原価計算とは?事業経営に欠かせない基礎知識と計算方法 | 税理士コンシェルジュ

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原価計算とは?事業経営に欠かせない基礎知識と計算方法

2020年4月10日
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「原価計算」と聞くと、工場や食品などの製造を思い出す方もおられることでしょう。確かに原価計算は、製品を作ったり、サービスを提供したりするためにかかった費用を計算することですが、とても奥が深く、事業経営には欠かすことができない業務のひとつとなっています。この記事では、原価計算の基礎知識と計算方法について、初心者でも理解できるよう分かりやすく解説していきます。

原価計算とは?

原価とは、1つの商品を製造して販売したり、サービスを提供するためにかかった費用総額のことです。費用総額は、次のように大きく分類することができます。

・原価(売上原価)
原価は、売上と直接的な関係のある費用のことです。小売業であれば商品の仕入れ、製造業であれば材料費や加工費、現場での労務費などが直接関係してくる費用です。売上が増加すると、それに比例して原価も増加します。

・販売費と一般管理費
販売費と一般管理費には、企業の販売促進や事務管理などにかかった費用のことです。具体的には事務所や店舗などの家賃、総務、人件費、消耗品、広告宣伝費などが含まれます。この費用は、売上の計上額に必ずしも比例するものではありません。

・その他の費用
上記以外にかかる費用として、借入金に対する利息や本業以外での損失、法人税の支払いなどの支出があります。

これら原価にかかる費用総額のうち、原価部分がどのくらいあるのかを求めることを「原価計算」といいます。

原価計算が必要な理由とは?

では、なぜ原価計算をする必要があるのでしょうか?1962年に策定された「原価計算基準」では、原価計算には5つの目的があると定めています。その目的とは次の5つです。

目的1:財務諸表作成のため

企業には、決算の際、財務諸表という形で役員や株主、投資先の銀行などに、現在の経営状況などの情報を開示する義務が課せられています。これを財務会計といい、決算書類のひとつである財務諸表を作成するためには、原価計算が必要となります。なお、原価計算で算出した原価は、損益計算書に記載します。

目的2:販売価格計算のため

製品や商品を製造やサービスの提供にかかった費用よりも高い値段で提供し、儲けを得ることがビジネスです。そのためには、原価がいくらかかったかを知るための計算が欠かせません。計算式にすると、「原価+利益=売価」になります。つまり、まず原価を把握し、それに利益を上乗せすることではじめて売価が決まります。

例えば、食パン専門店があると仮定します。食パンのみの販売ですから、値段も1つだけです。食パンを1日100斤販売しており、材料費が3万円、労務費が2万円、経費が1万円、合計6万円の費用が発生します。そして、1斤当たりの原価は600円です。1斤当たり100円以上の利益を得たい場合は、売価を700円以上に設定しなければいけません。

このように1個の商品を製造するためには、さまざま分野で費用が発生しています。この例は食パン1種類のみの仮定でしたが、さらに多くの種類のパンを扱っているなら、それぞれのパンの原価が異なってきます。売価を決定するためには、原価計算がどうしても必要となります。

目的3:原価管理のため

現時点でも製品やサービスの提供が適性かどうかは、ある一定基準がなければ判断することはできません。その基準を作成するためには、原価計算が必要となります。実際にかかった原価を算出し、標準原価と比較して差異を分析します。その後、差異分析の結果から、対策を打つことを原価管理といいます。

なお、この原価管理を行うことで原価が下がるため、利益の向上につながります。企業にとって利益を上げることは目的のひとつですので、原価管理はとても重要と言えるでしょう。

もう一度、上記の食パンの例を考えてみましょう。食パン1斤当たりの原価は600円でした。この見込んでいた原価は「標準原価」といいます。しかし、実際に作ってみたら原価に630円かかりました。これは「実際原価」といいます。

また、100斤×700円で7万円の売上があると見込んでいましたが、何かの要因で費用が3千円増えてしまった場合なども、原価に差が生じています。このように実際原価が分かるということは、標準原価を設定しているからこそ気づくことです。差異を分析することは、企業にとってとても重要です。

目的4:予算編成のため

計画的に事業を運営していくためには、取引先や銀行に対して、受注の予定や融資金額の予定などの情報を共有する必要があります。そのためには、適切な予算編成が欠かせません。つまり、来月の予算や来年度の予算編成に必要な原価資料を作成するためには、原価計算が必要となります。

例えば、今までは食パン専門店としてプレーンの食パンのみの販売で事業を展開してきましたが、レーズン食パンも販売することに決定した場合、今までとは製造の過程が変わってきます。また、使用する材料も変わってくるため、原価も変わってきます。

このようなときに、予算編成を立てます。まず利益の目標、続いて売上目標を決めます。利益も売価も異なるため、どの商品をどれだけ販売したいのか、具体的に予算を作成することがポイントです。

目的5:経営計画のため

経営の基本計画は、予算編成は欠かせません。つまり、必要な原価情報を知るためには原価計算が必要です。目的4は一定期間の予算管理を目的としているのに対し、目的5は長期的な視点から計画を立てていきます。

つまり、将来事業をさらに拡大されるために、新商品の開発や設備投資にどのくら投資する必要があるかを試算するためには、原価計算が必要となります。

原価の3要素とは?

細かく分類すると、原価には数多くの種類が存在しています。製造原価を計算する上で一番大切なことは、製造のためにかかった費用を分類ごと、つまり、原価の構成要素である「材料費」「労務費」「経費」に分類してそれぞれを計算することです。これを「形態別分類」といい、材料費、労務費、経費の3つは「原価の3要素」と呼ばれています。原価計算の基礎となる考えですので、しっかり理解しておくことは大切です。

では、3つの要素について詳しくみていきましょう。

①材料費

材料費とは、製造にかかる原料の原価です。製造すればするほど、費用も比例して増えていきます。例えば、パン屋さんであれば、小麦粉やイースト菌、砂糖、卵、牛乳、チョコレートなどが該当します。また、パンを焼くための燃料やクリームなどを製造過程で必要となる器具類も材料費に分類されます。

製造される商品の主な原料は「直接材料費」、その他の材料は「間接材料費」として分類します。さらに材料費は、次のように細かく分類することができます。

・素材や原材料費:製造される商品の主な材料

・買入部品費:外部から仕入れて使用するもの

・燃料費:製造するうえで発生するガス代など

・工場消耗品費:製造工程で補助的に使用されるもの

・消耗工具器具備品費:耐用年数が1年以内で、取得金額が10万円未満の器具や工具類

②労務費

労務費とは、製造現場で働いている人の賃金や事務所などで働いている人の給料、賞与、退職金などのことです。つまり、商品の製造から販売するまでに発生する労働の対価すべてが含まれます。労務費は、次のように細かく分類することができます。

・賃金:製造現場や工場などで働く人に労働の対価として支払われる費用

・給与:主に事務所など製造現場以外で働く人に労働の対価として支払われる費用

・雑給:パートやアルバイトなどへ労働の対価として支払われる費用

・賞与手当:年に数回の賞与(ボーナス)、報酬金などに支払われる費用

・退職給与引当金の繰入:将来支払われる退職金として毎月積み立てをしている費用

・福利費:社会保険や雇用保険など会社負担分の費用

③経費

経費には、上記の材料費と労務費以外の費用が該当します。したがって、金額的にも小さなものから大きなものまで、多種多様なものが含まれます。経費は、次のように細かく分類することができます。ただし、経費の場合は、材料費や労務費とは分類方法は異なっています。

・測定経費:電気代や水道代などメーターが設置されていて、消費量を測定することが可能な経費

・支払経費:何に発生した経費なのか把握できる経費

・月割経費:賃貸料や保険証など、月割りで支払う費用

・発生経費:お金の支払いが伴わずに発生している費用

直接費と間接費の見分け方

原価を製品として製造する場合、「直接費」と「間接費」に分類します。これは、製品を製造するにあたり直接かかわる原価と、間接的にかかわる原価を分類することです。ここでは料理を事例として、直接費と間接費についてみていきましょう。

直接費

直接費とは、製品を作るためにかかった原価で、どれだけ使ったかを特定することができるものが該当します。主に原材料費や購入部品費などが直接費として占めています。例えば、原材料費とは、製品に必要な小麦粉や卵など加工する元になるもののことです。購入部品とは、業者が原材料を加工して製品としたものを、自分たちの製品に使用することです。

また、賃金は人件費のことで、時間から算出することができます。諸支払経費は、製品を作るために一部を外注した外注費などが該当します。

間接費

間接費とは、製品を製造するために発生した費用ですが、明確に特定することができないものが該当します。例えば、消耗品のひとつとして、料理などで使用される油を挙げることができます。油は製品の一部として使われていますが、どの程度使われたか、どの製品に使われたかは明確には分かりません。

消耗工具品には、料理で使用するサランラップやアルミホイルなど使い捨ての備品が該当します。どちらも原価として占める割合は少ないという特徴があります。間接費には、福利厚生費や退職給付引当金など料理とは直接関係のない、人を雇う上で発生する原価もあります。

さらにガスレンジやオーブンなどの料理用設備機器の導入は、減価償却費の分割負担費も含まれます。鍋やフライパンなどの調理器具類は金型費、設備機器にかかる修繕が修繕費、設備や証明は電力費、白衣やエプロンなどのクリーニング代は諸支払経費など、数多く費用を間接費として分類することができます。

原価計算の種類について

原価計算は簿記の中でも「工業簿記」に属しています。計算方法はひとつだけでなく、多くの種類が存在しています。

・集計方法
集計方法には、「全部原価計算」と「直接原価計算」があります。

・原価の発生具合
原価の発生具合には、「実際原価計算」と「予定原価計算」があり、予定原価計算には「見積原価計算」と「標準原価計算」に分類されています。

・生産形態
生産形態には、大きく「総合原価計算」と「個別原価計算」に分かれています。その中でも総合原価計算は、「単純総合原価計算」「等級別総合原価計算」「組別総合原価計算」の3種類に分類されています。

そして、単純総合原価計算は「単純工程単純総合原価計算」と「工程別単純総合原価計算」、等級別総合原価計算は「単一工程等級別総合原価計算」と「工程別等級別総合原価計算」、組別総合原価計算は「単一工程組別総合原価計算」と「工程別組別総合原価計算」に分類されています。

では、原価計算の種類に続き、その計算方法について確認していきましょう。

原価計算の方法

上記で確認したように、原価計算には種類がありますが、原価計算は製造業だけでなく、すべての業種で利用することが可能な計算方法です。ですから、経営者や経理担当者などは知っておくべき基礎知識と言えるでしょう。

集計方法(費用別計算)

・全部原価計算
簿記の原価計算と言えば、「全部原価計算」のことです。この計算方法は、発生した材料費、労務費、経費をすべて集計し、製品にかかった原価を算出する方法です。つまり、直接費と間接費をすべて集計する簿記の基本となっています。

・直接原価計算
直接原価計算は、直接費のみで原価計算を行う方法です。つまり、間接費を除いた計算方法です。管理会計ではよく採用されている方法のひとつとなっています。

つまり、次のような手順で分類することができます。
1、「直接費」と「間接費」に分類する
まず、直接費と間接費へと分類します。直接費とは、どの製品に消費されたかが明確な原価のことです。一方、間接費とは、複数の製品にまたがって発生したり、製造現場以外で発生したりなど明確に分けることができない原価のことを指します。

2、「変動費」と「固定費」に分類する。
変動費とは、売上に対応して増えたり減ったりする費用のことです。固定費は売上に関係なく発生する費用のことです。

3、「管理可能費」と「管理不能費」に分類する
この分類は、原価の発生が一定の管理者によって管理されているのかどうかを基準として分けていきます。原価に対して管理や責任を負うのは誰なのか?という視点から考えるなら、分類しやすくなるでしょう。

原価の発生具合(部門別計算)

原価の発生具合とは、各種部門ごとに分類し、計算していく方法です。部門ごとに分類することで、製品の原価を正確に算定することができ、原価管理の効率性につながります。次の2種類に分類することができます。

・実際原価計算
実際にかかった費用のみを計算する方法が、実際原価計算です。原価を正確に把握できるというメリットがありますが、費用がかからないと計算することが難しくなります。

・予定原価計算
予定原価計算には、見積原価と標準原価の2つに分類されています。見積もり原価は、発生するかもしれない原価を想定して原価計算することです。標準原価は、理想的な原価で原価計算することです。材料費、労務費、経費の目安を設定して計算していきます。

例えば、工場では「製造部門」と「補助部門」に分類することができるでしょう。製造部門は主に製品を製造する工程にある部門で、補助部門は事務部門や管理部門など製造とは直接関わっていない部門のことです。また、製造部門の場合、商品に対して発生した費用は明確なので「直接費」、補助部門で発生した費用は「間接費」になります。

生産形態(製品別計算)

・総合原価計算
総合原価計算は、1つから複数の規格品を連続して量産するときに使われており、さらに3つに分類されています。

1、単純総合原価計算
単純総合原価計算は、総合原価計算の基本とも言える計算方法のひとつです。1つの商品や製品を量産するときに使われています。この計算方法は、単純工程単純総合原価計算と工程別単純総合原価計算にさらに細かく分類することができます。

2、等級別総合原価計算
等級別総合原価計算は、同じ規格品を連続して製造する際、サイズや機能など等級別に分けているときに使われています。この計算方法は、単一工程等級別総合原価計算と工程別等級別総合原価計算にさらに細かく分類することができます。

3、組別総合原価計算
組別総合原価計算は、同じ種類の製品だとしても、デザインなどが異なるものを量産するときに使われています。この計算方法は、単一工程組別総合原価計算と工程別組別総合原価計算にさらに細かく分類することができます。

1~3の「工程別」の計算方法は、工程ごとに計算していくため、どの工程でロスが出やすいかを把握しやすくなります。

・個別原価計算
個別原価計算とは、個別注文に応じて製品を受注し、その度に原価を算出していく計算方法です。

さまざまな業種で採用されている「原価計算」

原価計算の種類や方法などその仕組みについて実際にみてみると、「複雑・・」と感じる方も多いことでしょう。今までは主に製造業を中心に採用されていた計算方法ですが、近年ではサービス業やコンテンツ制作業など製造業以外の分野の業種も、原価計算を採用している事例が増えています。

例えば、ソフトウェア製作業者の場合、仕様確定やソースコードの作成などは製品の製造原価、デザインなどの外注は製造経費として考えることで、原価計算の考え方を採用しています。そうすることで、適用範囲を広げていると言えるでしょう。

また、ひとつに企業がいくつか事業を展開している場合は、その事業種類に応じて、どのような原価科目を採用するかを事前に決めてくことで、個別分野ごとの状況を把握することが容易となります。

まとめ

原価とは、売上を得るためにかかる費用のことで、原価計算をすることで原価を正確に把握することができるようになります。原価を正確に把握することは、正確な決算書の作成、正確な税務申告にもつながります。また、売価を確定したり、短期もしくは長期にわたっての経営方針を決定する際にも役立ちます。

今までは原価計算と言えば、製造業が採用するものというイメージがありますが、近年では製造業以外の多くの業種が原価計算を採用しています。なぜなら、原価計算の考え方を導入することで、事業の現状をしっかり把握することが可能となり、現実的な計画や方針を決めることができるからです。そして、その益は会計事務の効率化にもつながります。

原価計算は難しいイメージがありますが、近年は会計ソフトなどのツールも普及しているので、上手に活用することができるでしょう。また、プロの税理士に相談してみることもおすすめです。まだ原価計算を導入していないなら、この機会に原価計算の考え方の導入を検討してみるのはどうでしょうか?


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