KSK2対応に税理士が必要な理由と、電子帳簿保存法との関係
KSK2対応そのものに税理士の関与が法律で義務づけられているわけではありません。ただ、国税システムの更改は申告書等の様式と提出の入口が一度に切り替わる出来事で、同じ時期に、自社の帳簿と証憑の残し方が電子帳簿保存法の求める形になっているかも見直す時期に重なります。事実の整理は自社でできますが、要件の当てはめには判断が伴います。
国は令和八年九月二十四日に更改を予定しており、前後にはe-Taxを使えない期間も置かれます。決算や税務調査の日程と重なりやすい時期です。
以下では、制度の事実と手順だけに絞って並べます。中小企業の経理が自分の手で動かす部分と、外に出したほうが早い部分の切り分けまで示します。
伊東大介(税理士法人 イデアコンサルティング代表)税理士登録番号:97281
本記事の税務に関する記述について、内容の正確性を確認しています。

KSK2対応の出発点は、九月に予定されている国税システムの更改の日程にある
国税庁は、令和八年九月二十四日に国税システムの更改を予定していると公表しています。KSK2対応とは、この日程に合わせて、申告書の作り方と帳簿や証憑の残し方を、自社の側で先に整えておく一連の段取りを指す言い方です。
呼び名の違いで話が噛み合わない場面があります。納税者向けの案内で使われている見出しは「国税システムの更改」で、KSK2という記号は、主にソフトウェア開発業者向けの仕様書の名称として登場します。両方が同じ出来事を指していると分かれば、情報を追いかけやすくなります。
更改の前後には、e-Taxを利用できない期間が置かれます。提出や納付の予定がその期間に重なっていれば、送信そのものができません。期限の直前になって気づいた場合、打てる手はほとんど残っていません。
この切り替えを国の内部の話だと受け止めてしまうと、様式の変更も停止期間も、直前に知る羽目になります。制度の側の日程はこちらの都合では動きませんから、先に日付を固定し、そこから逆算する順番が結局は早道です。
最初の作業は難しくありません。九月の予定表に更改日と停止期間を書き込み、決算や納付の締切、税務調査の予定と重なっていないかを見る。ここが決まれば、書類の準備も保存の点検も、あとは並べ替えるだけになります。
予定表を開いたら、二つ目の欄も同時に埋めておきます。誰がe-Taxで送信するのか、その担当者は九月に休暇や出張を入れていないか。停止期間を避けて前倒しした日に、送信できる人が社内にいないという事態は、実際にしばしば起こります。送信を税理士に代理で行ってもらっている会社なら、その税理士側の日程も同じ欄に書いておきます。
年商五千万円を超える規模になると、請求書の発行も支払も件数が多く、月中の締めを動かしにくくなります。停止期間に月次の締めが重なる会社では、前倒しで送信を終える日を一日決めておくだけで、九月の終盤の慌ただしさがかなり違ってきます。
年に一度の申告しかない規模であれば、止まる期間そのものの影響は小さく、様式の変更と、電子帳簿保存法に沿った残し方だけを見ておけば足ります。規模によって効く手が違う、という前提から入るのが実際的です。
顧問税理士がいる会社であれば、この日程のすり合わせは月次の面談で片づきます。税理士の側は複数の顧問先の申告期限を同じ九月に抱えていますから、早く相談を持ち込んだ会社ほど、余裕のある日程を確保できます。八月のうちに一言伝えておく価値は、そこにあります。
国税庁では、令和8年9月24日に国税システムの更改を予定しています。納税者の皆様にご注意いただきたいことを順次お知らせしていきます。
出典:国税庁「国税システムの更改について」(2026年8月取得)/当該ページ
電子帳簿保存法が求める保存は、システムの更改とは別に続く法律上の義務である
ここが最も混同されやすい部分です。国税システムの更改は行政の側の設備の入れ替えであり、事業者に保存を求めている根拠は、電子帳簿保存法という別の法律にあります。片方が終われば片方も終わる、という関係ではありません。
電子帳簿保存法の第七条は、電子取引を行った場合の電磁的記録の保存を、保存義務者に対して直接求めています。正式な法律名はかなり長く、電子帳簿保存法という呼び方はその略称として定着したものです。
条文が「財務省令で定めるところにより」と書いている点は見落とされがちです。保存の細かい要件は法律の本体ではなく省令の側にあり、そこに当てはまるかどうかは、事業者ごとの実際のやり方を見なければ決まりません。
だから、九月に向けた準備をしている最中に「うちの残し方で問題ないか」という問いが必ず出てきます。この問いは調べ物ではなく当てはめであり、税理士に投げたほうが速く片づく典型です。
当てはめの手前にある事実の棚卸しは自社にしかできません。どの相手先とどんな経路で書類をやり取りしているのか、その一覧を作る作業は、税理士が代わりに知っている情報ではないからです。
今回の切り替えの話題が出た年に、電子帳簿保存法まわりの見直しがまとめて動くのは、時期が重なるからにすぎません。ただ、重なるのであれば一度に片づけたほうが、同じ資料を二度出さずに済みます。
電子帳簿保存法は、紙で受け取った書類を電子化してよいという緩和の規定と、電子でやり取りしたものは電子のまま残すという義務の規定を、同じ法律の中に持っています。二つを分けて読む姿勢が、混乱を避ける最短の道です。
この区別を曖昧にしたまま税務調査の場を迎えると、説明に手間取ります。中小企業であっても、自社のどの書類がどちらの規定に属するのかを言えるかどうか。制度の名前を覚えるより、そちらのほうがはるかに役に立ちます。
もう一点、期限の性質も違います。国税システムの更改には九月という一回きりの日付がありますが、電子帳簿保存法の義務に終わりの日はありません。更改を乗り切っても保存の義務は翌月も続き、翌年も続きます。九月を目標地点だと考えると、十月以降の運用が抜け落ちます。
だから、準備の成果物は「九月までに終わらせる作業表」ではなく「十月以降も回る手順書」の形で残しておきたいところです。同じ手間をかけるなら、一度きりの対応で消えてしまう形にはしないほうが得です。この視点は、税理士との打ち合わせでも最初に共有しておくと話が早く進みます。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」第七条(2026年8月取得)/平成十年法律第二十五号
申告書の様式が新しくなる場面と、経理の手戻りが起きやすい箇所を先に押さえる
国は、多くの申告書や申請・届出書、法定調書の様式が新しくなる予定だと案内しています。あわせて、申告書の控用はなくなり、配色は原則として白黒になる予定だとも書かれています。見た目の話に見えて、社内の手順に直接ひびきます。
控用がなくなる一点だけでも、社内の運び方が変わります。控えを綴じて回覧する習慣のある会社では、何をもって提出済みの証跡とするのかを決め直さなければ、月次の締めのたびに小さな迷いが生まれます。
納付書や所得税徴収高計算書の様式も新しくなる予定です。毎月の源泉所得税を紙の納付書で納めている会社ほど、手元の在庫を使い切る時期と切り替えの時期が噛み合うかを見ておく値打ちがあります。
手戻りが起きるのは、たいてい「前と同じでいいはず」と思って進めた場面です。様式が変われば、社内の記入マニュアルも、外注先へ渡す指示書も、同じ日に古くなります。
e-TaxのIPアドレスが固定から動的に変わる予定である点も、案内に出ています。接続先をアドレスで指定している会社は、更改の日以降はURLでの接続に切り替える必要があり、これは経理ではなく情報システム側の宿題です。
この宿題を経理だけで抱えると、九月に入ってから外部の保守業者と日程を取り合う展開になります。準備の初期の段階で、社内の誰が何を持つのかを一枚に書き出しておくと、後半の折衝がずいぶん軽くなります。
実務で繰り返し見かける手戻りには、型があります。四つ挙げておきます。どれも知識の不足ではなく、確認の順番を一つ飛ばしたところから始まっています。
一つ目は、旧様式の在庫を使い切ろうとして起きる差し戻しです。納付書や届出書を箱で買っている会社では、更改後も古い用紙が手元に残ります。使い切る判断そのものは自然ですが、使ってよい期限を確かめずに進めると、受け付けられなかった分だけ再作成と再送付が発生します。対策は単純で、在庫の残数を数え、いつまでに消化できるかを八月中に見積もっておく。消化しきれない見込みなら、そこで新様式へ切り替える日を決めてしまいます。判断に迷う様式があれば、顧問税理士に一覧を見せて仕分けてもらうほうが確実です。
二つ目は、会計ソフトや給与ソフトの更新を後回しにして起きる詰まりです。帳票の様式はソフト側の更新プログラムで差し替わりますが、更新の配信が更改日の直前に寄る年もあります。担当者が九月に入ってから更新に気づき、そこでソフトの動作確認と月次の締めが重なる。対策は、ソフト提供元の更新予定を八月中に問い合わせ、更新を当てる日を予定表に書き込んでおく作業です。
三つ目は、提出済みの証跡を控用の紙に依存していた会社で起きる混乱です。控用がなくなると、これまで控えを回覧して承認していた流れが宙に浮きます。受信通知のデータを保存して回すのか、印刷して綴じるのか、どちらでもよいのですが、決めていない状態が最も手戻りを生みます。八月のうちに「提出済みの証跡はこれ」と一行で決め、経理と各部門に伝えておけば済みます。
四つ目は、外注先や関与先へ渡す指示書を更新し忘れて起きる往復です。記帳代行や給与計算を税理士事務所や外部の業者に出している会社では、自社の手順書だけを直しても、相手先が古い様式のまま作業を続けます。指示書の更新と送付を、様式の切り替えの作業リストに最初から入れておく。この一行があるかないかで、九月の往復回数が変わります。
様式の変更は、電子帳簿保存法の要件そのものを動かす出来事ではありません。ただ、申告書の作り方と帳簿の残し方を同じ机の上に並べて見直せる時期は、そう何度も来るものではありません。顧問税理士に見てもらう資料も、この機会にまとめて渡してしまうほうが効率的です。
手戻りの多くは、知識の不足ではなく持ち場の曖昧さから生まれます。中小企業ほど人数が限られ、誰かの善意で穴が埋まってしまいます。責める先を人に向けても直りません。持ち場の線を先に引く。そのほうが、はるかに効きます。
- 様式が新しくなる予定のもの……申告書、申請・届出書、法定調書、納付書、所得税徴収高計算書
- 社内で決め直すもの……提出済みの証跡の残し方、記入マニュアル、外注先へ渡す指示書
- 情報システム側の宿題……e-Taxへの接続をアドレス指定からURL指定へ切り替える作業
- 先に日付を押さえるもの……更改日、e-Taxを使えない期間、自社の決算と納付の締切
- 八月中に数えるもの……旧様式の用紙の在庫数と、消化しきれる見込みの有無
電子取引に当たるやり取りは、紙の電子化とデータ保存を切り分けて整理する

電子取引は、法律の中で定義が置かれている言葉です。注文書や契約書、送り状、領収書、見積書などに通常書かれる事項のやり取りを、電磁的な方式で行う取引を指します。日常の言葉より広く、思っているより多くの場面が入ります。
メールに添付された請求書のPDF、相手先の管理画面からダウンロードした支払明細、通信販売の購入履歴。どれも、紙を挟まずにやり取りが完結していれば、電子取引として扱われる可能性があります。
ここでよくある行き違いが、「印刷して綴じてあるから大丈夫」という理解です。紙を電子化してよいという電子帳簿保存法の緩和と、電子で受け取ったものを電磁的記録のまま残すという義務は、別々の条文に立っています。
準備の中でこの切り分けを一度やっておくと、以後の判断が速くなります。受け取った経路で仕分ければよいだけなので、経理の担当者が自分で線を引けるからです。
年商一億円を超えるあたりから、購買の窓口が複数に分かれます。総務が契約したクラウドの請求書、現場が立て替えた通信販売の領収書、営業が受け取った見積書。窓口ごとに残し方が違えば、抜けが出るのは当たり前です。
だからこそ、最初に作るべきものは規程ではなく一覧です。相手先と受け取り方を並べた表が一枚あれば、どこが弱いかは見ただけで分かります。税理士との議論も、その一枚があるかないかで密度が変わります。
一覧に載せる項目は、多くする必要がありません。相手先の名前、受け取る書類の種類、受け取る経路、保存している場所、月あたりのおおよその件数。この五つで足ります。項目を増やすほど作る手が止まり、完成しないまま九月を迎えます。粗い一覧でも、税理士が見れば足りない箇所はすぐに指摘が返ってきます。
中小企業であれば、窓口の数はそれほど多くありません。保存義務者として押さえるべきは、電子取引に当たるやり取りが漏れなく一覧に載っているか、まずはその一点です。
一覧づくりは地味で、成果が見えにくい作業です。ただ、これを飛ばして先へ進むと、あとで必ず同じ場所に戻ってきます。税務調査の連絡が来た日に作り始めるより、いまのうちに作っておくほうが軽く済みます。
税務調査の受け方は、税務署の事務の重心が移ることで少しずつ変わる

国税庁は、内部事務のセンター化を進めており、令和八年には全ての税務署を対象に実施する予定だと公表しています。申告書の入力処理や照会文書の発送といった事務を、専担の組織へまとめる取り組みです。
そこで浮いた事務量をどこへ回すのかも、あわせて示されています。納税者サービスの充実と、税務調査や滞納整理、データ活用といった外部の事務の充実・高度化につなげる、という書き方です。
これは税務調査が厳しくなるという話ではありません。事務の重心が内から外へ移る、という構造の説明です。煽られる必要はありませんが、知らないままでいる理由もありません。
実務で効いてくるのは、聞かれたときに出せるかどうかです。電磁的記録が探せる形で残っていれば、税務調査の場でのやり取りは短く済みます。探すところから始まると、それだけで日数が延びます。
九月に向けた準備を、提出のためだけの作業だと捉えると視野が狭くなります。同じ資料が、あとで説明を求められたときの手持ちになる、と捉えたほうが実態に近いはずです。
年商三億円規模になると、部門ごとに保存の場所が分かれている状況が珍しくありません。どこに何があるかを社内の誰も一人では答えられない状態は、それ自体が損失を生みます。立会いに入る税理士も、置き場所を知らされていなければ助け船を出せません。
電子帳簿保存法の要件を満たしているかどうかも、結局は同じ話につながります。要件は、あとから第三者が見て確かめられる状態を作るためのものだからです。
置き場所の地図は、一枚の紙に収まる粗さで十分です。書類の種類ごとに、保存先のフォルダ名か、システムの名前を書き添えるだけ。細かい階層まで書き込むと、更新が追いつかず、半年で使われなくなります。粗いまま維持されている地図のほうが、精密で古い地図より役に立ちます。
この機会に、置き場所の地図を一枚に集約しておく。派手さはありませんが、後々いちばん効く備えになります。税理士に保存の当てはめを見てもらう場面でも、最初に渡す一枚はこの地図です。
効率化により確保できた事務量は、納税者サービスの充実や税務調査・滞納整理・データ活用といった外部事務の充実・高度化につなげていくこととしています。
出典:国税庁「国税庁レポート2024」納税者サービスの充実と行政効率化(2026年8月取得)/レポート2024(PDF)
年商の規模ごとに、事前準備で重くなる仕事は入れ替わる

同じ制度の話でも、規模が違えば効く手が違います。年商一千万円台の事業者と、年商三億円の法人が、同じ工程表を使う理由はありません。ここを均してしまうと、要りもしない作業に時間を取られます。
年商一千万円台であれば、やり取りの相手先が限られており、受け取り方も数えられます。残し方の経路を決めて、その通りに保存する。それだけで足りる場合が多く、外部に頼む部分は年に一度の点検で収まります。
年商五千万円を超えると、請求の件数が増え、支払の経路も分かれます。誰が受け取っても同じ場所に置かれる形を作らなければ、月末ごとに抜けが出ます。ここから先は、仕組みで解く領域です。
年商三億円規模になると、部門と拠点が分かれ、購買の窓口も一つではありません。準備も経理だけでは完結せず、情報システムと現場を巻き込む段取りが要ります。
規模が上がるほど、経営者が自分で手を動かす余地は減ります。代わりに、誰に何を任せるかを決める仕事が増えます。経営者が握るべきは、実作業ではなく分担の設計のほうです。
電子帳簿保存法の当てはめも、規模が上がるほど関係者が増えます。中小企業の中でも、拠点が二つ以上ある会社では、税理士へ同じ説明を二度繰り返す羽目になりがちです。
下の表は、規模ごとに何が重くなるかを並べたものです。自社がどの行に近いかを見て、重い側の欄から順に手をつけると、限られた時間の使い道を間違えにくくなります。税務調査の備えも、同じ順番で整っていきます。
| 年商の規模 | 重くなる仕事 | 外に出すと早い部分 |
|---|---|---|
| 1,000万円台 | 受け取りの経路を決めて、その通りに残す運用 | 年に一度の点検と、保存の当てはめの確かめ |
| 5,000万円前後 | 件数の増加に耐える置き場所づくりと月末の締め | 省令の要件への当てはめと、様式の変更点の洗い出し |
| 1億円前後 | 購買の窓口が複数に分かれる状況の整理 | 部門横断の手順づくりと、九月の工程表の設計 |
| 3億円以上 | 拠点ごとの置き場所の集約と説明できる状態の維持 | 情報システム側の切り替えを含む全体の進行管理 |
表だけでは動きにくいので、規模ごとに八月から九月にかけての流れを具体的に置いてみます。自社に近い行を読んで、そのまま予定表へ写せる粗さにしてあります。
年商一千万円台の会社であれば、動く人はほぼ一人です。八月の第一週に、取引先と受け取り経路の一覧を作ります。件数が少ないので、半日あれば埋まります。第二週に顧問税理士へその一覧を送り、保存の残し方で直す点があるかを確かめます。第三週に、指摘があった箇所だけ直す。九月の停止期間は、年に一度の申告時期と重ならなければ素通りで構いません。更改後の初回の提出時に、新しい様式で入力できるかだけを見ておきます。合計しても、動く日数は三日から四日の範囲に収まります。
年商五千万円前後の会社では、経理担当者一名に加えて、社長か管理部門の責任者が判断役として入ります。八月の第一週に一覧づくり、第二週に置き場所の統一。ここでの山場は、月末に届く請求書の受け取り経路を一本化する作業です。メール添付と取引先の管理画面ダウンロードが混在していれば、どちらで受けても同じフォルダに入る形へ寄せます。第三週に会計ソフトの更新予定を提供元へ確認し、更新を当てる日を決めます。第四週に、税理士へ様式の変更点と保存の当てはめをまとめて相談します。九月は、第二週までに八月分の月次を締め切り、停止期間へ入る前に送信すべきものを送り終える。この前倒しが、この規模でいちばん効く一手です。
年商一億円前後になると、購買の窓口が総務・現場・営業に分かれます。八月の第一週は、各窓口の担当者を集めて、それぞれが受け取っている書類を出してもらうところから始めます。経理が一人で一覧を作ろうとすると、必ず取りこぼしが出るからです。第二週に、窓口ごとの保存先を一つに寄せる方針を決め、第三週に各窓口へ手順を配ります。並行して、情報システムの担当者にe-Taxの接続方式の確認を依頼します。第四週に、税理士へ論点を渡す。九月は、第一週に外部からの到着物を受け取り、第二週に社内の手順書と外注先への指示書を差し替え、第三週で停止期間へ備えます。関係者が増えるぶん、待ち時間が入る前提で組む必要があります。
年商三億円以上の会社では、そもそも準備を一人の担当者に紐づけないほうが安全です。八月の頭に、経理・情報システム・各拠点の代表者で三十分の打ち合わせを一度持ち、誰が何を持つかを紙に落とします。以後は、その紙を週に一度更新するだけで進みます。拠点ごとの置き場所の集約には二週間から三週間かかると見ておき、八月中に終わる想定は置きません。情報システム側の接続切り替えは、保守業者の日程が入るため、八月の第一週には依頼を出しておきます。税理士への相談も、拠点ごとの実態が出そろう八月末ではなく、途中経過の段階で一度渡しておくと、九月の手戻りが減ります。この規模では、進行管理そのものが最も重い仕事になります。
四つの流れに共通しているのは、八月に事実を集め、九月の前半で外部との受け渡しを終え、九月の後半は停止期間の回避だけに集中する形です。規模が変わっても、この三段の順序は変わりません。変わるのは、各段にかかる日数と、巻き込む人数だけです。
中小企業が自社で抱え込みやすい仕事と、外に出したほうが早い仕事

中小企業でよく見かけるのは、経理の担当者が一人で全部を抱えてしまう形です。真面目な人ほどそうなります。ただ、抱え込む対象を選ばないと、時間はいくらあっても足りません。
自社にしかできないのは、事実を集める部分です。誰がどの相手先と、どんな経路で書類をやり取りしているか。この情報は社内にしかなく、税理士は聞かなければ知りようがありません。
外に出したほうが早いのは、集めた事実を制度に当てはめる部分です。電子帳簿保存法の省令の要件を読み解き、自社の残し方がそこに収まっているかを見る作業には、慣れの差がそのまま速度の差として出ます。
相談が持ち込まれる場面を見ていると、順番が逆になっている例が多くあります。制度を全部理解してから社内を調べようとして、入口で止まってしまうのです。
先に社内の一覧を作り、それを持って相談したほうが、同じ時間で進む距離が違います。税理士の側も、具体の一覧があれば当てはめの話にすぐ入れます。
中小企業の場合、顧問税理士がすでに月次で帳簿を見ている例がほとんどです。であれば、保存の実態を伝えるだけで、当てはめの判断は既存のやり取りの中に載せられます。新たに何かを立ち上げる必要はありません。
税務調査の備えも同じ考え方で分けられます。事実の一覧は中小企業の側が作り、それが要件に足りているかの判断は、条文を読み慣れた税理士が持つ。この形が、いちばん早く回ります。
もし、いまの顧問税理士とのやり取りが年に一度の決算だけで、こうした相談を持ち込みにくいと感じているなら、それは担当者の力量の問題ではなく、契約の設計が実態と合っていないだけです。制度が動く年は、その不一致が表に出やすい時期でもあります。
抱え込みをやめる判断は、手を抜く判断ではありません。準備の期間は限られています。自社にしか作れないものに時間を寄せる、という配分の話です。
税理士の関与が効くのは、事実の整理ではなく判断が要る場面である
冒頭の問いに戻ります。この準備に税理士が要るのかと聞かれれば、法律が関与を義務づけているわけではない、というのが正確な答えです。ただ、義務かどうかと、任せたほうが早いかどうかは別の問いです。
判断が要る場面は、はっきりしています。電子帳簿保存法の要件に自社の残し方が収まっているか、様式の変更が自社の申告書のどこに当たるか、九月の停止期間と自社の締切が衝突しないか。いずれも当てはめの仕事です。
当てはめは、正解が一つに見えて、前提の置き方で結論が動きます。だから、条文を読める税理士と、自社の実態を知る担当者が同じ机に着く必要があります。片方だけでは決まりません。
ここで効くのが、日頃から自社の数字を見ている税理士かどうかです。取引の流れを知らない相手に一から説明するところから始めると、本題に入る前に日程が尽きます。
税務調査の場でも、同じ相手が同じ理解のまま説明できるかどうかで、費やす日数が変わります。中小企業では担当者が一人しかいない場合も多く、自社の担当者と税理士の二人が説明できる状態にしておく意味は小さくありません。
顧問契約を結んでいるのに、こうした相談を持ち込めていない会社もあります。悪いのは経営者ではなく、相談してよい範囲がはっきりしていない関係のほうです。範囲を一度言葉にすれば、たいてい解けます。
範囲の言葉にし方は簡単で構いません。「制度が変わったときの当てはめは相談したい」「社内の一覧はこちらで作る」。この二行を伝えるだけで、税理士の側も準備の入り方が変わります。契約書を作り直す必要はなく、次の月次の面談で口頭で足ります。
この件は誰に聞けばよいかを即答できる状態を作っておく。税理士の名前と、聞いてよい範囲が同時に出てくる。これが、制度が動く年に効いてくる備えの正体です。
電磁的記録の保存要件は、当てはめを誰が担うかで社内の負担が変わる

電磁的記録という言葉も、法律の中で定義されています。人の知覚では認識できない方式で作られ、電子計算機による情報処理に使われる記録を指す、という書き方です。日常語に直せば、保存されたデータのことです。
保存の要件は財務省令に委ねられており、条文を読んだだけでは自社の可否は決まりません。ここを理解しておくと、電子帳簿保存法の解説をいくつ読み比べても答えが出ない理由が腑に落ちます。
社内の負担がどこまで重くなるかは、当てはめを誰が担うかでほぼ決まります。担当者が独学で読み解こうとすれば、日数も心理的な重さも大きくなり、しかも結論に自信が持てません。税理士に確かめれば十五分で済む論点に、二日を費やす例もあります。
顧問税理士に当てはめを持ってもらえば、経理の側は事実の提供に専念できます。役割を分けるだけで、同じ仕事量が半分の日数で終わる例も珍しくありません。
保存義務者という言葉が示すとおり、義務を負うのは事業者の側です。税理士に任せる判断と、負っている立場が消える話は別ですから、結論だけを受け取って中身を見ないのは避けたいところです。
中小企業では、担当者の異動や退職で理由が失われる場面がよくあります。説明を受けたら、自社の言葉で一行に書き直しておく。そうしておけば、人が代わっても、その結論に至った理由が引き継がれます。
書き残す一行は、税理士から受けた説明の要約ではなく、自社の判断として書きます。「この経路で受け取った請求書は、この場所に、この形で残す。理由はこう」。主語を自社に置いた一行は、次の担当者にそのまま使える指示書になります。
電子帳簿保存法をめぐる問いは、税務調査の場で初めて表に出てくる場合があります。そのときに「前任者が決めました」としか言えない状態は、避けておきたいところです。
この準備期間は、引き継ぎを作り直す口実にもなります。制度に追われている感覚を、社内の整理が進む感覚に変えられれば、同じ手間でも意味が違ってきます。
e-Taxの停止期間から逆算して、九月までの工程を組み直す

工程の起点は、動かせない日付です。国は、令和八年九月十九日の午前零時から二十四日の午前八時三十分まで、および二十六日の一日を、メンテナンスの期間として案内しています。ここに交渉の余地はありません。
この二つの区間を予定表に落としたうえで、自社の申告書の提出期限、納付の期日、月次の締め日を重ねます。衝突している箇所があれば、前倒しするか、経路を変えるかの二択になります。
逆算の順序は単純です。停止期間を置く、締切を置く、そこから二週間手前に社内の準備の完了日を置く。この三点が決まれば、あいだの仕事は自然に並びます。
準備の完了日を締切のぎりぎりに置くと、外部の保守業者や相手先の都合が入った瞬間に崩れます。二週間の余裕は贅沢ではなく、他人の予定が入る前提の設計です。
工程で見落とされやすいのは、社外に依頼する部分の待ち時間です。接続の切り替えも、様式に合わせた帳票の差し替えも、税理士からの回答も、こちらが決めた翌日に届くものではありません。
電子帳簿保存法まわりの当てはめも、同じ列に並べておきます。九月に入ってから聞くのではなく、八月のうちに税理士へ論点を渡しておけば、返ってくる答えの精度が上がります。税理士の側にも他の顧問先の日程がありますから、早い依頼ほど丁寧な回答が返ります。
八月のうちに依頼を出し、九月の頭に到着物を受け取る。この形に持ち込めていれば、更改日そのものは静かに通り過ぎます。準備がうまくいっている会社ほど、当日にやる作業は残っていません。
中小企業では、この工程表を一枚の紙にして壁に貼るだけでも効きます。関わる人数が少ないぶん、全員が同じ紙を見ている状態を作りやすいからです。
【メンテナンス時間(e-Tax利用不可時間)】・令和8年9月19日(土)0:00 ~ 9月24日(木)8:30 ・令和8年9月26日(土)0:00 ~ 24:00
出典:国税庁 e-Taxホームページ「国税システムの更改に伴うメンテナンス時間について」(2026年8月取得)/メンテナンス期間のお知らせ
- 八月中に済ませたい作業……相手先と受け取り方の一覧づくり、社内の分担の割り当て、外部への依頼
- 九月上旬に済ませたい作業……帳票の差し替え、接続の切り替え、当てはめの結論の受け取り
- 九月中旬に置く作業……停止期間にかかる送信の前倒し、締切との衝突がないかの最終点検
- 更改日以降に見る箇所……新しい様式での初回の提出と、社内マニュアルの書き換え
国税庁が出す情報の読み方を決めておくと、更新に気づける
制度が動く年は、情報が小分けに出ます。まとめて発表されるわけではなく、案内が追加されるたびに前提が少しずつ変わっていきます。だから、読む場所をあらかじめ決めておく判断が効きます。
納税者向けの情報は、国税庁のサイトの案内ページにまとまっています。仕様書の類はe-Taxのサイト側にあり、そちらでは「KSK2対応版」という名前が使われています。読者の立場によって、見るべき場所が違うわけです。
経営者や経理の担当者であれば、まず納税者向けの案内を見れば足ります。仕様書の中身まで追う必要があるのは、自社で会計ソフトや連携の仕組みを作っている場合に限られます。
電子帳簿保存法の情報も、出どころは同じ役所です。制度ごとにページが分かれているので、自社に関係する二、三か所だけを覚えておけば十分です。どのページを見ておけばよいかは、税理士に聞けば一度で絞り込めます。
まとめサイトや解説記事から入ると、どの時点の情報なのかが分からなくなります。日付の入った一次の情報を先に見て、そのうえで解説を読む。この順番なら、古い前提に引きずられません。
月に一度でよいので、案内ページを開く日を決めておく。習慣にしてしまえば、更新に気づけないという事故はほぼ起きません。中小企業なら、これを経理の月次の作業に混ぜてしまうのが確実です。
読んだ内容の解釈で迷ったら、その場で結論を出さずに、月次の面談まで持ち越して税理士に確かめる。一次情報を自分で読む習慣と、当てはめを任せる判断は、両立します。むしろ、読んでいる人からの質問のほうが、返ってくる答えは具体的になります。
今回の切り替えは、一度で終わる仕事ではなく、九月までのあいだ小刻みに前提が更新される種類の備えです。情報の入口を固定しておく判断が、そのまま段取りの安定につながります。
更改の日を越えたあとも、しばらくは案内が続きます。税務調査の場で聞かれても困らない状態を保つには、この備えを九月で終わらせず、日々の手順に溶かしてしまうのが結局はいちばん軽い進め方です。
国税システムの更改に伴う仕様公開については、現在稼働中のe-Taxの仕様公開と区別するため、仕様書等には「KSK2対応版」と記載しています。
出典:国税庁 e-Taxホームページ「国税システムの更改に伴うe-Taxの仕様公開と送信試験」(2026年8月取得)/仕様公開と送信試験
税理士コンシェルジュ事務局からのコメント
KSK2対応のご相談で多いのは、制度の理解そのものよりも、どこまでを自社で持ち、どこから先を任せるかという線引きに関するものです。事実の棚卸しは社内でしか作れず、要件の当てはめは慣れた相手のほうが速い。この二つに分けて考えられている会社ほど、九月を静かに通過しています。線引きの引き方そのものに迷いがあるなら、その相談から始めていただいて構いません。