があるのではなく、いくつかの書類をまとめた一式を「決算報告書」といいます。

決算報告書の目的・役割とは?

決算報告書を作成する目的は、税務署をはじめとし、株主、取引先企業、金融機関などに経営状態や資産状況などを報告するためです。では、大きく3つの目的・役割についてみてみましょう。

目的・役割①税務署への税金申告

企業や会社は、決算終了後に法人税の確定申告を行うことが義務付けられています。その際、税務署へ決算報告書を提出しなければいけません。税務署は、税金の計算など決算内容に不備がないかどうかを判断するために決算報告書を使います。

目的・役割②株主への財務状況の報告

企業は、株主へ業績報告をする必要があります。なぜなら、株主は他の投資先や他社などのさまざま情報を比較したり、会社が健全に運営されているかどうかをチェックし投資をするからです。その判断材料として、決算報告書をチェックします。決算報告書は、年に1度、株主を招集して開催される株主総会の場で開示されます。

目的・役割③取引先企業や金融機関への信用調査

取引先企業の場合は、今後も取引を継続しても問題ないかどうかを、銀行などの金融機関の場合は、返済能力や融資額を判断するなど融資審査のために決算報告書を使います。

決算報告書の「開示義務」とは?

決算報告書には、3つの「開示義務」があります。それは次のようなものです。

開示義務①税務署への開示義務

すべての法人は、税務署に決算報告書を開示することが義務付けられています。税務署が決算報告書や税務申告書を確認し、決算内容に虚偽や不備などがないかを判断するためです。具体的には、売上高や売上総利益、在庫数などの精査や、逆粉飾決算や不適切会計をしていないかなどを確認します。

開示義務②金融商品取引法における上場企業・大会社の開示義務

上場企業は、金融商品取引法に基づき、決算報告書を開示することが義務付けられています。また、非上場企業であったとしても、会社法上の大会社には、損益計算書と貸借対照表の開示が義務となっています。(会社法上の大会社とは、最終事業年度の貸借対照表上で、資本金が5億円以上、もしくは負債の合計額が200億円以上の株式会社のことを指します)

決算報告書の開示は、新聞や官報などを通じて行われます。また、代替手段として、ホームページ上へ5年間掲載する方法もあります。上場企業の決算書(有価証券報告書)の場合は、金融庁が運営する「EDINET」で誰でも閲覧することが可能となっています。

開示義務③特定の株主や債権者などの利害関係者から請求があったときの開示義務

会社法442条3項では、議決権比率3%以上の株主や債権者が企業に株主報告書の開示を請求した場合は、開示義務があると規定されています。請求された場合は、上場企業や中小企業など問わず、どのような企業でも開示する必要があります。開示義務に従わない場合は、ペナルティが課せられることがあります。ですから、会社設立をする場合には、決算報告書の開示義務はしっかり把握しておくことはとても重要です。

決算報告書種類(一式)とは?

決算報告書一式には、貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書(製造業のみ)、株主資本等変動計算書、個別注記表、キャッシュフロー計算書などさまざま種類があります。これらの書類は、「会社法」「法人税法」「金融商品取引法」などの法律の目的から提出先や提出書類が異なってきます。

・会社法
会社法では、すべての会社に対して「決算報告書」の作成が義務付けられています。提出先は、株主総会などです。提出すべき決算報告書一式には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、事業報告、附属明細書などが該当します。

・法人税法
法人税法では、すべての会社に対して「決算報告書」の作成が義務付けられています。提出先は、管轄地区の税務署です。法人税の確定申告書に添付して提出します。提出すべき決算報告書一式には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書が該当します。

・金融商品取引法
金融商品取引法における決算報告書は、「有価証券報告書」と呼ばれています。これは上場企業などが作成の対象として義務付けています。提出先は、内閣総理大臣充てに管轄地区の財務局へ提出します。

提出すべき書類には、会社の概況、事業の状況、設備の状況、財務諸表として貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・キャッシュ・フロー計算書、附属明細表などが該当します。決算日3日後以内に提出し、その後、一般公開され、前述した金融庁が運営する「EDINET」で閲覧することができます。

では、それぞれの書類の内容と書き方について詳しくみていきましょう。

貸借対照表(バランスシート、B/S)

「B/S」とも呼ばれる賃借対照表(バランスシート、B/S)は、会社の一時点における財政状態を把握できる書類です。賃借対照表を見ることで、資金調達や資産、負債、純資産などの状態が分かり、企業の運用状況を把握することができます。貸借対照表は、表の左側に「資産」、右側に「負債」と「資本」を記載していきます。具体的には、次のような勘定科目を記入していきます。

・流動資産
現金、預金、売掛金、受取手形、棚卸資産など

・固定資産
土地、建物、設備、特許権、営業権など

・繰延資産
開業費、創立費、開業費など

・流動負債
支払手形、買掛金、未払費用、繰延税金負債など

・固定負債
長期借入金など

・資本
株主資本、新株予約券など

貸借対照表がバランスシートと呼ばれているように、貸借対照表は原則として、表の左側(資産)の合計金額と、右側(負債と資本)の合計金額が同じなければなりません。ですから、左右の合計金額が一致しない場合は、どこかで間違えているということになります。

損益計算書(Profit and Loss statement、P/L)

損益計算書(P/L)は、会社の1年間の収益や支出を集計し、最終的な損益を算出した表です。売上純利益、営業利益、当期純利益が記載することで、会社の一定の期間の業績や利益を一目で把握することが可能です。また、法人税の所得計算の基礎となる当期純利益を算出します。

では、損益計算書はどのように作成するのでしょうか?損益計算書は、3つの区分で構成されており、次のような項目で分類されています。

区分1:経常利益
売上高(本業による収入)、売上原価(売上にかかる原価)、販売費及び一般管理費(商品を販売するための経費)

区分2:純利益
営業外収益(不動産賃貸料など本業以外の収益)、営業外費用(銀行借入金の利息などの費用)

区分3:営業損益
特別利益(固定資産の売却益や経理ミスの繰越など)、特別損失(固定資産の売却損や経理ミスの繰越など)、税金(住民税・法人税・事業税など)

上記の項目を使い、5つの利益を求めます。5つの利益の種類と計算方法は次のようになっています。

・売上純利益(本業で得た利益)
「売上高-売上原価=売上純利益」

・営業利益(本業で得た利益から経費を差引いた実質的な利益)
「売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益」

・経常利益(本業以外の活動も含まれた利益)
「営業利益+(営業外収益-営業外経費)=経常利益」

・税引前当期純利益(税金を差引く前に算出した純利益)
「経常利益+(特別利益-特別損失)=税引前当期純利益」

・当期純利益(税引前当期純利益から支払う税金を差し引いた利益)
「税引後当期純利益-税金=当期純利益」

製造原価報告書(製造業のみ)

製造原価報告書は、製造業のみが損益計算書に添付する書類です。製造原価の内訳が記載されている書類で、材料費・労務費・経費の3つに区分して記載をします。そのため、どのくらいの費用に対して、どの程度の製品を製造できたかを把握することが可能となります。

なお、製造原価報告書には、次のような項目を記載する必要があります。

・材料費(製品製造のためにかかった費用)
「期首材料棚卸高 + 材料仕入れ高 - 期末材料棚卸高=材料費」

・労務費(製造に関わった従業員の人件費)
給与、賞与、社会保険料、福利厚生費などの合計金額

・経費(労務費と材料費以外にかかった費用)
水道光熱費や賃貸料などの合計金額

・総製造費用(材料費・労務費・経費の合計金額)
当期から製造を開始した製品をはじめとし、前期末時点での未完成の製品コストまでの合計金額

・仕掛品(期末時点での未完成の製品の合計金額)
期首仕掛品棚卸高(前期末時点で未完成の製品)と、期末仕掛品棚卸高(今期末時点で未完成の製品)

・製品製造原価(当期中に完成させた製品にかかった原価)
「総製造費用 + 期首仕掛品棚卸高 - 期末仕掛品棚卸高=製品製造原価」

キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は、会社の会計期間の収支と支出を表した資金の動きを示す書類です。損益計算書や貸借対照表では分からない資金の流れを把握することが可能となります。なお、キャッシュフロー計算には、「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の3種類あります。

キャッシュフローには、期首残高(前期の貸借対照表の現預金額)、各増減項目(当期の損益計算書の数字)、期末残高(当期の貸借対照表の現預金額)を記載します。そのため、キャッシュフローを作成する際には、当期の損益計算書と前期と当期の貸借対照表を参考として使用します。

株主資本等変動計算書

株主資本等変動計画書は、利益を何に使ったかが示されている計算書です。利益の使用用途などを明確に記載するため、会社の純資産がどのように変動したのか財政状況を確認できます。株主資本等変動計画書には、前期末残高(前期の貸借対照表の純資産の部の残高)、当期変動額(当期の増減額と増減科目、当期の純利益)、当期末残高(当期の貸借対照表の純資産の部の残高)を記載します。

個別注記表

個別注記表とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書など会社法にて提出する決算報告書について1つの書面にまとめた計算書類です。記載内容の一例として、貸借対照表の注記には担保となっている資産、損益計算書の注記には関係取引会社とその他の取引高を個別に表示、株主資本等変動計算書の注記には事業年度末における発行済みの株式数などを記載します。

附属明細表

附属明細表とは、計算書類の内容を補足する重要な事項などを注記した書類です。なお、計算書類とは、損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書、個別注記表の4つが該当します。これらの書類に記載されていない詳細事項が表示された書類が、附属明細書です。具体的には、次のような内容を記載します。

・販売費と一般管理費の科目別の内訳
・有形固定資産と無形固定資産の増減の内訳
・引当金の明細(退職給付引当金など)
・その他の重要な事項

事業報告

事業報告とは、1年間の事業の概況や会社の状況を記載した書類です。会社法では、次のような内容を記載するよう規定されています。

・株式会社の状況に関しての重要な事項
・株式会社の業務の適正を確保する体制の整備での決定事項、または決議の内容もしくは体制の運用状況
・株式会社の財務や事業の方針を決定をする者の在り方に関しての基本方針
・特定完全子会社に関しての事項
・親会社等との取引に関しての事項

決算報告書の作成のポイント

ポイント①日々の帳簿付けを忘れないこと

決算書の作成で一番重要なことは、日々の帳簿記載です。決算報告書は、この帳簿が決算書のベースになるのであって、期末になったときに作成するものではありません。ですから、日々の仕訳帳の作成や総勘定元帳への記入を怠らずに行うようにしましょう。

ポイント②会計ソフトの自動集計を利用すると作業の効率がアップする

決算書には、1年分の合計金額を記載するために、毎日その日になされた取引の集計をし、それが年単位で把握できるよう記録を残さなければいけません。もちろん、手作業で行うこともできますが、月間で1度集計した後に、年間の合計を計算する必要があるので手間と時間がかかります。

しかし、会計ソフトを利用して決算書を作成するなら、集計作業を自動的にしてくれます。そのため、作業にかかる時間を大幅に短縮することが可能となります。個人事業主や中小企業の方でも、会計ソフトを導入するなら作業の効率を向上へとつながります。まだ会計ソフトを導入していないなら、この機会に検討してみることができるでしょう。

ポイント③決算残高のチェックをすること

決算書に記載した数字と、各勘定科目の残高が合わないと、決算書自体の信用性が低下してしまいます。ですから、決算書を作成する前に、決算残高の確認作業をしっかり行うことはとても大切です。確認をする際には、勘定科目ごとに、実際の残高とに見比べながらチェックしていくようにしましょう。そして、過不足や不整合などが見つかったときは、そのまま放置するのではなく、すぐに原因を見つけ、処理することがとても重要です。

経営者であれば必須の「財務三表」とは?

「財務三表」とは、金融商品取引法に基づく決算書のことで、その中でも「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つの計算書を総称して「財務三表」いいます。この財務三表は、経営者にとって必須とも言えるとても重要な書類です。ですから、これから独立をし起業やビジネスを始めようと検討している方であるなら、この3つの計算書は必ず読めるようにしておくことは大切です。

すべての書類がとても重要ですが、その中でも特に「キャッシュフロー計算書」は、創業期においてはとりわけ重要な書類です。売上があり黒字だとしても、掛取引の場合は時間差をおいて後から現金が入ってきます。そのため、手元にキャッシュがない状態がどうしても生まれてしまう可能性があるため、黒字倒産をしてしまうことがあるからです。

このような事態を避けるためには、キャッシュフローを読めることにかかっています。ですから、キャッシュフロー計算書をはじめとし、貸借対照表、損益計算書の財務三表をしっかり読めるようにしておきましょう。

決算書を読めるメリットとは?

決算書を読めることにはさまざまなメリットがありますが、ここでは大きく3つのメリットをご紹介しましょう。

メリット①会社の経営状況を把握できる

決算書を読むことができれば、利害関係者が会社の状態を把握することができます。

メリット②経営の指標になる

決算書の数値を読み取れるということは、経営を見直したり、将来の経営戦略の策定などがしやすくなります。また、会社に問題がある場合は、それが数値としてあらわれるため、早い段階での対処が可能となります。

メリット③取引先を選ぶ際にも有効

取引をする前に、取引先の決算書を目にすることで、取引内容や経営戦略を立てやすくなります。また、取引先の決算書を継続的に確認しているなら、取引先の経営状況を常に把握できるので、万が一、取引先が倒産の危機に陥りそうな場合でも早期に対処できます。

決算報告書の提出期限はいつ?

では、決算報告書はいつまでに提出すればよいのでしょうか?決算報告書の提出期限は、事業年度が終了してから3ヶ月以内と規定されています。株主総会では、決算書の内容の報告が行われますので、株主総会の前までには決算報告書の作成を終わらせておくようにしましょう。

なお、決算報告書を作成した後は、会計監査人の監査を受け、取締役の承認を受ける必要があります。そして、その後、株主総会の2週間前までには本社に据え置くようにと定められています。このような過程で決算報告書が作成され、株主総会で承認を受けることで、はじめて決算公告として決算報告書が開示されます。

一方、法人税の確定申告は、事業年度が終了してから2ヶ月以内に提出するよう定められています。決算報告書で法人税の額を決定するため、法人税の確定申告の前までに作成し提出しなければいけません。もし決算報告書を作成せずに、法人税の確定申告を行わない場合は、ペナルティが課せられることもあるので注意してください。また、法人税の納付をしっかり行いましょう。

まとめ

決算報告書にはさまざま種類がありますが、原則として中小企業では、会社法の決算報告書を作成することが義務付けられています。決算報告書には期限が決められていますので、その期限を守ることはもちろん、普段から日々の帳簿記載を怠らずに行っていくようにしましょう。また、これから起業など独立を考えている方は、決算報告書を読むことができるように理解を深めていきましょう。


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