労働保険料はどのように決まる?計算方法や年度更新など労働保険のすべて
企業には、一定の要件を満たしている従業員を雇用している場合、「労働保険」に加入させることが義務付けられています。経営者や経理担当者であれば、労働保険は必ず関係してくるため、しっかり基礎知識を理解しておくことはとても大切です。
この記事では、労働保険料の計算方法や年度更新などをはじめとした、労働保険の基礎知識を徹底網羅していきます。
目次
労働保険とは?
狭義の社会保険と労働保険
労働保険とは、雇用保険と労災保険の2つを総称した名称です。どちらも社会保障のひとつです。そもそも社会保障には、「雇用保険」と「労災保険」に加え、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の5つがあります。
これら5つの社会保障は、「広義の社会保険」と呼ばれています。そして、この5つの社会保障は、健康保険・厚生年金保険・介護保険の「狭義の社会保険」と、雇用保険・労労災保険の「労働保険」の2つに分類されています。
なお、「狭義の社会保険」と「労働保険」は、保険料変更の手続きが異なっています。狭義の社会保険の場合、保険料変更手続きは、算定基礎届や月額変更届などの書類で手続きをします。一方、労働保険の場合は、労働保険の年度更新で保険料変更手続きをします。
では、労働保険、つまり「雇用保険」と「労災保険」についてさらに詳しくみていきましょう。
雇用保険とは?
【雇用保険の概要】
雇用保険とは、失業や育児、介護などで働くことが難しくなった場合、被保険者を対象に再就職支援などを目的とした保険給付を行う保険制度。
【雇用保険の加入対象者】
雇用形態を問わず、所定労働時間が週20時間以上で、一定の条件と満たす労働者。(日雇労働者や季節労働者なども含む)また、令和2年度からは、64歳以上の労働者も該当する。
【雇用保険の加入対象にならない人】
雇用という名称の通り、会社の代表者や取締役、個人事業主とその家族など経営者は加入対象外。また企業と委任関係のある外交員も加入対象外。ただし、取締役だとしても、労働者としての報酬を得ている場合は、雇用保険に加入することが可能。
【雇用保険料】
事業主と労働者で負担
【管轄官庁の窓口】
ハローワーク
労災保険とは?
【労災保険の概要】
労災保険とは、労働者の通勤中や業務中に生じた災害などによる疫病、障害、死亡などに遭った被保険者を対象に保険給付を行うことを目的とした保険制度。万が一、労働者が死亡した場合は、保険給付により遺族の生活を支援する。
【労災保険加入対象者】
正社員、アルバイト、パートなど雇用形態を問わず、従業員をひとりでも雇用している事業者は、労災保険に加入する義務が課せられている。ただし、事業所が、「暫定任意適用事業所」に該当する場合は、労災保険加入は任意となる。
【労災保険料】
すべて事業所の負担
【労災保険の管轄官庁の窓口】
労働基準監督署
労働保険料の計算方法
労働保険料、つまり労災保険料と雇用保険料は、どのように算出することができるのでしょうか?労働保険料は、労働者に支払う賃金の総額と保険料率(労災保険料率と雇用保険料率)から算出します。
なお、労災保険料の計算は、毎年4月1日~翌年3月31日までに支払われる見込みのある賃金額と、業種ごとに定められている労働保険料率を用い求めます。通常、6月~7月にかけて、概算保険料を算定することになっています。
労災保険料の計算方法
労災保険料は、「労災保険対象従業員の賃金総額×労災保険料率=労災保険料」という算式で求めます。
【労災保険料率】
労災保険料率は、55の事業の種類に応じて、細かく分類されています。算定された労災保険料は、前述したように、全額事業主が負担します。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、「雇用保険対象従業員の賃金総額×雇用保険料率=雇用保険料」という算式で求めます。
【雇用保険料率】
雇用保険料率は、事業の種類に応じて。一般の事業、農林水産・清酒製造事業、建設事業の3つの種類に分類されており、保険料は9/1000~12/1000と異なっています。なお、雇用保険率は、事業主負担、被保険者負担、雇用二事業率で構成されています。
通常、算出された保険料は、事業主と被保険者がそれぞれ負担します。ただし、算出された保険料をそのまま折半するのではなく、雇用二事業率を除いた分を双方で折半することになります。また、雇用二事業率の場合は、事業主が保険料を全額負担することになります。
労働保険加入の手続き方法
従業員を雇用し、労働保険の加入が適用される事業所となった場合は、「保険関係成立届」と労働基準監督署へ提出しなければいけません。その後、事業所設置の手続きをするため、「雇用保険適用事業所設置届」をハローワークへ提出します。
労働保険の適用条件とは?
労災保険は、アルバイトやパートなど雇用形態問わず、ひとりでも従業員を雇用すれば、保険適用となります。また、雇用保険の場合は、雇用形態問わず、週の労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用継続が見込まれる従業員をひとりでも雇用するなら、保険適用となります。
労働保険料の年度更新とは?
労働保険料は、社会保険料のように毎月納付する必要はありません。労働保険料は、年に1度、6月1日~7月10日までの期間内に、その年度の見込み給与をもとに雇用保険料と労災保険料を算定・申告し、事業主がまとめて前払いすることになっています。
そして、事業主は、労働保険の年度更新でまとめて支払った金額を、従業員の給与から月単位で徴収していきます。この手続きを労働保険料の「年度更新」といいます。
年度更新の手続き内容
事業主は、労働保険料をまとめて前払する「年度申告」をするために、確定保険料と概算保険料の申告・納付・精算の手続きをすると同時に、納付手続きも行います。
【確定保険料の申告・納付・精算手続き】
まず労働保険加入対象となる労働者の前年度(4月1日~翌年3月31日)の賃金総額から確定した労働保険料を算出し、申告・納付の手続きをします。それに加え、前年度の概算保険料の精算手続きを行います。
つまり、算出された確定保険料の額が、前年度に納付した概算保険料の額よりも大きい場合は、当該年度の概算保険料と一緒に追加納付をします。それとは反対に、算出された確定保険料の額が、前年度に納付した概算保険料の額よりも小さい場合は、当該年度の概算保険料に充てることが可能です。
【概算保険料の申告・納付手続き】
労働保険加入対象者となる労働者の当該年度(4月1日から翌日3月31日)に支払われる見込みの賃金総額から労働保険料を算出し、申告・納付の手続きをします。あくまでも概算のため、確定保険料の精算により、納付額が追加されたり、還付されたりすることがあります。
年度更新で必要な書類
年度更新の手続きで提出すべき必要な申告書類などは、毎年5月下旬頃、各事業所宛てに送付されます。それには、次のような書類があります。
・労働保険年度更新申告書
正式名称「労働保険 概算・増加概算・確定保険料/石綿健康被害救済法 一般拠出金 申告書」、通称「労働保険年度更新申告書」」と呼ばれる申告書には、あらかじめ労働保険番号、事業所の所在地・名称、保険料率などが印字されています。
また、書類の右上部にはアクセスコードが印字されているため、電子申請を希望する場合は、それを入力することで、前年度の申告内容をスムーズに取り込むことができます。
・領収済通知書
領収済通知書とは、申告書の下部にある保険料の納付書のことです。
・賃金集計表
正式名称「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」、通称「賃金集計表」は、申告書を作成する際に使用する賃金集計表です。この書類は提出する必要はありません。
・労働保険年度更新申告書の書き方
労働保険年度更新申告書の書き方とは、申告書と一緒に同封されてくる、申告書の書き方について説明されている冊子です。
年度更新の申告・納付時期
年度更新の申告・納付は、「毎年6月1日~7月10日」までと期間が定められています。(最終日が土日祝日の場合は変更する場合もあります)この定められている期間中に、金融機関や管轄地区の都道府県労働局、労働基準監督署などに年度更新の申告・納付をする必要があります。
年度更新の対象期間
労働保険は、4月1日~翌年3月31日までの1年間を保険年度として定めています。したがって、労働保険料は、この1年間に支払った賃金の総額に保険料率を乗じで計算します。なお、社会保険料や税金などを計算する場合は、賃金の支払い日が基準とされるケースが多いですが、労働保険料の年度更新の場合は、その賃金を発生日の基準としています。
つまり、毎月の給与を月末締め、支払い日を翌月15日にしている場合は、4月15日に支払れた給与は、労働保険料の年度更新では、3月分の賃金とみなされるということです。
労働保険の年度更新手続きの流れ
年度更新の申告書を作成するにあたり、どのような流れで年度更新手続きをすればよいのか順を追っていきましょう。
ステップ①労働保険の加入対象者の確認
まず労働保険加入の対象となる労働者と、加入対象外の労働者の数を把握する必要があります。(加入条件については上記を確認ください)前述したように、退職者だとしても、退職するまでの賃金が申告対象となるため、申告しなければいけません。
ステップ②前年度の賃金台帳を準備と作成
賃金集計表を作成するために、前年度の賃金集計表を準備し、それを参考に作成します。賃金集計表は、申告書を作成する前に、労働保険の対象となる労働者と、雇用保険の被保険者の1年間の賃金総額を確認するために使われます。
保険加入対象者を区分し、前年度の賃金台帳を参考にしながら、給与を支払った月ごとの人数と合計額、賞与を支払った月ごとの合計額を記入し、1年間の賃金総額を求めます。(労災保険の対象となる賃金については、後述します)
なお、作成した賃金集計表は、前述したように、申告書と一緒に提出する必要はないため、申告書の事業控えと一緒に保管しておきましょう。
ステップ③年度更新申告書の作成
②で作成した賃金集計表をもとに、申告書の作成していきます。書類の上部には「確定保険料」、中部には「概算保険料」を記載します。
ステップ④労働保険料の申告・納付
年度更新申告書が完成したら、申告・納付です。前述したように、毎年6月1日~7月10日までに期間内に行います。なお、申告・納付には、3つの方法から選択することができます。
申告・納付方法①窓口
年度更新の申告・納付の一般的な方法は、金融機関、管轄地区の都道府県労働局、もしくは労働基準監督署のいずれかの窓口に直接、申告書の提出と保険料の納付をすることです。
年金事務所内に設置されている社会保険・労働保険徴収事務センターの窓口でも申告書を提出することは可能ですが、保険料の納付をすることができません。
また、第3種特別加入保険料(海外派遣者に係るもの)などの申告を行う場合は、申告書に加えて、添付書類も一緒に提出する必要があります。ただし、添付書類に関しては、金融機関と社会保険・労働保険徴収事務センターに提出することはできないので注意してください。
申告・納付方法②郵送
申告書と添付書類は、管轄地区の都道府県労働局宛に郵送提出することができます。申告書の2枚目の「事業所控え」に受付印が必要ば場合は、申告書と一緒に返信用封筒(切手貼付)を同封するなら、後日、返送してくれます。
なお、郵送提出の場合は、保険料の納付は別途となります。つまり、金融機関などに足を運び、納める必要があります。
申告・納付方法③電子申請
年度申告・納付は、電子政府「e-Gov(イーガブ)」を利用した電子申請でも提出できます。電子政府「e-Gov(イーガブ)」とは、各府省が提供している行政情報や、各府省に対してオンライン申請や届出などのサービスを提供している政府が主体となったポータルサイトです。
電子申請では、申告はもちろん、保険料の納付も電子納付することが可能です。ただし、電子申請を利用するには、電子データの安全性を確保するために「電子証明」の取得が必要です。つまり、事前の準備が必要となります。
なお、2020年4月から、特定の法人は電子申請が義務化されています。中小企業や個人事業主などは、今の段階では電子申請は義務化されていませんが、将来義務化されることが予想されます。ですから、今のうちに準備を進めておくことができるかもしれません。
労働保険の対象となる賃金・対象にならない賃金
労働保険料は、加入対象者の賃金総額に労災保険料率と雇用保険料率をかけて算出します。労働保険における賃金とは、事業主が労働保険加入対象従業員に対して支払う賃金、手当、賞与、その他名称を問わず労働の対価として支払うすべてのものが含まれます。そして、税金や各種控除する前の支払い総額のことです。
したがって、事業主や経理担当者は、労働保険料を算出するにあたり、労働保険における賃金には、何が含まれるのかを理解しておくことはとても大切です。
なお、賃金とは労働の対価として支払われるものです。ですから、役員報酬や退職金(前払いの場合は除く)などは賃金には含まれません。では、労災保険の対象となる賃金と対象にならない賃金の具体例をみていきましょう。
【対象となる賃金】
基本賃金(時間給・日給・月給など)賞与、通勤手当、定期券、回数券、各種手当(超過勤務手当・深夜手当・残業手当・扶養手当・子ども手当・家族手当・技能手当・特殊作業手当・教育手当・休業手当・地域手当・宿直手当など)、昇給差額、前払い退職金など
【対象にならない賃金】
役員報酬、慶弔費(結婚祝金・災害見舞金・勤続褒賞金など)、退職金、出張旅費、宿泊費、工具手当、寝具手当、休業補償費、解雇予告手当、傷病手当金、持家奨励金、会社が全額負担する生命保険の掛金、財産形成貯蓄等のため会社が負担する奨励金など
まとめ
労働保険の年度更新とは、年に1度、その年度に支払われる見込みの賃金の総額を算出し、労災保険料と雇用保険料を算定、申告し、会社が全額を前払する制度のことです。
労働局から送付される申告書を作成し、6月1日~7月10日の間に申告・納付することが義務づけられています。労働保険加入対象となる従業員の数が多ければ多いほど、手間と時間がかかります。ですから、労災保険の対象となる賃金と対象にならない賃金をしっかり理解しておくことはとても大切です。
自社で労災保険の年度更新手続きをすることもできますが、社会保険の専門んかである社会保険労務士や、税理士などの専門家に年度更新手続きを依頼することもひとつの方法です。年度更新手続きが大きな負担となっているなら、依頼を検討してみるのはどうでしょうか?
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
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