法人税等調整額とは?役割・計算方法・仕訳について解説
決算書の勘定科目のひとつとして掲載されている「法人税等調整額(ほうじんぜいとうちょうせいがく)」。法人税等調整額とは、一体どのような科目なのでしょうか?本記事では、法人税等調整額に付いて詳しく解説していきます。
目次
法人税等調整額とは?
法人税等調整額とは、決算書のひとつである損益計算書に計上される勘定科目です。企業の所得を決算する際、企業会計の利益と、税務会計の課税所得の相違を調整するときに使う額のことです。
そもそも企業は、年度で得た利益から法人税を計算し、納税することが義務づけられています。その際、企業が会計で算出した所得額(損益計算上の税引前当期純利益)と、法人税法に基づく課税所得額が必ずしも一致するわけではありません。
なぜなら、企業会計と法人税法による財務会計では、所得額の計算方法が異なるからです。もしも額が一致しないまま計上すると、損益計算上の利益と税金費用に相違が生じてしまい、税引後の当期純利益が適切に反映されなくなってしまいます。
そこで企業会計と税務会計のズレを解消するために、「法人税等調整額」を使います。なお、法人税等調整額を計上する会計処理のことを「税効果会計」といいます。
企業会計と税務会計の課税所得に相違が生じる理由
企業会計と税務会計の課税所得の相違には、いくつかの理由があります。ここでは、以下の3つの理由について解説します。
①費用の扱い方の違い
②固定資産の計上の違い
③時価会計の計上の違い
では、ひとつずつみてみましょう。
①費用の扱い方の違い
企業会計と財務会計は、費用の扱い方が異なるため相違が生じます。つまり、企業会計では費用として計上できるものが、財務会計では費用として認められていないものがあるからです。
その一つの例として、企業会計では交際費に上限がありません。よって、金額に左右されずに交際費を費用として計上することができます。
それとは対照的に、財務会計では、交際費に損金参入できるのは800万円までと上限が定められています。このように計上できる費用に違いがあるため、課税所得が変わってきます。
②固定資産の計上の違い
また、法人税は、固定資産の計上方法が異なるため、企業会計と財務会計で差異が生じることがあります。企業会計では、固定資産が今後何年使えるかを基にして、経費を計上します。一方、財務会計では、固定資産ごとに何年で経費にするか「法定耐用年数」を決めなければいけません。
例えば、20億で購入した機会が4年間使用できると見積もった場合、企業会計では5億を経費として計上します。一方、財務会計では固定資産の種類ごとに〇〇年で経費にしなさい、法定耐用年数が定められているルールに従う必要があります。使用期間が10年と定められているなら、1年あたりの経費は2億となります。
よって、企業会計では5億と計上、財務会計では2億と計上するため、3億の差額が生じることになります。
③時価会計の計上の違い
企業会計と財務会計は、時価会計の計算方法も違うため差異が生じます。そもそも時価会計とは何でしょうか?時価会計とは、資産と負債を決算期末での時価で評価し、財務諸表に評価した時価を反映させることです。
企業会計では、保有資産の時価が下がったときに、その分を経費として計上します。一方、財務会計では、一度購入した資産は、購入時の時価をそのまま維持し続けるという考え方をしています。つまり、財務会計には時価会計という概念が全くありません。そのため、両者には差異が生じるのです。
例えば、20億で購入した土地が時価10億まで下落している例をみてみましょう。企業会計では差額10億分だけ計上しますが、税務会計では時価会計を認めていないため、その資産を保有している限り20億で計上します。
このように企業会計と財務会計では、所得額の考え方や計算方法が異なるため、ズレが生じます。よって、この相違のズレを解消するための勘定科目「法人税等調整額」が必要となります。
税効果会計の適用対象企業
税効果会計は、上場企業や一部の非上場会社で義務付けられています。また、金融商品取引法の規制を受けている企業も税効果会計の適用対象となっています。
一方、中小企業では、税効果会計は義務付けらておらず任意です。ただし、親会社が税効果会計を適用している場合は、中小企業であったとしても適用するのが理想的といわれています。
「一時差異」と「永久差異」
企業会計と財務会計で生じるズレには、「一時差異」と「永久差異」と呼ばれる2種類の差異があります。そのうち税効果会計の対象となるのは、「一時差異」のみです。では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?それぞれの特徴をみてみましょう。
税効果会計の対象となる「一時差異」
一時差異とは、会計上の費用、収益の額、財務上の損金と益金の差異が、将来年度に解消されるもののことです。主な一時差異として、貸倒引当金繰入超過額、減価償却費、賞与引当金、退職給付引当金、繰越欠損金などが挙げられます。
なお、一時差異は、「将来減算型」と「将来加算型」の2種類あります。
・「将来減算型」
将来減算型一時差異は、一時差異を解消する際、課税所得を減額する一般的な一時差異です。具体的には、一時差異が発生した年の税引前当期純利益に差異の部分を加算し、差異が解消される年度に税引前当期純利益から差し引きます。
よって、将来的に、将来減算一時差異を減らすことができます。つまり、法人税等の税金の軽減に効果につながります。
・「将来加算型」
将来加算型一時差異は、一時差異が埋まるときに課税所得を増額する一時差異です。具体的には、将来加算一時差異が発生した年度の税引前当期純利益に差異が減算し、差異が解消される年度に税引前当期純利益に足します。
よって、将来的に、将来加算一時差異は、将来の課税所得を増やすことができます。つまり、法人税等の税金を増やす効果につながります。
税効果会計の対象にならない「永久差異」
永久差異は、本記事で解説している勘定科目「法人税等調整額」を使う「税効果会計」の対象ではありません。なぜなら、一時差異とは異なり、会計上の費用と収益、税務上の損益と益金の扱い方や考え方が異なるからです。
永久差異では、将来年度においても、会計上の費用と収益、財務状の損益と益金の差は解消されません。よって、税効果会計の適用対象にはなりません。
「法定実行税率」とは?
「法定実行税率」とは、税効果会計の「法人税等調整額」を計算する際に使用する税率のことです。つまり、法人が実質的に負担する利益に対して支払う法人税、住民税、事業税を合算した税率です。
では、法定実行税率を使って、どのように計算するのでしょうか?法定実行税率の計算は、以下の通りです。
法人実行税率=法人税率×(×(1+住民税率+地方法人税率)+事業税率 )/(1+事業税率)
一時差異を計上する「繰延税金資産」と「繰延税金負債」
税効果会計の対象となる一時差異が発生した場合は、「繰延税金資産」と「繰延税金資産」のいずれかに計上します。では、両者の特徴についてみてみましょう。
参照:国税庁「法人税の税率」
「繰延税金資産」とは?
繰延税金資産は、一時差異が解消する事業年度における前払いの税金費用のことです。一時差異解消時に課税所得が減少する将来減算一時差異を繰延税金資産として計上します。
つまり、繰延税金資産が増加した場合は、将来実際に支払う法人税などの金額を減額するものとして、法人税等調整額として計上します。
例えば、減価償却費が会計上において税務上で認められたとき、多額の金額が計上された場合は、両者の差額の分に一時差異が生じるため「繰延税金資産」として計上します。
なお、会計上では、前払い税金費用としてみなされます。よって、将来減算一時差異が確実な場合のみ、前述した「法定実効税率」を使います。
【計算式】
繰延税金資産に計上する金額:将来減算一時差異×法定実効税率
【仕訳】
発生時
(借方)繰延税金資産 /(貸方)法人税等調整額
解消時
(借方)法人税等調整額 /(貸方)繰延税金資産
「繰延税金負債」とは?
「繰延税金負債」は、一時差異が解消する事業年度における未払いの税金費用のことです。つまり、一時差異が解消した際には、未払い税金費用として「繰延税金負債」を計上します。
繰延税金資産が増加した場合、将来支払う税金が増加するため、それを減らすために法人税等調整額として計上します。
例えば、有価証券の評価益を計上するときに、「繰延税金負債」として計上します。
【計算式】
繰延税金負債に計上する金額:将来加算一時差異×法定実効税率
【仕訳】
発生時
(借方)法人税等調整額 /(貸方)繰延税金負債
解消時
(借方)繰延税金負債 /(貸方)法人税等調整額
税効果会計の計算手順
ここまでで「法人税等調整額」は、「税効果会計」の際に使用する勘定科目であることを解説してきました。税効果会計の手順をまとめると以下の通りになります。
ステップ①
会計上の収益と費用、税法上の課税所得の計算に使用する益金と損金の計上時期に生じる差異「一時差異」を算出する。
ステップ②
算出した「一時差異」に「法定実効税率」乗じ、「繰延税金資産」と「繰延税金負債」を算出する。
ステップ③
繰延税金資産と繰延税金負債の差額を算出し、期首と期末で比較した増減額を「法人税等調整額」として損益計算書に計上する。
これらのステップを踏むことで、会計上の利益と税務上の課税所得を調整することができます。
法人税等調整額を計上する税効果会計のメリット
法人税等調整額を計上する税効果会計は、上場企業に適用が義務付けられていますが、これにはメリットがあります。そのため、税効果会計が義務付けられていない企業でもメリットが得られるため、行う価値があると言えるでしょう。ここでは以下の2つのメリットをご紹介します。
メリット①決算が分かりやすくなる
税効果会計を適用すると、企業会計による損益と、法人税に関係が分かりやすくなるため、法人税を納めた後の企業の財務状況が分かりやすくなります。よって、株主に対しても、正確な決算報告をすることができます。
メリット②自社の財務状況がよく分かる
税効果会計を適用させた損益計算書には、正確な経営状態を反映した「当期純利益」が記載されます。つまり、自社の正確な財務状況を把握することができます。よって、今後の改善点を見つけることができ、経営戦略へとつながります。
まとめ
「法人税等調整額」は、企業の所得を決算する際の企業会計の利益と、税務会計の課税所得で生じる際のズレを計上する際に、損益計算書で使う勘定科目の一つです。会計用語で「税効果会計」といいます。
法人税等調整額を使用する税効果会計は、主に上場企業に適用が義務付けられていますので、該当する企業は適用しましょう。
なお、税理士コンシェルジュの税理士紹介サービス税理士紹介公式サイト-顧客満足NO.1【税理士コンシェルジュ】では、無料で税理士をご紹介しています。会計に関してご不明な点がある場合は、専門家である税理士へお気軽にご相談ください。
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