産業競争力強化法ってどんな法律?産業競争力強化法の狙いとは?
「産業競争力強化法」は、アベノミクスの一環として導入された法律です。あまり見聞きしないため馴染みがない方も多いかもしれませんが、中小企業のM&Aや起業を支援するためのさまざまな施策が盛り込まれています。ですから、これから起業をしようと検討している方をはじめとし、中小企業の経営者にとっても、産業競争力強化法について理解しておくことは役立ちます。
この記事では、産業競争力強化法が制定された背景や目的、狙い、改正点など産業競争力強化法についての基礎知識を分かりやすく解説していきます。
目次
産業競争力強化法とは?
産業競争力強化法とは、日本経済の再興のための産業競争力を強化することを目的としたアベノミクスのひとつです。この法律は、2014年(平成26年)1月20日に施行されました。日本経済は「過剰規制」「過少投資」「過当競争」がゆがんでいるという見方を示し、その3つの「過」を是正して産業を活性化することを狙いとしています。では、この狙いと詳しい内容を知る前に、産業競争力強化法ができた背景をみていきましょう。
産業競争力強化法ができた背景とは?
2014年に産業競争力強化法が施行された背景には、19991年にバブル崩壊したときから、2008年のリーマンショックまで続いた経済停滞期が大きく関係しています。1994年の日本の国内総生産のGDPは、世界の17.8%を占めており、アメリカに次ぐ第2位でした。しかし、2012年には8.2%まで低下し、中国に追い越されてしまい第3位になってしまいました。
産業界は、バブル時代はお金が余っていたため過剰投資をしていましたが、世界経済成長率が鈍化することによる、ガードを固めた経営をするようになってしまいました。そのため、この期間は日本の低成長時代として「失われた20年」とも呼ばれています。
この低成長から脱するために産業界に力を入れるため構想されたのが、アベノミクスです。アベノミクスは、第二次安倍内閣として2012~2014年にかけて日本再興戦略が行われました。日本経済の再興を目的とした経済政策は、主に「3つの矢」、つまり、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」を実行することを決めました。その中の第3の矢である「投資を喚起する成長戦略」に盛り込まれたのが、「産業競争力強化法」の成立なのです。
産業競争力強化法の3つの狙い
産業競争力強化法は、2014~2018年までの4年間を「集中実施期間」と定め、いくつもの施策や措置を設け、産業を活性化することを目指しました。具体的には、先述した「過剰規制」「過少投資」「過当競争」の3つの「過」を是正して産業を活性化することです。
・過剰規制
過剰規制とは、産業界に織り込まれていた生産規制、販売規制、環境規制、参入規制、免許規制など多すぎる規制のことです。
・過少投資
1997年時点では約78兆円の民間設備投資をしていましたが、2012年には60兆円まで下回る過少投資になっていました。
・過当競争
過当競争とは、国内企業同士で消耗戦的な競争を激化し、国際競争力が低下している状態でした。
このようにさまざま規制で縛られることで自由に動くことが難しくなり、投資が少なくなり、世界に目を見る余裕がなくなり国内でもがいている状況から抜け出すために、3つの「過」を是正を「産業競争力強化法」で改善することが目的となっています。
産業競争力強化法の内容とは?
産業競争力強化法における主な支援措置には、次のようなものがあります。ひとつづつ確認していきましょう。
1、設備投資の支援装置
設備投資を税制面でサポートするために、次のような3つの制度が設けられました。
・生産性向上設備投資促進税制
この制度は平成29年に終了しましたが、指定されていた期間内に生産性向上設備を導入した場合に、特別償却もしくは税額控除が認められた制度でした。
・中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制とは、機械装置などを取得もしくは製作した場合、取得価額の30%の特別償却もしくは7%の税額控除のいずれかを選択することができる制度です。ただし、税額控除の場合は、個人事業主もしくは資本金が3,000万円以下の法人のみが対象となっています。
・リース手法を活用した先端設備の投資促進
リース手法を活用した先端設備などの投資促進とは、企業に有利な条件で提供するリース業者に対して、損失を補てんする制度です。
2、規制に対する支援装置
規制に悩んでいる方のために、次のような措置が講じられました。
・グレーゾーン解消制度
グレーゾーン制度とは、規制の運用についてあらかじめ行政に照会できる制度のことです。
・企業実証特例制度
企業実証制度とは、法律自体は変わりませんが、企業単位で規制をゆるめるという特例措置を適用させることです。
3、事業再編の支援
事業再編とは、ベンチャー企業を育成するためにM&A、つまり、資金移動と事業編成をサポートするための制度です。次のような支援が設けられています。
・資金調達支援
資金調達支援とは、企業に資金を提供するベンチャーファンドに、中小企業基盤整備機構の債務保証を与える制度のことです。
・登録免許税の軽減
登録免許税の軽減とは、親会社から経営支援を受けて生産性の向上を目指すベンチャー計画を税制面で優遇する制度です。
・損失準備金の積み立てや損金算入を認めること
損失準備金の積み立てや損金算入を認めるとは、事業の切り出しや統合を行う企業を主にサポートします。
4、創業支援
創業支援の取り組みとして、地域における操業を促進するために市区町村の取り組みを国がサポートする制度が講じられました。具体的には次のような支援が設けられました。
・信用保証の特例
信用保証の特例とは、市区町村が金融機関やNPO法人などと連携して支援する事業に対して、信用保証を与えます。
・登録免許税の軽減
登録免許税の軽減とは、上記の信用保証の特例に該当する事業を税制面で優遇する制度です。
・専門家の派遣
専門家の派遣とは、上記に該当する事業に対して、税理士や弁護士などの専門家を派遣する制度のことです。
2018年の改正法で変更したこととは?
産業競争力強化法が2014年1月26日施行され、2018年に4年間の「集中実施期間」を終えました。集中実施期間での成果や問題点を考慮し、2018年には、一部の改正が行われました。では、どのような点が改正されたのでしょうか?それぞれの分野で得た成果と課題点、改正法についてみてみましょう。
・投資促進に関して
旧法では、設備投資を活性化するために産業革新機構を通じて1兆0479億円の投資を実施したり、およそ310億円の認定ベンチャー・キャピタル基金を組成することができました。また、1379自治体の創業支援事業計画を認定したことも成果のひとつです、さらに2014年時点では設備投資は63兆円でしたが、2017年には70兆円まで増えました。
しかし、研究開発型ベンチャーや大型ベンチャーへの投資不足という問題が残されてしまいました。そこで、改正法では産業革新機構を「産業革新投資機構」と改め、設置期限を9年間延長し、イノベーションを支援することを新たな対策として掲げました。それにより、次世代産業の創出と育成に重点を置いて投資することを目指しています。
・規制に対する特例措置に関して
旧法では、企業単位で規制の緩和を認める「企業実証特例制度」を11件認定したり、「グレーゾーン解消制度」を116件適用することで、新規事業に進出するときにはあらかじめ規制を確認することができるようになりました。しかし、認定数や適用数の数が少ないまま終了しました。そこで、改正法では、企業実証特例制度とグレーゾーン解消制度を継続することにし、周知することに力を入れることにしました。
・事業再編の支援に関して
旧法では、48の事業再編計画を認定し、再編を促進することができました。また、過当競争や供給過剰に陥ってしまった業界の実態を調査する取り組みも行うことができました。しかし、資金にゆとりがない新興企業に対しての支援が不足してしまったことが課題として残されてしまいました。そのため、改正法では、会社法の特例措置を設けて、新興企業が自社株を発行しやすくなるよう支援することにしています。
・創業支援に関して
旧法では、集中実施期間中におよそ7万人の創業を実現することができました。しかし、創業に関心を持つ人が少なく、それらの人を対象とした施策を実施することができませんでした。改正法では、創業しようとしている方へ市区町村への創業支援を引き続き行うだけでなく、創業に関して普及することも今後の課題として取り組んでいきます。
改正法でM&Aに与える影響とは?
そもそも事業競争力強化法は、国内の過当競争という状況を是正することが目的のひとつでした。そのため、改正法では、この目的を達成するためにさらなる優遇措置を講じました。それは、自社株式をM&Aの対価として利用することができるように会社法の運用規制を緩和させることにしました。
また、M&Aの際に対価となった株式の譲渡益の課税の繰り延べを認め、税制面での優遇措置も設けました。これにより、余裕資金がない非上場企業たどしても、M&Aが行いやすくなるというメリットを得ることが可能となりました。
まとめ
「産業競争力強化法」は、今まであまり身近に感じることがなかった法律かもしれませんが、2014年に成立されました。その後、4年間の集中実施期間を経て、2018年に改正され、特にM&Aの利用がしやすくなった特例措置が追加されました。M&Aは事業再編に大きな影響力を与えますので、特に事業再編を検討している経営者や創業を検討している方は、「産業競争力強化法」についてしっかり理解しておくことは役立つでしょう。
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