算定基礎届とは?社会保険料の手続きに欠かせない基礎知識
算定基礎届とは、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料を計算する際に決定した「標準報酬月額」を、年金事務所へ提出する書類のことです。提出が義務づけられているため、事業主であれば、算定基礎届の書き方をマスターしておくことは必須です。
この記事では、社会保険料計算や手続きに欠かすことができない基礎算定基礎届の基礎知識について徹底解説していきます。
目次
算定基礎届とは?
社会保険とは?
算定基礎届について理解するためには、まず社会保険について理解する必要があります。社会保険には、国民健康保険や健康保険、後期高齢者医療保険などの「公的医療保険」と「公的介護保険、」国民年金や厚生年金保険などの「公的年金」などが該当します。
これらの保険の中でも、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つは、総称「社会保険」とも呼ばれています。法人の場合、業種に関わらず社会保険に加入することは義務づけられています。そして、事業主は各従業員の代わりに、社会保険料を納める必要があります。
社会保険料は各従業員によって異なるため、事業主や担当者は、社会保険料の算出方法を理解しておくことは必須です。その際、「標準報酬月額」を求めて社会保険料を算出します。では、標準報酬月額をはじめとし、算定基礎届がどのような書類なのかをみていきましょう。
算定基礎届の基礎
事業主は、毎年1回、7月上旬に、その年の4月~6月の3ヶ月間の平均給与額から、被保険者の健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料の社会保険料を算出するために「標準報酬月額」を決定します。これを「定時決定」といい、7月上旬に年金事務所に届ける書類を「被保険者報酬月額算定基礎届」と言います。
つまり、「算定基礎届」のことです。この書類を提出することは義務づけられているため、担当者は算定基礎届が必要な理由や手続き方法などを理解しておくことはとても大切と言えるでしょう。標準報酬月額の等級は、健康保険と厚生年金保険では等級の区別が異なっています。
健康保険の等級の場合は、第1級の5万8,000円(6万3,000未満)~第50級の139万円(135万5,000円以上)までの全50等級で区分されています。一方、厚生年金保険の等級は、第1級の8万8,000円~第31級の62万円までの全31等級で区分されています。そして、被保険者の各都道府県が設定している等級ごとの社会保険料を負担します。
算定基礎届(定時決定)の対象者とは?
算定基礎届(定時決定)の対象者は、7月1日時点で被保険者資格を有しているすべての人が該当します。つまり、休職中や育児休業などでも被保険者資格を有しているなら対象者になります。
算定基礎届(定時決定)の非対象者とは?
算定基礎届(定時決定)の非対象者とは、次に該当する方です。
・6月30日以前に退職した従業員
・6月1日以降に被保険者になった従業員
6月1日以降に被保険者になった方は、資格取得時の決定によってすでに標準報酬月額が翌年8月まで決まっています。したがって、定時決定の対象外となります。
・7月に随時改定のための月額変更届を提出する従業員
後述しますが、「定時改定」ではなく、昇給や降給などで現在の標準報酬月額と2等級以上の大きな差がでた場合は、「随時改定」が行われます。したがって、算定基礎届を提出する必要はありません。
・8月もしくは9月に随時改定をする予定の従業員
8月もしくは9月に随時改定を予定している場合は、随時改定が優先されます。したがって、算定基礎届の提出は不要です。
標準報酬月額の計算方法とは?
標準報酬月額と支払基礎日数
では、算定基礎届の基礎となる「標準報酬月額」は、どのように算定すればよいのでしょうか?標準報酬月額は、原則、毎年4月~6月に実際に支払れた報酬の総額を「3」で割り、算出された報酬月額がどの等級に当てはまるかによって決定します。
その際、その月の報酬を計算する基礎となった労働日数を「支払基礎日数」いい、その数が17日未満の月がある場合は、その月を標準報酬月額の計算から除外して算出します。なお、標準報酬月額の計算には、「保険者算定」と呼ばれる例外ケースもあります。次のようなケースが挙げられます。
・4月~6月のすべての月の支払基礎日数が17日未満の場合
パートタイム労働者などで、4月~6月の支払基礎日数が15日以上~17日未満の場合は、支払基礎日数15日以上の月の報酬を対象に算出します。すべての月が15日を下回る場合は、従前の標準報酬月額を引き続き使用することになります。
・5月に入社した場合
5月に入社した場合は、5月と6月の報酬で算出します。
・一時休業の場合
一時休業の場合は、休業中に支給された休業手当を報酬とみなされます。つまり、休業手当をもとに算出します。
標準報酬月額の求め方
前述した点をまとめると、標準報酬月額は次のような手順で求めることになります。
ステップ1:4月~6月に支払った報酬の確認
ステップ2:各月の支払基礎日数の確認
ステップ3:4月~6月の3ヶ月分の報酬の平均額の計算
ステップ4:3で求めた平均額を、都道府県の保険料額表から見つける
ステップ5:4が該当する「標準報酬」の欄の「等級」と「月額」を探し、標準報酬月額を決定する
標準報酬の対象となるもの
標準報酬月額を求める際の報酬とは、基本給だけでなく、労働の対価として受けるものすべてが報酬に含まれます。それには現金だけでなく、現物支給されるものや、各種手当なども該当します。具体的には、次のようなものが報酬とみなされています。
・金銭で支給される報酬
基本給(月給・週給・日給など)、能率給、奨励給、各種手当(役付手当・職階手当・特別勤務手当・勤務地手当・物価手当・日直手当・宿直手当・家族手当・扶養手当・休職手当・通勤手当・住宅手当・別居手当・早出残業手当など)、継続支給する見舞金、年4回以上の賞与など
・現物で支給される報酬
通勤定期券、回数券、食事代、食券、社宅、寮、被服(勤務服・作業着以外)、自社製品など
標準報酬の対象とならないもの
・金銭で支給されるもので報酬とならないもの
大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年3回以下の賞与など
・現物で支給されるもので報酬とならないもの
勤務服(制服・作業着など)、見舞品、社宅(本人からの徴収金額が現物給与の価額以上のとき)、食事(個人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の3分の2以上の場合)など
算定基礎届の作成と提出方法
算定基礎届の届出用紙は、毎年5月下旬~6月中旬頃にかけて、管轄地区の年金事務所や健康保険組合から各事業所に郵送されます。届出用紙には、5月中旬まで社会保険に加入していた被保険者の氏名、生年月日、従前の標準報酬月額などがあらかじめ記載されていますので、記載されている情報が正確かどうか確認しましょう。
そして、異動がある場合は、追加や削除などして訂正しましょう。なお、算定基礎届は、企業や事業主が提出するものです。つまり、各従業員が書類に記入するなどの作業は一切ありません。
算定基礎届の詳しい記入方法に関しては、こちらをご覧ください。
参照:日本年金機構「【事業主の皆様へ】令和2年度の算定基礎届の記入方法(説明動画)等について」
提出期間
事業主は、対象者の算定基礎届を作成した後、その年の7月1日~10日までと定められています。協会けんぽに加入している場合は、管轄地区の日本年金事務所へ提出します。健康保険組合に加入している場合は、健康保険部分は健康保険組合、厚生年金部分は年金事務所へ提出します。
なお、健康保険組合の場合は、提出期限が異なるときもありますので、事前に確認されることをおすすめします。定められている期限内に申告書を提出しない場合は、6ヶ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金のペナルティが発生することがありますので注意しましょう。
提出書類
送付された届出用紙に必要事項を記入し、提出期限内に提出しましょう。送付される書類とは、次のものです。
・被保険者報酬月額算定基礎届
・被保険者報酬月額算定基礎届 統括表
統括表とは、各事業所の報酬の支払い状況や被保険者数などが記載する書類です。
・被保険者報酬月額酸的基礎届 統括表附表
統括表には、附表を一緒に添付して提出します。
また、該当者がいる場合は、次の書類も一緒に提出します。
・70歳以上被用者 算定基礎・月額変更・賞与支払届
・被保険者報酬月額変更届(7月改定者)
提出方法
算定基礎届は、窓口に直接持参、郵送、電子申請の3つの方法から選択できます。また、届出用紙での提出だけでなく、CDやDVDなどの電子媒体による提出も受け付けています。
・電子媒体で提出する場合
大量の提出が必要となる届出書は、電子媒体での提出が便利です。ただし、CDやDVDなどの電子媒体で提出する場合は、日本年金機構のホームページから「磁気媒体届書作成プログラム」をダウンロードする必要があります。
作成した電子媒体を提出する際には、事業所の名称と事業所整理記号などを記載したラベルを添付するのを忘れないようにしましょう。
・電子申請で提出する場合
電子申請で提出する場合は、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」を利用しての提出となります。
標準報酬月額の決定方法
標準報酬月額が決定されるタイミングは、前述した「定時決定」に加え、「資格取得時の決定」「随時改定」があります。
定時決定
前述したように、通常、標準報酬月額は「定時決定」で決まります。4月~6月の3ヶ月間の報酬月額の平均を求め、標準報酬月額を決定します。
資格取得時の決定
標準報酬月額は、従業員が受け取った報酬の総額をもとに決定されるものですが、新入社員など雇用されたばかりの従業員の場合は、標準報酬月額を決定するために過去の報酬額がありません。
そのため、事業主は従業員を雇用したときの就業規則や労働契約などから、報酬として支払う見込みのある額を概算し、標準報酬月額を決定しなければいけません。
なお、資格取得時に決定した標準報酬月額は、その年の8月まで適用されます。ただし、資格を取得したタイミングが6月1日~12月31日までの期間内の場合は、翌年の8月まで決定した標準報酬月額が適用されます。
随時改定
随時改定とは、昇給や降給などで現在の標準報酬月額と2等級以上の大きな差がでたときに標準報酬月額を改定することができます。通常、標準報酬月額は4月~6月の3ヶ月間の報酬をもとに決定されますが、それ以外の期間で報酬額に大きな差がでた場合、特に大幅に減少したときは、次の定時決定まで大きな負担とないます。
そのため、支払われる報酬月額が大幅に変わったときは、標準報酬月額を改定することができます。そのためには、事業主が、随時改定の手続きをしなければいけません。随時改定により新たに決定された標準報酬月額は、その他の決定方法同様、翌年の8月まで適用されます。ただし、その年の7月以降に改定した場合は、翌年の8月まで適用されます。
随時改定をする場合は、次の条件をすべてを満たしている必要があります。つまり、次の3つの条件すべてを満たす従業員が現れた場合は、事業主は速やかに随時改定の手続きをする必要があります。
条件①昇給や降給によって、固定的賃金に変動があること
条件②変動月からの3ヶ月間継続して支給された報酬の標準報酬月額と、変動前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
条件③変動月からの3ヶ月間、いずれの月も支払基礎日数が17日を超えていた
これらの条件をすべて満たしている従業員がいるなら、随時改定をするタイミングと言えるでしょう。
社会保険料を見直す「定時決定」
すでに見てきたように、社会保険料を算出するために標準報酬月額は、4月~6月の報酬がもととなります。そして、7月10日までに「算定基礎届」を年金事務所へ提出することが義務付けられています。決定した標準報酬月額は、その年の9月~翌年の8月まで適用されます。
つまり、各事業所ごとに給与日は異なりますが、4月~6月までの3ヶ月分の報酬の標準報酬月額を計算し、算定基礎届を提出する7月10日までは、ほんの数日間しかありません。しかも、定められている7月10日までに提出をしなければ、前述したようにペナルティが発生します。
ですから、事業主や担当者にとっては、業務が忙しくなるとも言えます。非常に短い限られた期間となっていますので、スケジュールを確保しながら作成業務ができるようにしておきましょう。
まとめ
事業主や担当者は、算定基礎届を作成し、定められている期限内に提出することが義務づけられています。そのためには、算定基礎届の対象となる従業員や、該当する報酬などの基礎知識をしっかり理解しておくことは大切です。
また、今年2020年4月からは、特定の大法人に対して、電子申請での手続きが義務化されています。現時点では一部の法人ですが、今後、中小企業や個人事業主などへと対象範囲が拡大することが予想されていますので、今のうちに電子申請の準備を進めることができるでしょう。
算定基礎届の作成で分からないことや質問があるなら、専門家の税理士へ相談することができます。また、業務に集中したい方は、税理士に算定基礎届の作成を依頼することもひとつの方法です。作成業務が負担となっているなら、税理士への依頼を検討することができるでしょう。
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
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