「借方・貸方」の違いや仕訳の方法など複式簿記の基本を分かりやすく解説
「借方」「貸方」という言葉を聞くと、難しいイメージを持たれる方も少なくありません。しかし、企業の経理部門ではお金の取引を記録するための「仕訳」を行う際、借方と貸方に分ける必要があります。この記事では、簿記初心者の方でも理解できるように、借方と貸方の違いや貸借対照表と損益計算書での使い方などについて分かりやすく解説していきます。
目次
仕訳の基礎
借方と貸方を理解するためには、企業の経理の業務のひとつである取引の記録、つまり「仕訳」についての基礎を理解することは大切です。業務で発生する取引は、「資産」「負債」「資本」「費用」「収益」の5つのグループごとに決められた勘定科目を使って帳簿へ記録していきます。
そして、取引を記入する際には、取引を2つ以上の取引要素に分けて記帳します。左側に「借方(かりかた)」、そして右側に「貸方(かしかた)」を記入する一連の取引を記録する作業が仕訳です。
仕訳の基本的な考え方
仕訳では取引が発生した後、その状態から、資産・負債・資本・費用・収益の5つのどのグループに属する取引なのかをまず考えます。グループが決まった後は、そのグループの中に属しているどの勘定科目を使用するか考えて決定し、金額を計算していきます。その後、借方と貸方へと振り分けていきます。
勘定科目とは?
勘定科目とは、性質の類似した取引につけられている名目です。資産・負債・資本・費用・収益の5つのどのグループごとに、利用する勘定科目が決まっています。勘定科目は社内のルールに沿って使用することで、誰が仕訳をしても同じように振り分けることができます。
また、勘定科目は、借方に記入するか、それとも貸方に記入するかによって、金額の増減が決まってきます。資産・負債・資本の3つのグループの勘定科目は貸借対照表に対応しており、残る費用と収益の2つのグループの勘定科目は損益計算書に対応しています。
では、「貸借対照表」と「損益計算書」の借方と貸方について、それぞれ詳しくみていきましょう。
貸借対照表の「借方」と「貸方」
貸借対照表は、英語では「balance sheet(バランスシート」と言われており、その「balance」という意味の通り、貸借対照表には、均衡や残高という意味が含まれています。また、貸借対照表は、「財務三表」と呼ばれる決算書の一部を構成しています。
決算書は、税務署へ提出したり、銀行や取引先などに提出するなど、他の人に開示義務があるとても重要な書類です。このように企業にとって、とても重要な書類である貸借対照表は、借方と貸方で構成されています。
左側「借方」と右側「貸方」に記入するもの
貸借対照表では、左側の借方に「資産」に該当する勘定科目、右側の貸方には「負債」と「純資産」に該当する勘定科目を記入します。借方の資産は、貸借対照表では「資産の部」と記されています。では、まず左側の資産の部に記入するものからみていきましょう。
資産の部は、「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3つに分類されています。繰延資産に関しては、正行寺や開業時以外はあまり出てくることはありません。流動資産と固定資産の代表的な勘定科目には、次のようなものが挙げられます。
・流動資産
現金、預金、受取手形、売掛金、棚卸資産など
・固定資産
有形固定資産:建物、車両運搬具、工事器具備品、土地など
無形固定資産:ソフトウェア、営業権、借地権、商標権など
投資:投資有価証券、その他の投資など
なお、貸借対照表では、特殊な業種でない場合は、流動性の高いものから順番に記載していくことになっています。つまり、流動資産は固定資産よりも、換金可能性の高い性質の資産ということになります。
では続いて、貸借対照表の右側「貸方」に記入していくものをみていきましょう。貸方には「負債」と「純資産」を記入します。負債には「流動負債」と「固定負債」の2種類の負債があります。代表的な勘定科目として、次のものが挙げられます。
・流動負債
支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、未払費用、賞与引当金、未払法人税など
・固定負債
社債、長期借入金、退職金給付引当金
このように負債には、借金や未払金などの返済が必要なものが該当します。また、貸借対照表の貸方は純資産も構成の一部として含まれています。純資産には、次のようなものが分類されます。
・純資産
資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式など
借方と貸方は必ず一致するもの!
貸借対照表は、借方と貸方で仕訳を切ることで作成していくものです。つまり、事業をする上で発生した取引を、勘定科目と金額に置き換えていく作業をしていきます。なお、発生した取引とは、販売してお金を受け取ったり、従業員に給与を支払ったり、取引先に商品を渡して後日お金を受け取る予定・・など、お金の動きが関係している取引すべてのことです。では、いくつかの仕訳例をみてみましょう。
例1:1万円の商品を現金で売った場合
(借方)現金 1万円 (貸方)売上 1万円
例2:事業のために10万円のパソコンを現金で購入した場合
(借方) 工具器具備品 10万円 (貸方)現金 10万円
このように借方と貸方は、常に金額が同額になっていることが貸借対照表の特徴です。つまり、簿記では、仕訳をする際には、左右(借方と貸方)の金額を同額とすることがルールとなっています。しかし、金額は必ず同額になりますが、勘定科目の数まで同じになるわけではありません。
例えば、例2のパソコンを購入する際、ソフトウェア(10万円)も同時に購入した場合は、次のような仕訳になります。
(借方)工具器具備品 10万円 (貸方)現金 20万円
ソフトウェア 10万円
このように借方と貸方の合計金額は必ず一致している必要がありますが、勘定科目の数は異なることもあります。
貸借対照表から経営の安定度を読み取る
貸借対照表を読むことができれば、経営の安定度を把握することができます。なぜなら、貸借対照表では経営の安定度をみる「自己資本比率」を求めることができるからです。自己資本比率は、「自己資本(他人資本+自己資本)÷純資産(負債+純資産)=自己資本比率」という計算式で求めることができます。この計算式であらわされているように、純資産を自己資本、負債を他人資本として使用するケースが多い傾向にあります。
また、純資産は、資本金と過去の利益の蓄積額などで構成されています。そのため、自己資本率が高ければ高いほど借金が少なく、経営が安定していると考えられます。一方、それとは逆に、自己資本率が低ければ低いほど他人資本に頼りながら経営していることが読み取れます。
ちなみに、銀行などの金融機関が融資やその額を判断する際には、自己資本率の数値を参考にしている、と言われています。
損益計算書の「借方」と「貸方」
損益計算書とは、その名前の通り、一定期間にわたり事業を行った結果を計算した書類です。つまり、事業の結果が損益だったのか、それとも利益が出たのかを計算したものです。損失と利益の計算は、収益から費用を差引いて算出します。損益計算書では、左側の借方には「費用」、右側の貸方には「収益」を記入します。
そして、差額で利益、もしくは損失が算出され、黒字の場合は借方に利益、赤字の場合は貸方損失を記載します。損益計算書では、次のようになります。
(借方)費用 (貸方)収益
利益(費用-収益)
また、借方に利益を記入するのは、黒字になった時だけです。赤字もしくは利益が0の場合は、次のようになります。
(借方)費用 (貸方)収益
損失
左側「借方」と右側「貸方」に記入するもの
損益計算書の借方には、費用に属する勘定科目を記入していきます。では、費用にはどのような勘定科目が使用されるのでしょうか?
・費用
売上原価:商品仕入高、材料費、外注加工費など
販売費・一般管理費:給料、旅費、交通費、接待交通費、水道光熱費、広告費、消耗品費、原価償却費など
給料や消耗品費などは費用として迷わず計上することができます。では、損益計算書の右側の貸方に記入するものについてみていきましょう。損益計算書の貸方に記載する収益には、次のようなものが該当します。
・売上高:売上
・営業収益:受取利息(法人のみ)、有価証券売却益(法人のみ)
・特別利益:固定資産売却益(法人のみ)
損益計算書の収益の具体例
損益計算書の借方と貸方の具体例をみていきましょう。例えば、現金で5,000の商品を2個、合計1万円の売上の取引が発生したと仮定します。この場合は、現金で売上げたので売上高として勘定科目は現金を使います。売上高は収益なので貸方へ記入し、借方には現金を使って仕訳をします。つまり、次のような仕訳になります。
(借方)現金 10,000 (貸方)売上 10,000
しかし、数日後に販売した商品が1個返品された場合は、どうすればよいでしょうか?返品された場合は、先ほどの仕訳と逆の仕訳になります。
(借方)売上 5,000 (貸方)現金 5,000
このように取引によっては、売上高や現金など同じ勘定科目だとしても、借方にも貸方にも使われることがあります。しかし、このような商品を販売した場合の仕訳は、借方に現金、貸方売上高が基本形となっています。
貸借対照表と損益計算書の「減価償却費」
減価償却費という勘定科目は、簿記初心者や会計初心者にとっては少し複雑な勘定科目かもしれません。減価償却費とは、営業用の車両や工場の機械設備など、事業をする上で1年以上使用する「固定資産」を、複数年にわたって費用にしていくことです。
つまり、損益計算書は、1年間の事業活動の利益や損失を算定する書類なので、数年にわたって使用する固定資産は、その使用期間にわたって費用処理をすることで適切な利益や損失を算出することができます。このように購入した金額を使用する期間(年数)で負担して減価償却することを減価償却費といいます。
では、減価償却費はどのように仕分けることができるでしょうか?法人が営業用自動車を購入したと仮定し、減価償却する計上をみてみましょう。営業用自動車は貸借対照表上では資産として分類されます。そのため、購入価格は事業用の資産として計上することになります。
(借方) 車両 1,000,000 (貸方)現金 1,000,000
営業用自動車の取得後は、長期間にわたって事業で利用されるため、事業の収益獲得、つまり売上高の獲得に貢献すると考えます。営業用自動車を仮に10年使用するとすれば、1年間で10,000円(1,000,000円÷10年)を費用として計上することになります。このお金の動きを仕訳で切ると、次のようになります。
(借方) 車両減価償却費 10,000円 (貸方) 車両 10,000円
また、損益計算書では、減価償却費を計上した分だけ費用として増加し、利益が減少するという計上になります。そして、事業を長期的に継続していくためには、減価償却費分を収益で回収する必要があります。
なお、貸借対照表では、減価償却費を仕分ける方法が2種類存在しています。ここでご紹介したものは、一般的に使われている「直接法」というものです。その他に「間接法」という仕訳方法もありますが、損益計算書の表示には変わりはありません。
まとめ
貸借対照表でも損益計算書でも、左側が「借方」、右側が「貸方」になります。事業をする上で発生した取引はすべて仕訳を行い、それぞれに属している勘定科目を借方と貸方へと振り分けていく必要があります。貸借対照表の場合は、借方と貸方の左右の金額が必ず一致するというルールを守るようにしましょう。借方と貸方という簿記の基礎をしっかり理解し、貸借対照表と損益計算書の作成に取り組んでいきましょう。
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