雇用保険ってどんな保険?【令和2年度】雇用保険料の計算方法
労働者の雇用主は、雇用保険の対象となる労働者を雇用保険に加入させることが義務付けられています。そのため、雇用主や労務担当者などは、雇用保険の加入条件や雇用保険料の計算方法などについてしっかり理解しておくことはとても大切です。この記事では、雇用保険の条件や制度、雇用保険料計算方法などについて分かりやすく解説していきます。
目次
雇用保険の役割とは?
給与所得者であれば、毎月の給与から雇用保険が天引きされていることでしょう。では、雇用保険には、どのような役割があるのでしょうか?雇用保険は、労働者が失業して所得がなくなったときに備え、生活の安定や再就職をサポートするために失業給付をする公的保険のひとつです。
役割①失業者の生活の安定を図る
学生や主婦などお小遣いや家計の足しに働く人の場合は、他に稼いでくれる人がいるため仕事を辞めたとしても、大きな経済的なダメージを受けることはないでしょう。しかし、フルタイムで働いている方や家族を養っている方の場合、失業してしまうと金銭的に大きなダメージを受けます。
そこで、生計を立てている方が失業してしまった場合に備えて、給付が得られなくなったときに失業給付で経済的な負担を軽減させるために雇用保険が必要とされています。そのため、雇用保険は、失業保険とも呼ばれています。
役割②失業者の再就職を促す
雇用保険には、失業者の再就職を促す役割もあります。どのようにでしょうか?失業期間中に仕事を見つようとしても、就職活動にはお金がかかるものです。特に新たに資格を取得するとなると、さらにお金がかかることでしょう。また、就職活動だけでなく、当然生活費もかかってきます。
このような状況のときに、一定額の援助金、つまり失業給付があれば、安心して就職活動に臨むことができます。このように雇用保険には、失業期間中に一定額の給付をすることで、再就職をサポートしたり、早く新しい職が見つかるように促す役割もあります。
雇用保険の加入条件とは?
1人でも従業員を雇っている事業所は、雇用保険法に基づき、雇用保険適用事業所とみなされた場合、加入条件を満たす従業員を雇用保険へ加入させる義務があります。すべての労働者が加入資格があるわけではありませんが、雇用保険適用事務所で雇われている正規雇用の従業員はすべて加入する義務の対象となっています。
パートやアルバイト、派遣労働者などの非正規雇用の従業員の場合は、週の所定労働時間が20時間以上で、同じ雇用主のもとで継続して31日以上雇用される見込みのある人は加入資格があります。学生は、原則として雇用保険に加入することはできません。
雇用保険適用事業所設置届の提出
1人でも従業員を雇用している事業所は、「雇用保険適用事業所設置届」を管轄地区のハローワークに提出する必要があります。この届出が提出されていないと、雇用保険加入手続きをすることができません。この書類には、次のような項目があります。
・法人番号
会社の場合は、法人番号欄に法人番号を記載します。法人設立登記をした後に送付される法人番号指定通知書に法人番号が書いてあります。
・事業所の名称や所在地
「株式会社」なども略さず、正式な名称を記入します。個人事業主の場合は、代表者の氏名もしくは屋号を記入します。
・雇用保険の適用事業所となった年月日
雇用保険が適用となる従業員をはじめて雇用した日の年月日を記入します。
・労働保険番号
労働保険番号は、「労働保険関係成立届(事業主控)」を提出した後に交付された番号を記入します。
・事業の概要
事業の概要の欄には、事業の内容を具体的に記載します。
・その年度の1日の平均従業員数
その年度の1日の平均従業員数は、「年間の延労働者数÷年間の所定労働日数」という算式で算出します。
・賃金締切日
例えば、毎月25日締めの場合は、前月26日から当月25日までが給与の計算期間、と記入します。
・事業所印と事業主印
すべての項目の記載内容を確認し、最後に事業主印と事業主印(もしくは代表者印)を押印し終了です。個人事業主の場合は、事業所印がないなら押さなくても問題ありません。
雇用保険料とは?
雇用保険は、労災保険と合わせて「労働保険」と言われており、双方とも国が管轄する公的保険として扱われています。雇用保険と労災保険の給付は別々ですが、納付についてはひとつの保険として取り扱われています。労災保険料の場合、事業主が全額負担するため、労働者は支払う必要はありません。一方、雇用保険料の場合は、事業所側と労働者の双方が負担することになっています。
雇用保険料の対象となる賃金とは?
雇用保険料の対象となる賃金は、税金や社会保険料などを差引く前の給与や賞与の総額です。それには各種手当も含まれますが、雇用保険料の対象とならない賃金もあります。
雇用保険料の対象
基本賃金と賞与を含め、雇用保険料の対象となる各種手当には、通勤手当(定期券・回数券含む)超過勤務手当、深夜手当、宿直手当、日直手当、家族手当、子供手当、扶養手当、技能手当、教育手当、特殊作業手当、住宅手当、地域手当、調整手当、皆勤手当て、精勤手当、休業手当、雇用保険料、社会保険料、昇給差額、前払い退職金などが挙げられます。
雇用保険料の対象外
雇用保険料の対象にならない賃金には、役員報酬、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、年功慰労金、勤続褒賞金、退職金、工具手当、寝具手当、出張費、宿泊費、休業補償費、傷病手当金、解雇予告手当、持家奨励金、会社が全額負担する生命保険の掛金、住宅の賞与を受ける利益(福利厚生施設として認められているもののみ)、財産形成貯蓄等のための事業主が負担する奨励金などが挙げられます。
令和2年最新版の雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、毎月の給与総額に「雇用保険料率」をかけて算出します。つまり、「給与総額(賞与総額)×雇用保険料率=雇用保険料」という算式になります。
雇用保険料率
雇用保険料率は、雇用保険料を計算する際に利用する計算率です。雇用保険料率は、事業の種類によって変わっています。また、毎年失業保険の受給者や積立金の残高に合わせて料率の見直しが行われています。なお、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの雇用保険料は、令和元年度から変更ありません。雇用保険料率は、次のようになっています。
・一般事業の雇用保険料率
合計負担率:9/1000(労働者負担:3/1000・事業主負担:6/1000)
・農林水産、清酒製造事業の雇用保険料率
合計負担率:11/1000(労働者負担:4/1000・事業主負担:7/1000)
・建設事業の雇用保険料率
合計負担率:12/1000(労働者負担:4/1000・事業主負担:8/1000)
雇用保険料の具体的な計算例
上記の雇用保険料率を「給与総額(賞与総額)×雇用保険料率=雇用保険料」に当てはめてみましょう。例えば、一般の事業で給与額が20万円の場合は、次のようになります。
労働者の負担額は、20万円×0.003(3/1000)=600円となります。事業主の負担額は、20万円×0.006(6/1000)=1,200円となります。したがって、合計負担額は、600円+1,200円=1,800円になります。
では、雇用保険料に端数がでた場合は、どうすればよいのでしょうか?雇用保険料の労働者負担額を源泉徴収するときに1円未満の端数がでた場合は原則として、「50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げ」て徴収することになっています。ただし、労使協定などで端数はすべて切り捨てる、などの特約が定められている場合はそれに従うことができるでしょう。
令和2年4月1日から65歳以上の方も雇用保険料徴収の対象者に!
これまでは、年齢が65歳以上の雇用保険の被保険者は、雇用保険料徴収が免除の対象となっていました。1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあるという雇用保険の適用条件を満たしていれば、65歳以上の労働者でも「高年齢被保険者」として雇用保険が適用されていました。これにより、雇用保険料を折半で負担している被保険者と事業主は、保険料が免除されていました。
しかし、雇用保険料徴収に関して法改正が行われ、2020年4月1日からは高年齢被保険者を対象としていた免除規定が廃止されました。そのため、65歳以上の被保険者を雇用した場合は、事業所は従業員の年齢に関係なく雇用保険料を納めなけれないけません。それに伴い、65歳以上の高年齢被保険者からも、本人の負担分の雇用保険料を徴収する必要があります。
雇用保険の適用範囲が65歳以上にも拡大することには、事業所と従業員にメリットになります。特に従業員の場合は、失業したときには年齢求職者給付金と年金の両方を併給することが可能となっています。また事業所にとっては、高年齢労働者が長期間働いてくれることを期待できるので、人手不足が解消され、安定した労働力の確保へとつながります。
65歳以上の雇用保険加入義務はまだ始まったばかりですが、もし65歳以上の労働者が雇用保険加入条件を満たしているにもかかわらず未加入の場合は、未加入が発覚すると事業者に6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられますので注意しましょう。
雇用保険料の徴収はいつから?
雇用保険料を計算する際、新しく雇用した労働者や労働時間を変更した労働者が加入条件の対象となった場合は、どのタイミングで雇用保険料を徴収すればよいのでしょうか?雇用保険料を徴収するタイミングは、事業所の給与形態によって変わってきますが、給料の締め日が末日の場合は、その翌月に給与が支払われるはずです。ですから、雇用保険の加入条件に該当した月の給料から雇用保険料を徴収するのが正しいタイミングといえます。
雇用保険加入義務を怠ると?
雇用保険は、労働者の生活の安定や再就職をサポートするなどの役割を持つ国が定めている制度のひとつです。そのため、事業所は被保険者資格を保有する労働者を雇用保険に加入させることが義務付けられています。では、事業所がこの義務を守らないとどうなるのでしょうか?
雇用保険法では、事業者が被保険者資格を有する労働者を雇用保険に加入させなかった場合は、懲役6ヵ月以下もしくは罰金30万円が科せられる、と規定されています。もちろん、即このペナルティが科せられるわけではありませんが、義務の違反が発覚すれば、労働局より勧告を受けることになりますので注意しましょう。勧告を受け入れない場合は、罰則が適用される可能性があります。
まとめ
事業所は、雇用保険適用事業所に該当する場合は、雇用保険加入条件を満たしている労働者を雇用保険に加入させる義務があります。ですから、雇用保険の加入条件や必要な手続きを理解しておくことは大切です。また、雇用保険料は、業種によって異なることに加え、毎年雇用保険料率が変更しますので、年度が変わるときには確認するようにしましょう。
そして、毎月徴収する額はそれほど大きくありませんが、雇用保険料を計算する際には、計算ミスをしないよう労働者一人ひとりの雇用保険料を管理していきましょう。
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