現物出資とは?会社設立時に現物出資を利用する方法と5つのメリット
会社設立時する際、現金による出資が一般的に行われていますが、現金の代わりに現物で出資することもできます。この記事では、会社設立時に現物出資を活用する方法や注意点、メリット、デメリットなど現物出資について分かりやすく解説していきます。
目次
現物出資とは?
会社設立時に現金以外の資産、例えば車や不動産、設備などを現金の代わりに出資することを「現物出資」といいます。通常、自己資金を準備し、出資金と充てることが一般的ですが、現金を使わずに現物出資だけでも会社設立を行うことが可能です。
現物出資の対象となる資産(財産)とは?
会社を設定するにあたり、現物出資として認められている資産には条件があります。それは、①譲渡することができ、②貸借対照表に資産として計上できる、ものです。具体的には次のような資産が挙げられます。
・自動車(ローン支払い中でないもの)、パソコン、OA機器、商品、原材料などの「動産」
・株式や債券など市場価値のある「有価証券」
・土地や建物、マンションなど「不動産」
・営業権、商標権、特許権などの知的財産権など「無形固定資産」
・ゴルフ会員権やリゾート会員権
現物出資をする際の要件
手元資金が少ない起業家でも、現物出資をすることで会社設立が可能となります。しかし、現物出資には、さまざまな規制が設けられています。なぜなら、出資した財産を過大評価し、実際の価値よりも多くの株式を取得する、などの不正が生じる可能性があるからです。したがって、現物出資は金銭出資よりも厳しい規制や要件が設けられています。
現物出資が認められている人
現物出資は、発起人のみが認められています。なお、発起人とは、会社設立にあたり、各種手続きを行う代表者のことです。その条件として、会社法第25条では、「発起人は、株式会社設立に際し、設立時発行株式を一株以上引き受けなければならない」と定めています。
定款への記載が必要
現物出資が認められるには、その旨を相対的記載事項として、定款へ記載しなければいけません。主に次の点を記載します。
・金銭以外の資産を出資する人の氏名、もしくは名称
・当該資産とその価額
・現物出資する人に対して割り充てられる設立時発行株式の数
裁判所による検査役の選任と資産価額の調査
現物出資をする場合、原則として、裁判所に検査役を申し立てる必要があります。その後、裁判所は弁護士や公認会計士が検査役として選任し、現物出資の価額内容の調査が実施されます。ただし、検査役による調査時間は数ヶ月かかるだけでなく、多額の費用も発生します。
しかし、会社法第33条に規定されている要件に該当する場合は、検査役の選任と調査が不要となります。それには次のような要件が求められています。
【検査役の選任と調査が不要になるケース】
・定款に記載され、も記録された価額の総額が500万円以下であること。
・市場価格のある有価証券について定款に記載され、記録された価額が市場価格以下であること。
・現物出資について定款に記載され、記録された価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士の証明を受けていること。なお、現物出資が不動産である場合は、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価が必要となる。
現物出資の不足額の責任者
会社法第52条では、会社設立にあたり現物出資の不足額があった場合は、発起人もしくは設立時取締役が不足額を支払う義務を負う、と定めています。また、この価額評価を証明した弁護士や会計士なども、発起人や設立時取締役同様、不足額の支払い義務が発生します。
ただし、裁判所選任の検査役の調査が行われた場合や、発起人もしくは設立時取締役が、注意しながら職務を行っていたことを証明できる場合などは、現物出資者を除いてその義務を問われることがありません。
現物出資で会社設立をする際の方法
ここでは、前述した裁判所選任による検査役と調査が不要となる、500万円以下の資産で現物出資をする際の必要な手続きをみていきましょう。次のような流れで行います。
ステップ①現物出資する資産の価格を調べる
現物出資をする場合、現物出資の資産額は、資産を購入したおきの購入額ではなく、時価つまり市場価格で計上する必要があります。したがって、出資する現物資産の価格について調査を行い、適正な価値を正しく算出しなければいけません。
例えば、自動車を現物出資したと仮定します。100万円の価値がある現物資産だとして現物出資をしたとしても、後日、市場価値は50万円しかなかったと判断された場合、不足額はどうなるのでしょうか?
会社法第52条によると、不足額を別の現物資産で補てんしなければならない、と規定されています。ですから、現物出資の資産の価格を調べる際には、中古販売サイトやネットオークションサイトなどのツールを上手に活用して、適切な時価を調べることはとても大切です。
ステップ②現物出資を行う旨を定款に記載する
現物出資を行う資産の時価が分かった後は、現物出資を行う旨を定礎に記載します。上記でも簡単に触れましたが、定礎には次の事項を記載しましょう。
・現物出資を行う出資者の氏名もしくは名称
・現物出資を行う資産の情報(商品の名称・製造年月日・型番・製造番号・製造元の会社名など資産を特定できる情報)
・現物出資を行う資産の価格(①で調査した時価)
・現物出資に対して割り当てる株式数
ステップ③調査報告書を作成する
定礎の規定を記載した後は、「調査報告書」の作成です。調査報告書とは、現物出資がある場合に会社設立の登記手続きで提出することが義務づけられている書類のひとつ(株式会社設立登記申請書への添付書類)です。
出資された現物財産の価額が適正か、財産の引継ぎが終了たか、などを取締役が調査し、その結果が妥当と判断されれば、会社の代表者が作成します。
なお、監査役が別途設置している場合は、設立時取締役と設立時監査役の双方で、調査と調査報告書作成をしなければいけません。
ステップ④財産引継書を作成する
現物出資を行う発起人は、設立する際に割り当てられる発行株式を受取り、出資便物を会社に納める際には、「財産引継書」を作成します。財産引継書は、設立時取締役の調査報告書に添付し、設立登記申請書と一緒に法務局へ提出します。
なお、財産引継書は、発起人ごとに作成する必要があります。したがって、複数の発起人がいる場合は、その人数分だけ作成する必要があります。
現物出資をする5つのメリット
では、現物出資をすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
メリット①節税効果を期待できる
現物出資をするメリットのひとつに、まず節税効果を挙げられます。なぜなら、会社設立時に現物出資をすることで、出資現物は会社の財産となります。したがって、減価償却費として経費処理をすることができるため、節税効果を期待できます。
特に機械設備などの資産の場合、固定資産として購入した代金をすべてそのときに計上することはしません。法定雇用年数に応じ、数年間にわたって分割で減価償却費として計上するのが一般的です。
減価償却として経費処理をするということは、会社の利益が減るということにもなりますが、利益が減るなら税金の負担もそれに比例して減ります。したがって、出資現物を減価償却費として計上するなら、節税対策になります。
メリット②資本金を増やせる
会社設立時、出資金は現金だけでなく、現物でも出資することができ、しかも出資総額を増やすことができます。平成18年5月に法改正が行われ、1円以上の資本金があれば誰でも会社を作ることができるようになりました。
とはいえ、資本金を1円にすることは、さまざまリスクやデメリットが生じるため、資本金1円で会社を立ち上げる人はほとんどいません。例えば、資本金の額は、銀行などの金融機関から融資を受ける際に、融資金額を大きく左右してくるだけでなく、あまりにも資本金が少ない場合は、返済力がないと判断され融資を断られることも珍しくありません。
また、新規取引をする際にも、資本金が少なければ顧客獲得が難しくなります。そのため、数十万円から数百万円の資本金を出資することが一般的となっています。つまり、会社設立にはある程度の資本金が必要であり、資本金があれば社会的信用を得やすくなるということです。
ですから、事業を始めたばかりの創業時は資本金が少ないと不利な状況に陥る可能性があるので、現物出資を行い、資本金を増やすことは今後の事業展開にプラスになることでしょう。
メリット③増資の手段として利用できる
現物出資をすることは、事業を運営していく上での増資の手段として利用することにもつながります。特に事業規模を拡大するときや、経営の方向転換をしたいときなどは、増資が必要となります。そのようときは現物出資をすることで、資産を増やせることもメリットと言えるでしょう。
メリット④発起人になれる
会社設立のために現金を用意することができなくても、現物を出資することで発起人になれることもメリットとして挙げられます。例えば、複数人で出資して会社設立をする場合は、他の人と同額の現金が準備できないとしても、同額程度の現物を出資するなら、発起人という同等の立場になることが可能です。
メリット⑤備品など必要コストを抑えられる
事業に必要なものを現物出資するなら、事業をしていくために購入すべきものの出費を抑えることができます。例えば、事業で使用できる自動車やパソコン、OA機器などを出費するなら、それらを購入が不要となるため、設立時のコスト削減につながります。
現物出資のデメリットとは?
では、現物出資をすることのデメリットをみていきましょう。
デメリット①手続きが必要
現物出資をする場合は、その資産が会社の所有物となる手続きをしなければいけません。定款に記載することに加え、その資産が会社のもとのなったことを証明する所有権移転の手続きもする必要があります。
デメリット②不足額が生じた場合は支払い義務が発生する
前述したように、出資した資産の価額を定款に記載し、その価額が適正価額でなかった場合、不足していた場合はその不足額を発起人が支払う義務を負っています。ですから、価額の市場価値を適正に見極め必要があります。
デメリット③譲渡の際には課税される
譲渡する資産によっては、課税対象となることがあります。例えば、不動産を現物出資した場合は、所得税が課税されます。その他にも譲渡する資産の中には、不動産所得税、固定資産税、自動車税、自動車取得税、贈与税などが課税される場合があります。
まとめ
現物出資とは、会社設立時に現金以外の資産を出資することです。現物出資をすることで出資金額を増やすことができるだけでなく、出資金額が大きくなることで社会的信用を得やすくなります。ただし、現物出資をする際には、さまざま手続きが必要となります。
また、現物出資の場合は、現金が実際に会社に入るという訳ではありません。ですから、現物出資はビジネスチャンスを広げる大きな手段のひとつですが、現物出資をする場合は今後の展開も推定し、慎重に判断するようにしましょう。
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