棚卸資産とは?評価原価のルールと2種類の評価法
円滑な経営をするためには、適切に棚卸資産の状況を把握し、管理することが大切です。なぜなら、棚卸資産は会計の中でも重要な部分を占めているからです。会社の利益を左右するといっても過言ではありません。
この記事では、棚卸資産の種類や評価方法など棚卸資産について徹底解説していきます。
目次
棚卸資産とは?
棚卸資産とは、企業が将来、販売収益を得ることを目的として保有している資産のことです。
つまり、商品や製品の在庫、原材料、仕掛品のことです。貸借対照表では、資産の部の中の「流動資産」の項目に該当します。
棚卸資産は、一般的には在庫と表現されることもあります。在庫と表現されると、「販売できなかった売れ残り・・」というマイナスイメージがありますが、会計の観点からみると、在庫は将来販売して利益を生み出す必要な財産です。そのため、棚卸資産が会社の利益を左右するとも言われています。
しかし、棚卸資産といっても、様々な評価の基準と方法が定められています。したがって、棚卸資産の種類によって、異なる基準と方法で評価しなければいけません。
棚卸資産の種類
在庫を持っている企業が、決算時に、実際に手元にある商品の数を確認する作業のことを「棚卸」もしくは「実地棚卸」といいます。期末には売れ残りの商品などがありますが、これらは期末時点では売上、つまり利益にはつながっていないので、仕入れにかかった経費を売上原価として計上することができません。そのため、棚卸作業をし、売れ残りの商品の数を確認する必要があります。
これら在庫品は、「棚卸資産」と呼ばれており、次のような種類があります。
・商品や製品
販売することを目的として、外部の取引先から仕入れた商品や製品、副産物などすぐに販売できる状態のものが含まれます。
・仕掛け品
販売を目的として現に製造中のものが含まれます。例えば、半製品(自社部品も含む)や未成工事支出金(建設業)や半製品工事(造船業)などが挙げられます。
・原材料
販売することを目的とし、短期間で消費されるべきものは原材料に該当します。つまり、商品や製品をつくる基になるものです。これには購入部品も含まれます。
実地棚卸について
すでにみてきたように、棚卸は決算の時期に行います。通常、決算期末にある在庫を、実際に目でみて数量を確認し、在庫がどれだけあるかを確認する作業です。倉庫や店舗にある在庫をすべて数える必要があるため、企業によっては、従業員が総出で作業に対応することも珍しくありません。
実地棚卸の目的
では、なぜ実地棚卸をする必要があるのでしょうか?主に2つの目的があります。
目的①在庫管理
商品の仕入れや製品の製造などを仕入れ帳や商品有高帳、製造元帳などの帳簿上で在庫を管理していても、商品や製品が出入りしていると破損や紛失、盗難などの理由から、実際の在庫が帳簿上の数と合わないことがあります。
でも、定期的に帳簿上の在庫数と実際の在庫数を合わせる実地棚卸をすれば、差異を発見し、原因と確かめることができます。また、在庫の品質を確かめることもできます。このように、在庫を管理する目的があります。
目的②利益の確定
実地棚卸をすることで、利益を確定できます。それにより、今期の正確な利益も確定し、正しい税金の計算が可能となります。
実地棚卸の必要性
では、実地棚卸をしないとどのようなことが生じるのでしょうか?実地棚卸をすべき必要性は以下の通りです。
①利益が確定しないと正確な税金を支払えない。
もしも実地棚卸をしないと正確な利益に基づく税金を支払うことができません。税務署調査が入り、余計な税金を支払う可能性がでてきます。
②不正に利用されるリスクが高まる。
実地棚卸をしない場合は、帳簿上の在庫数で売上原価を計上することになります。よって、利益を多く見せるために、架空の在庫を計上することが容易に行えます。それにより粉飾決算などのトラブルにつながりやすくなります。
③欠品による損失のリスクが高まる。
実地棚卸をしないと、帳簿上ではある在庫が破損などで欠品していることに気づかないことがあります。よって、納期の延滞が生じたり、遅延損害金を請求されるなどのリスクが生じることがあります。
実地棚卸作業の方法①事前準備
実地棚卸を正確に行うためには、事前準備が欠かせません。事前に準備すべきこととして、以下の点が挙げられます。
・実地棚卸の責任者(現場監督)を決める。
・実地棚卸日に行う棚卸の対象範囲と商品別担当者を決める。
・実地棚卸日当日のスケジュールを記載した「実地棚卸計画書」を作成して関係者に配布する。
・実地棚卸をどのように行うかを分かりやすくまとめた「実地棚卸マニュアル」を作成して関係者に配布する。
・必要ならば関係者を前もって集め、事前説明会を実施する。
・通常、実施棚卸は2人1組で作業をするので、あらかじめペアを決めておく。
・実地棚卸がしやすいように、商品や製品の整理整頓をしておく。
・ビスやナットなど数が多いモノは、質量換算法を採用する。質量換算法の計算式「総重量÷1個の重量=数量」で、棚卸数を算定する。
実地棚卸作業の方法②作業
事前準備が完了したら、実地棚卸の作業に入ります。実地棚卸作業は、通常、次のような流れで行います。
1、実地棚卸作業の責任者、もしくは現場監督が、当日のスケジュールや作業する範囲、ペアなどの確認や伝達などをする。
2、実地棚卸作業をするための記入用紙である棚卸原票に、在庫の品名、数量、保管場所などを正確に記入する。そして、その情報を基に実際の数量を把握する。また、作業はペアのうち1人が在庫をカウントし、もう片方が棚卸原票へ記入する。
3、カウントミスや記入漏れがないことを確認する。通常、棚卸原票は複写式になっているので、そのうちの1枚は回収して、棚卸集計表へ集計していく。
4、帳簿上の在庫数と3で作成した棚卸集計表に記入した数料の差異を確認する。もし差異がある場合は、差異分析をする。そして、最終的な在庫数を決める。
実地棚卸作業をする際の注意点
実地棚卸の作業をする際、原則として、帳簿上の数字に頼ってはいけません。つまり、実際に在庫を保管している倉庫などに行き、実際の在庫の数量を確認する必要があります。
その際、各々の在庫の状態も確認する必要があります。例えば、傷がついていないか、使用期限は過ぎていないか、などを目視でチェックしていきます。
企業によっては、棚卸資産が減ることで生じる記録を記載する「継続記録表」を採用しているところもあります。継続記録表を使った帳簿上の期末在庫数量に対して、実地棚卸の数量が不足している場合は、棚卸資産の消耗分を「棚卸消耗費」として費用計上する必要があります。
その際、原価性のある棚卸資産と、原価性のない棚卸消耗に区分しなければいけません。原価性のある棚卸資産とは、原材料に関する製造原価に商品や製品に関係しているのであれば「売上原価」もしくは「販売費」へ含めます。
一方、原価性のない棚卸消耗は、「特別損失」もしくは「営業外損失」へ含めます。さらに、販売目的で保有している棚卸資産の中には、資産の収益が低下することにより、取得原価と比較すると期末の時価が低下していることもあります。
例えば、キズや汚れなどで品質が低下するなどの物理的な劣化、陳腐化などによる経済的な劣化、市場の受給変化の影響による売価の低下などが評価損の原因には様々なものがあります。
近年では、時価評価をすることが多く、低価基準による棚卸資産の期末評価は原則的な処理として位置づけられている傾向にあります。そのため、実地棚卸をする際には、実地棚卸の数量と在庫の状態を確認することが重要とされています。
棚卸資産の取得原価のルールとは?
棚卸資産を購入した場合の取得原価は、購入代価に付随費用である副費を加算して決めることになっています。付随費用とされている副費には、「外部副費」と「内部副費」の2種類に大きく分類されています。外部副費には購入手数料、関税、引取運賃などが該当します。
一方、内部副費には購入事務費、保管費、検証費などが挙げられます。これらの中から取得原価の範囲に含まれる副費は、重要性の原則や費用収益対応の原則をもとに決めることになります。また、棚卸資産を自社生産している商品や製品などの取得原価の場合は、適性な原価計算で算出された価額となります。
ただし、実際原価計算で実際の取得価額ではなく、予定価格や標準原価を用いて計算した場合、実際の発生額との間に差額が発生することがあります。これを「原価差異」と呼んでいます。原価差異が生じた場合は、その大きさを算定記録して分析し、財務会計では適切に処理をして製品原価や損益を求める必要があります。
棚卸資産の評価法
法人の場合は決算期末に、個人事業主の場合は12月31日に棚卸作業を行って在庫数を確認します。その後、その在庫数を適正に評価していきます。つまり、在庫となっているものは、取得原価がそのまま棚卸資産にならず、適切な評価をする必要があります。
棚卸資産の評価法にいくつかの方法がありますが、大きく「原価法」と「低価法」の2種類に分類されています。では、どのような種類があるのかみていきましょう。
原価法
原価法とは、棚卸資産原価をベースに評価する方法です。原価法には全部で6つの種類が存在しています。
①個別法
個別法とは、個々の仕入時の取得価額を評価していく方法です。商品ごとの実際にかかった金額で在庫管理することができますが、実際の仕入れをその通りに計算する必要があるため時間と手間がかかります。
ですから、多品種を扱う企業や同企画の製品を大量に扱っている企業などにとっては、個別法は手間のかかる記録法と言えるでしょう。しかし、個別法は、個別性が高い商品には適している評価法です。
例えば、宝石や貴金属、自動車、不動産、書画、骨董、美術品などは比較的高価な商品で、モノによっては同じ商品がない個別性の高いモノもあり、個々に在庫管理することが可能なので個別法が適していると言えます。
②先入先出法
先入先出法とは、商品や資産を仕入れた順に販売もしくは使用していくという考えのもとに記録していく方法です。FIFO(First In First Out)とも呼ばれています。在庫は期末に最も近いものが残っていると仮定し、取得価格で評価していくので、実際の資産の流れに近い状態で計算できる方法となっています。では、具体的な例を取り上げてみましょう。次のように仕入れたと仮定します。
日付 | 個数 | 単価 | 合計 |
5月1日 | 10個 | 100円 | 1,000円 |
10月15日 | 15個 | 200円 | 3,000円 |
12月25日 | 25個 | 300円 | 7,500円 |
上記のように仕入れをし、9月末に商品が10個売れた場合は、先入先出法では、先に仕入れた5月1日の商品が10個売れたと考えるので、1,000円分が売れたと記録します。
このような計算法をすることで、計算上の仮定が、実際のモノの流れと一致しやすいというメリットがあります。しかし、物価に変動があると影響を受けやすい、というデメリットもあります。
③総平均法
総平均法とは、棚卸資産を種類別に区別し、期首の棚卸資産の取得価額の総額と、当期中に取得した資産の所得価額の総額を合算した金額を、棚卸資産の個数で割って取得価額を参加する計算方法です。つまり、期末や年度末に平均単価を計算し、それを単価にするということです。
年単位や月単位(月別総平均法)、6ヵ月ごとの総平均法(法人の場合のみ)などがあちます。総平均法は計算はシンプルですが、一定の期間を経過するまで計算することができないというデメリットがあります。
④移動平均法
移動平均法とは、仕入れをするたびに平均単価を計算し直す方法です。総平均法とは異なり、毎回、単価計算をする必要があります。そのため、計算が複雑になりますが、払出資産の単価を随時把握できるので、販売業績を常に管理できるというメリットを得られます。
⑤最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、最終取得原価、つまり、期日に最も近い日に取得した仕入単価を期末棚卸資産の単価として適用し、計算する方法です。計算はとてもラクですが、価格変動が大きいと実際の所得価額との誤差が大きくなることや、期末まで評価できないことなどのデメリットがあります。
なお、評価方法を選択しなかった場合は、棚卸資産の評価は、最終仕入原価法で評価されます。
⑥売価還元法
売価還元法とは、異なる品目の資産を値入率の類似性によってグループに区分して計算するため、「小売棚卸法」とも呼ばれています。主に小売店や百貨店などで、売価還元法が用いられています。また、製造業で半製品や仕掛け品を製造工程に応じて売価の○○%と評価する方法も、売価還元法になります。
低価法
低価法とは、先述した「原価法による評価額」と「期末時価」のいずれかのうち、金額が低い方で評価する方法です。上場企業では、低価法を強制適用することになっています。なお、低価法を適用した場合は、翌月首に振り戻しの処理、つまり、評価損を計上した期末仕訳の逆仕訳をするよう定められています。
まとめ
棚卸資産の基礎知識やその種類、評価方法、実地棚卸の方法などについてみてきました。棚卸資産の評価法にはいくつかの種類がありますので、是非、自社に合ったものを採用し、健全な運用を目指していきましょう。
また、実地棚卸をする際には、事前によく準備することが、当日の作業の効率化につながります。是非、しっかり事前準備をしてのぞむようにしましょう。
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