支払調書とは?その目的や項目、提出方法など支払調書の基礎知識
「支払調書」とは、年末になると作成し、税務署へ提出する義務のある書類のひとつです。認知度があまりないため、起業したばかりの方の中には、知らない方もいるかもしれません。今回は、支払調書はどのような書類なのか、その目的や記載項目、提出方法など支払調書の基礎知識について解説していきます。
目次
支払調書とは?
支払調書とは、税務署に提出が義務付けられている「法定調書」のひとつです。法定調書とは、税務署が納税者の正確な支払いを把握するための書類で、現在、全部で60種類の法定調書が存在しています。法定調書は、所得税法や租税特別措置法などの規定により義務付けられている書類で、支払調書は法人や不動産業者などの個人に対して提出を義務付けています。
支払調書には、「誰に、どのような内容で、年間いくら支払いをしたか」などの明細を記載し、税務署へ提出します。税務署へ提出するタイミングは、支払いが確定した日に属する年の翌年1月31日までと定められています。このときに支払調書に加え、給与などの支払い金額を合計した「法定調書合計表」も提出しなければいけません。
支払調書の種類
支払調書は、支払先ごとに支払内容や明細などを記載し作成する必要があります。税務署に提出する支払調書60種類のうち主な書類には、次のようなものがあります。
・報酬、料金。契約金及び賞金の支払調書
外交員や税理士などに所得税法等に規定されている一定の報酬、料金、契約金などを支払う方が対象
・不動産の使用料等の支払調書
不動産や借地権など不動産の上にある権利などを借りた場合、その対価を支払う法人や不動産業などの個人の方が対象
・不動産等の譲受けの対価の支払調書
不動産や借地権など不動産の上にある権利などを譲り受けた際、その対価を支払う法人や不動産業などの個人の方が対象
・不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書
不動産や不動産の上にある権利などを売買したり、貸付の手数料を支払ったりする法人や不動産業などの個人の方が対象
支払調書と源泉徴収票の違いとは?
では、支払い調書と源泉徴収票の違いとは何でしょうか?前述したように、支払調書は法的調書のひとつなので、税務署に提出する法的発行義務があります。しかし、報酬や料金を支払った相手に対しては、法的な発行義務はありません。
一方、源泉徴収票は、税務署に提出する義務はありませんが、給与を支払った相手(従業員すべて)に対して必ず発行する義務があります。通常、従業員に給与を支払っている事業所では、11月から12月頃にかけて年末調整が行われます、年末調整では、毎月の給与から天引きしてきた所得税の精算をし、その過不足分の結果は源泉徴収票にまとめます。
つまり、「給与所得の源泉徴収票」とは、事業所側が従業員に1年間でいくら給料を支払ったか、いくら税金を徴収したかが記載されています。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」に記載について
支払調書の中でも、多くの企業が作成する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を例とし、記載項目を確認していきましょう。
記載項目
では、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の記載項目についてみてみましょう。
・支払を受ける者
住所もしくは所在地、氏名もしくは名称、個人番号もしくは個人番号などの現状を記載
・区分
原稿料、講演料、弁護士報酬、税理士報酬などの報酬や料金の名称を記載
・細目
印税の場合は書籍名、教授・指導料の場合は講義名、講義回数など分類を記載
・支払金額
その年度期間中に支払が確定した金額を記載
・源泉徴収額
その年度期間中に源泉徴収すべき税額を記載
・支払者
報酬や料金を支払った人の住所もしくは所在地、氏名もしくは名称、個人番号もしくは法人番号、電話番号を記載
・摘要
診療報酬のうち、家族診療分がある場合、災害により被害を受け、報酬・料金等に対する源泉所得税の徴収の猶予を受けた税額がある場合、広告宣伝のための賞金が金銭以外のものである場合、 支払を受ける者が「源泉徴収の免除証明書」を提出したものである場合に記載
マイナンバーの記載に要注意!
支払調書を作成するにあたり、支払いを受ける者と支払者の双方のマイナンバーが必要となります。支払者が法人の場合は、法人番号を記載しなければいけません。つまり、相手のマイナンバーを知る必要があります。
マイナンバーを教えてもらう際には、利用目的を明確にし、本人に伝えることが義務となっています。その際には、相手の本人確認も必要です。また、マイナンバーを知った後は、利用目的以外は使用することができない、などの制限もあります。
支払調書は、支払いをした事業者が税務署へ提出する書類であり、支払いをした相手に発行する必要はありません。しかし、支払いをした相手に支払調書を発行する事業者が多く、現に一般的となっています。事業者が支払い相手に支払調書を発行するのは、相手が支払い内容を確認するため、もしくは確定申告がスムーズ進むことを目的としています。
つまり、支払相手に発行することは義務ではないため、マイナンバーを記載することはNGです。なぜなら、個人情報提供の制限により、記載することが禁じられているからです。税務署に提出した支払調書と、受領者に発行する支払調書は同じものを使用することはできないということ、また受領者に発行の義務はないことを銘記しておきましょう。
提出必要有無の判断基準
支払調書の提出が必要かどうかは、区分に応じた支払い金額の合計が、一定の金額を超えたときに提出する義務が発生します。合計支払い金額は、その年度の1月~12月までの報酬の合計から、支払調書の作成日時点における未払の報酬合計を差し引いて求めます。したがって、未払の報酬がある場合は、源泉徴収すべき所得税と復興特別所得税の合計を見積もりをしなければいけません。
支払調書の発行義務が生じる報酬金額
支払調書の発行義務が生じる区分に応じた一定の支払い金額は、次のようになっています。
①原稿、講演、デザインなどへの報酬や料金
原稿料、挿絵、写真、デザイン、著作権使用、通訳、翻訳、講演、教授・指導、脚本、版下作成、校正などに関して、1人あたり年間支払額が5万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
②弁護士、税理士など士業に対する報酬や料金
弁護士、税理士、会計士、社会保険労務士、弁理士、司法書士、企業診断士、土地家屋調査士、測量士、建築士、不動産鑑定士、海事代理士、技術士などの業務に関して、1人あたり年間支払額が5万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
③プロスポーツ選手やファッションモデルなどへの報酬や契約金など
プロ野球選手、プロゴルファー、プロテニス選手、プロボクサー、プロサッカー、プロレスラー、プロボウラー、自動車レーサー、競馬の騎手、競輪選手、モーターボートの選手などに支払われる報酬や契約金、モデル業務に関する報酬や料金に関して、1人あたり年間支払額が5万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
ただし、プロボクサーに関しては、1人あたり年間支払額が50万円を超える場合に支払調書が必要。
④外交員、集金人、電力量計の検針人の業務に関する報酬や料金
1人あたり年間支払額が50万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
⑤ホステス、バンケットホステス・コンパニオンなどへの業務に関する報酬や料金
1人あたり年間支払額が50万円を超える場合に支払調書の提出が必要。ただし、芸妓の業務に関する報酬や料金、配ぜん人及びバーテンダーの報酬や料金は対象外。
⑥芸能人や芸能関係の業務に関する報酬や料金
1人あたり年間支払額が5万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
⑦社会保険診察報酬支払基金が支払う診察報酬
1人あたり年間支払額が50万円を超える診療報酬の場合に支払調書の提出が必要。
⑧事業広告宣伝のための賞金
1人あたり年間支払額が50万円を超える場合に支払調書の提出が必要。
➈馬主に支払う競馬の賞金
個人馬主だけでなく、国内法人の馬主に対しても競馬の賞として支払われる場合、金銭で支払われたものが該当。また、その年中の1回の賞与額が75万円を超た場合、その年に支払われた全ての支払金額に対して支払調書の提出が必要。
源泉徴収対象の報酬や料金に含まれるものと含まれないもの
支払った報酬や料金の内訳には、源泉徴収の対象となるものと対象にならないものがあるため、計算するにあたり、それらをしっかり把握しておくことは大切です。
例えば、原稿や講演などに対する報酬や料金の場合、取材費や調査代などの名目で支払いをすることがありますが、直接関係している支払いであるなら源泉徴収の対象になります。また、旅費や宿泊費なども対象に含まれます。ただし、次の2つの点に関しては、対象外とみなされています。
1、支払者が登記や申請をするためことを目的に国等に対して、登録免許税や手数料等にを支払ったことを明確にできる場合
2、一般的に必要な範囲内の交通費や宿泊費等を支払者が直接支払った場合
納めるべき源泉徴収税額の求め方
支払調書の源泉徴収税額には、納めるべき源泉徴収税額を記載します。源泉徴収税額は、「支払金額等の合計×所得税と復興特別所得税を合計した税率(10.21%)=納めるべき源泉徴収税額」という計算式で算出します。なお、算出された額の1円未満の数値は切り捨てます。
消費税の取扱いにも要注意!
支払調書には、通常、報酬にかかる消費税を含めた金額を記載します。しかし、報酬を受ける相手から、報酬と消費税が区分して記載されている請求書を受け取った場合は、消費税を含めない金額を記載しても問題ありません。ただし、その場合は、支払調書の摘要欄に消費税の金額を記載する必要があります。
支払調書の提出方法
支払調書の提出先は、管轄地区の税務署です。提出方法には、①書面、②e-Tax、③光ディスク、の3種類が用意されています。
①書面
書面で提出する場合は、定められている様式に記載する必要があります。書類は、税務署から送付されるものか、税務署のホームページから「手書き用」もしくは「入力用」のPDFをファイルにダウンロードしたものを入手し作成します。書類は郵送、もしくは税務署の窓口へ直接持参して提出します。
②e-Tax(国税電子申告・納税システム)
インターネット経由のe-Taxを利用し、電子申告をする場合は、自宅から好きなタイミングで提出することが可能です。ただし、事前に電子証明書を取得したり、「電子申告・納税等開始届出書」を事前に税務署へ提出したりなどの手続きをしておく必要があります。
③光ディスクなど(CD、DVD等)
CDやDVDなど光ディスクによる電子データを、税務署に提出することも可能です。e-Tax同様、「支払調書等の光ディスク等による提出承認申請書」を事前に管轄地区の税務署へ提出し、申請手続きをする必要があります。
現在、提出枚数が一定の枚数(1,000枚以上)を超える場合は、e-Taxもしくは光ディスク等による提出が義務化されていますので、該当者は注意してください。
支払調書の提出期限
支払調書の提出期限は、報酬や料金などを支払った翌年1月31日までに管轄地区の税務署へ提出することが原則となっています。その際、「給与所得の源泉徴収等の法定調書合計表」を作成し、支払調書に添付して一緒に提出します。
支払調書を提出しない場合は?
支払調書の提出義務者が支払調書を提出しなかった場合や、偽りの書類を提出した場合は、所得税法で最大1年以下の懲役、もしくは罰金50万円以下のペナルティが科せられます。
なお、意図的な偽りではなく、提出した書類に間違いがあった場合は、再提出が認められています。正しい低純にしたがって、速やかに再提出しましょう。また、正しい支払調書を作成できるよう、法や制度に細心の注意を払われることをおすすめします。
まとめ
・法定調書のひとつである支払調書は、特定の支払いをした事業者が、支払金額や明細などを記載した書類を作成し、管轄地区の税務署へ提出することが義務付けられている。
・支払調書の発行義務者は、税務署には提出義務があるが、相手に発行する義務はない。
・支払調書の提出方法には、書面、e-tax、光ディスク(CD、DVD等)の3種類から選択できる。
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
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