出勤簿とは?その役割や目的、記載事項、作成方法を解説
近年、働き方改革やリモートワークなど、勤怠管理について注目されています。そして、労働基準法では、企業に出勤簿を付けることを義務付けています。もしも怠るのであれば、法律違反となります。
なぜ出勤簿は必要なのでしょうか?出勤簿には何を記載すればよいのでしょうか?この記事では出勤簿の目的や役割、記載する内容、保存期間、勤怠管理方法などについて詳しく解説していきます。
目次
出勤簿とは?
出勤簿は「法定三帳簿」のひとつ
出勤簿は、労働基準法で定められている「法定三帳簿」のひとつです。法定三帳簿とは、「出勤簿」「労働者名簿」「賃金台帳」の3つの帳簿のことです。出勤簿には、労働者の労務管理を適切に行うために、事業所に常に備え付けるよう義務付けています。
なお、労働基準法第108条では企業に出勤簿を作成することを義務付けるだけでなく、記載事項として労働日数、労働時間、時間外労働、休日労働、深夜労働を行った時間数を管理するよう定めています。
出勤簿の役割・目的
では、なぜ労働基準法で出勤簿の備え付けを義務付けているのでしょうか?それは労働者の自己申告制の労働時間を把握するだけでは、労働基準法がしっかり守られているかどうかが分からないからです。例えば、労働基準法では、労働時間と休日に関して、以下のような規定を設けています。
・使用者は、原則として、1日に8時間、1週に40時間を超えて労働させてはいけない。
・使用者は、労働者が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけない。
・使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければいけない。
つまり、労働基準法では、労働時間や法定時間外労働、休日労働について、また割増賃金を支払う義務について明確な規定を定めています。もしも守ることができなければ、法律違反になります。しかし、近年、企業の中には、割増賃金の未払いや長時間労働など、労働時間を適切に管理していないところもあります。
このような現状から、労働基準法で定めている規定が守るためには、出勤簿での労働時間の把握が必要です。なぜなら、自己申告制による労働時間の記録だけでは、労働時間を適切に管理しなかったり、違法な長時間労働をしたりなどのトラブルを招く可能性があるからです。そのため、企業に出勤簿を備え付けるようにと義務付けています。
タイムカードと出勤簿の関係
労働者の勤務時間(出勤・退勤)を管理するために、タイムカードを導入している事業所も多くあります。しかし、タイムカードは必ずしも打刻された時間が正確な出勤時刻、退社時刻を反映しているというわけではありません。
ですから、タイムカードを出勤簿として使用する場合は、作業日報や残業許可証などの補足資料と照合し、適正に打刻されているかどうかをチェックする作業が必要です。
2019年4月の労働基準法改正の変更点
2019年4月の労働基準法改正により、自己申告で労働時間を把握することが禁止されました。よって、労働時間は客観的に把握しなければいけません。なお、客観的な労働時間の把握方法とは、ICカード打刻、スマートフォン打刻、入退室履歴による勤怠、PCより打刻、タブレットより打刻などの方法が、厚生労働省で一例として定められています。
出勤簿に記載すべき対象者は?
出勤簿に記載すべき対象者は、原則、全従業員です。正社員だけでなく、パートタイムやアルバイトなど雇用形態を問わず記載します。ただし、労働基準法第41条第2項で定められている「管理監督者」に該当する場合は、出勤簿から除いてもよいとされています。
なぜなら、管理監督者は経営者と同じく、従業員を管理する立場にいるからです。また、従業員とは違い、自身の判断で出退勤を管理し、仕事に関しても自由に判断できる立場にいるため、管理監督者の勤務状況は出勤簿に記載しなくてもよいことになっています。
出勤簿への記載事項とは?
出勤簿には、以下のような記載事項を記載します。
・労働者の氏名
・日別の労働時間数
・出勤日と労働日数
・時間外労働を行った日付と時刻・時間数
・休日労働を行った日付と時刻・時間数
・深夜労働を行った日付と時刻・時間数
では、ひとつづつ確認していきましょう。
【労働者の氏名】
まず記録される労働者の氏名を記載します。
【日別の労働時間数】
出勤簿には、労働者一人ひとりの労働時間を日別に記載しなければいけません。つまり、出社時刻・退社時刻・休憩時間などについても記載する必要があります。本人からの自己申告だけでなく、客観的な記録も残すよう義務付けられていますので、毎日労働時間を正確に記録しましょう。
【出勤日と労働日数】
労働者が出社した日、労働した日数も記録します。実際に出社していなくても、出張やリモートワークなどで労働している場合も忘れずに記録しましょう。
【時間外労働を行った日付と時刻・時間数】
労働者が時間外労働を行った場合も、行った日付と時刻、時間数を出勤簿に正確に記録する必要があります。なお、時間外労働とは、原則、労働時間が1日8時間、もしくは1週間で40時間を超えた時間のことです。
【休日労働を行った日付と時刻・時間数】
労働者が休日労働を行った場合も、行った日付と時刻、時間数を出勤簿に正確に記録する必要があります。なお、休日とは1週間に1日、もしくは1ヶ月に4日以上と定められている範囲を超えて働いた場合、休日労働として扱われます。
【深夜労働を行った日付と時刻・時間数】
深夜労働とは、夜の22時から翌5時までの間の労働のことです。労働者が深夜労働を行った場合も、行った日付と時刻、時間数を出勤簿に正確に記録する必要があります。
出勤簿の書式・形式は?
出勤簿の書式に関しては、労働基準法などの法令では特に定められていません。今までは手書きによる紙の出勤簿が一般的でしたが、近年では電子媒体を使用した出勤簿の利用が増えています。ですから、手書きや電子媒体など使用しやすいものを自由に選ぶことができるでしょう。
では、出勤簿の主な形式を簡単にご紹介しましょう。
【手書き】
手書きの場合、カレンダー仕様の紙に記載していきます。一枚の用紙にすべての情報をまとめられるというメリットがあります。しかし、不正申告が生じる可能性もあるので注意が必要です。
【エクセル】
エクセルを使った出勤簿は、エクセルに数式を設定し、労働者が出社時刻と退社時刻を入力することで自動的に労働時間を計算することが可能です。無料のテンプレートもあるため、低価格で導入することができるでしょう。ただし、労働者自ら入力するため、手書き同様、不正申告や入力ミスなどが生じる可能性があり、未払い賃金などの問題が起きるリスクもあります。
【勤怠管理システム】
クラウド勤怠管理システムでは、スマートフォンやタブレット、パソコンなどから打刻することができるうえ、集計を自動でしてくれます。そのため、計算ミスや入力ミスを回避できることはもちろん、作業の手間を省けるため業務の効率化にもつながります。
一般的な勤怠管理システムには、打刻機能、ワンクリックでの出退勤簿承認・残業や休暇などの電子申請と承認、勤怠情報の集計や管理機能、データ出力機能、スケジュール管理機能、シフト管理機能などが搭載されています。
また、インターネット環境があれば、会社以外の場所からも勤怠管理ができるというメリットもあります。しかし、導入コストがかかることやセキュリティ対策などを検討する必要があるでしょう。
システムで管理するメリットとデメリット
出勤簿には定められた書式はありませんが、上記でご紹介した中で、おすすめはクラウドの勤怠管理システムの利用です。特に労働者の数が多い企業の場合、管理が行き届きにくくなる可能性があります。しかし、システムを導入するなら、正確な管理が行き届くことでしょう。具体的には、以下のようなメリットを期待できます。
・労働者の出勤状況を正確に把握できる。
・リモートワークや在宅勤務などのテレワークでも打刻することが可能。
・直行直帰や出張など、会社以外でも打刻することが可能。
・勤務日数や労働時間などが容易に把握できるため、労働基準法違反などの対策にもつながる。
・集計も容易にできる。
・法改正や保険料率、税率変更にも自動で対応できる。
システムを導入するなら、正確な管理がしやすいだけでなく、業務の効率化にもつながります。一方、以下のようなデメリットも考慮しなければいけません。
・システム導入にはコストがかかる。
・使いこなすことができなければ無駄な出費となる。
勤怠管理システムといっても、無料のものから有料のものまであります。無料でも使いにくいのであれば、導入が失敗となってしまう可能性があります。ですから、勤怠管理システムを導入する際には、メリットやデメリットを把握することはもちろん、自社に必要な機能や自社の就業形態に対応しているものを検討しましょう。
出勤簿の法定保存期間
3年間の保存義務
出勤簿は、労働基準法第109条で定められている「賃金その他労働関係に関する重要な書類」に該当するため、原則、3年間の保管が義務付けられてます。ここで定められている3年間とは、労働者が働き始めた日ではなく、最後に出勤簿が記入された日から起算した3年です。なお、解雇や退職した労働者の出勤簿も、3年間保存しなければいけません。
なお、パソコンなどで保存する場合は、以下の要件を満たさなければいけません。
・法令で定められている要件を具備した上で、各事業ごとに画面上に表示し、印字できるようにすること。
・労働基準監督官の隣検事など、直ちに必要事項が明らかにできるシステムにすること。
・誤って消去されることがないようにすること。
・長期間にわたって保存できること。
罰金が科せられる可能性も!
もしも出勤簿を3年以内に破棄したり、紛失してしまったりした場合は、労働基準法第120条に基づき「30万円以下の罰金」がペナルティとして生じる可能性があります。また、労働違反をしたことが世間に知られると、社会的信頼を失うことでしょう。
ですから、出勤簿を大切に保管するために、保管場所や責任者などを対策の一環として決めることができるかもしれません。
迅速な対応が求められている
すでに見てきたように、出勤簿は正確な賃金を支払うために、労働者の労働時間を正確に把握するための重要な書類です。そのため、正確な記入と管理保存をしなければいけません。また、万が一間違いがあった場合は、迅速に対応することが求められています。そうすることで生じるかもしれないトラブルを回避することができ、雇用主と労働者の間で信頼関係を構築することができるでしょう。
まとめ
出勤簿は、雇用主が労働者に対して、適切な賃金を支払うために欠かすことができない労働基準法で定められている重要な資料のひとつです。つまり、労働者の労働時間を正確に把握することはとても大切です。
万が一出勤簿への記録を怠るなら、後々、未払い賃金や長時間労働など労働基準法違反に該当するリスクもあります。このような事態を回避するためにも、毎日、出勤簿の記録をとることを忘れないようにしましょう。また、正確な記入をすることに加え、定められた期間の管理と保存も行いましょう。
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