【源泉徴収、年末調整】所得税計算の基本をおさえる
納税も、企業にとっても大切で重大な業務のひとつです。典型的なものとしては源泉徴収が挙げられますが、そのためには、所得税のしくみや計算方法についてしっかり理解していなければいけません。
特に、最近では地震や台風といった大型災害による被害を受けた自治体や事業者に寄付をする動きが定着しています。寄付や義援金は控除対象になるので、所得税の仕組みを理解しておくことは大切です。
現在も、新型コロナウイルスにより運営・経営に支障をきたしている人や団体への寄付の機運が高まっています。それに伴い、ふるさと納税も、例年以上に注目されています。こうした動きからも、所得税の基本的な仕組みを改めて確認しておくことは重要といえます。
そこで、この記事では、所得税のしくみや算出方法について解説していきます。
目次
所得税とは?
所得税とは、1月1日~12月31日までの1年間の間に得た「課税所得金額」に課税される税のことです。本来、所得税は各人が税務署に支払うものですが、公務員や会社員などの給与所得者は、雇用者が給与から差し引いて納めています。これが源泉徴収という仕組みであり、いわゆる「天引き」です。
ちなみに、所得税の源泉徴収は給与所得者だけでなく、弁護士や税理士といった特定の資格者に支払われる報酬も対象となっています。
従業員から源泉徴収した所得税は、翌月10日までに納付することになっています。この、毎月の納付は、おおまかな金額を納めているだけです。そのため、毎年12月に「年末調整」を行ない、帳尻合わせをしています。
一方、個人事業主の方の場合は、税額を計算して役所に申告し、税金を納付するという作業、つまり「確定申告」を個人で行う必要があります。このような納税方法は「申告納税」と呼ばれています。
所得税計算の方法について
所得税は、「課税所得」に税率を掛けて算出します。つまり、「課税所得×税率-税額控除額=所得税」という計算式になります。
まずは、実際に計算する前に「所得」「課税所得」「所得控除」といった言葉とその内容についてしっかり把握しておくことが大切です。
所得税計算の前に①~所得とは?
収入から必要経費を差し引いたものが所得であり、この「所得」に所得税は課されます。収入や必要経費の範囲によって所得の計算方法は定められており、その性質によって以下の10種類に分かれています。
・利子所得:預貯金の利子
・配当所得:株式投資等による配当
・不動産所得:地代・家賃等
・事業所得:事業から生まれる収入
・給与所得:勤務先からの給与、賃金、賞与
・退職所得:退職により勤務先から受け取る退職手当等
・山林所得:山林を伐採或いは立木のままで譲渡することによって生じる所得
・譲渡所得:資産を譲渡することによって生ずる所得
・一時所得:営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得(賞金や返戻金等)
・雑所得:上記の所得のいずれにも当たらない所得
なお、雇用者から支給する手当などのうち、一部のものは「特定支出控除」を受けることができます(「経費」にあたると捉えると、理解しやすいかもしれません)。特定支出控除の対象となるものには、以下のようなものがあります。
・通勤手当
・旅費
・資格取得費用
・研修費用
・勤務に必要な衣類の購入費
・職務上の接待費
これらが代表例ですが、特定支出控除を受けるためには、業務上必要であったことを証明する領収書等が必要となるので、日頃から必要書類の発行・管理を徹底し、従業員から求められた場合等は迅速に対応できるようにしておくとよいでしょう。
所得税計算の前に②~課税所得とは?
「課税所得」は、1月1日~12月31日までの1年間分のすべての所得から、所得控除を差し引いて算出した額になります(所得控除とは、個人的な事情を加味して、税金の負担を調整することです)。
例えば、給与所得者の課税所得額は「総支給額(基本給・残業代・手当等)-非課税の手当-所得控除=課税所得」となります。
所得控除とは、ある一定の要件を満たしたものについては、所得額から差し引くというものです。所得額の多寡により所得税額は決まるので、所得額が所得控除により下がることは、納税者にとっては助かるといえるでしょう。
所得税計算の前に③~所得控除の種類
所得控除には、主に以下のようなものがあります。
・基礎控除:
すべての課税者を対象に、一律38万円が控除されます。
・医療費控除:
納税者本人、また納税者本人と同一生計の配偶者や親族の一部の治療や入院費用、薬品代、介護費用などの医療費が控除されます。
・雑損控除:
納税者本人と同一生計の配偶者やその親族が災害や盗難などに遭ったとき、その損害に応じて一定の金額が控除されます。
・生命保険料控除:
納税者本人が、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料などを支払っている場合、一定の金額が控除されます。
・地震保険料控除:
納税者本人が、地震や津波で損害を被った場合に備えた地震保険の保険料を支払っている場合は、一定の額が控除されます。
・社会保険料控除:
納税者本人、または納税者本人と同一生計の配偶者や親族が、社会保険料(健康保険・国民年金・厚生年金保険など)を支払ったときに控除されます。
・寄付金控除:
納税者本人が、国や地方公共団体などに対して「特定寄付金」を支出している場合は、控除されます。「ふるさと納税」も寄付金控除の対象となります。
・障害者控除:
納税者本人、もしくは控除対象者の配偶者や扶養親族が、所得税法上の障害者として認められる場合に控除を受けられます。
・寡婦・寡夫控除:
納税者本人が、所得税法上の寡婦・寡夫の場合、控除が受けられます。
・勤労学生控除:
納税者本人が、所得税法上の勤労学生の場合、控除を受けられます。
・配偶者控除・配偶者特別控除:
納税者本人に、所得税法上の控除対象者である配偶者がいる場合、一定額の控除を受けられます。
・扶養控除:
納税者本人に養うべき家族などがいる場合、控除が受けられます。
・小規模企業共済等掛金控除:
小規模企業の経営者や役員、個人事業主などが事業をやめたり、退職した際の退職金制度のような小規模企業共済等の掛金について控除が受けられます。
以上のように様々な控除対象があり、要件もそれぞれ異なります。詳しくは、国税庁のホームページ等を参考にし、適切に控除を受けられるようにするとよいでしょう。
参考:国税庁 所得金額から差し引かれる金額(所得控除)
所得税計算の前に④~従業員の経費「給与所得控除」とは?
給与所得者には、「給与所得控除」と呼ばれる項目が給与明細に設けられています。課税所得に税率を掛けた後に、一定の金額を控除することができます。
具体的な税率等については、国税庁ホームページをご参照ください。
参考:国税庁 給与所得控除
所得税計算の前に⑤~所得控除の税率とは?
所得税は、課税所得額に応じて5~45%の「超過累進課税率」を採り入れています。これにより、各納税者がその支払い能力に応じた税を負担することになります。
例えば、最も低い税率は5%ですが、最も高い税率は45%となっています(2020年6月現在)。つまり、所得税は、所得が高くなればなるほど、税率も高くなります。
具体的な税率等については、国税庁ホームページをご参照ください。
参考:国税庁 所得税の税率
所得税計算の前に⑥~税額控除とは?
所得控除のほかに、「税額控除」と呼ばれるものがあります。所得控除は、税額計算前の所得から控除が適用されるのに対し、税額控除は、税額計算して算出された所得税額から直接差し引くものです。
したがって、税額控除の対象として適用されたものについては納税額を大幅に下げることができます。ただし、その分、計算を間違えると影響も大きくなってしまうので注意が必要です。
税額控除の対象となる代表的な例は、以下のとおりです。
・配当控除:
国内企業の株式からの配当所得を得た場合、対象となります。
・住宅借入金等特別控除:
住宅を購入したり、改築などで借入をする等、国内で住宅ローンを組んだ場合は控除額の対象となります。
・住宅耐震改修特別控除:
耐震改修を行った場合、住宅耐震改修にかかった費用が控除額の対象となります。
・政党等寄附金特別控除・公益社団法人等寄附金特別控除額・認定NPO法人等寄附金特別控除:
政党などに寄付した場合、「その年に支払った寄付金の合計額-2,000円×30%=寄附金特別控除額」が控除されます。
・外国税額控除:
外国の法令で所得税に相当する税金を支払った方や、外国企業からの収入がありすでにその国の所得税を支払った場合に適用されます。
源泉所得税の仕組みとは
給与等の支払いにあたっては、源泉徴収することになりますが、どのように源泉所得税をしているのかを把握しておくことも大切です。給与所得によって源泉徴収すべき税額が異なるので、国税庁が定めたルールに従って行わなければいけません。
具体的には、国税庁が定めている給与水準や扶養家族の人数に応じて定められた税額の一覧表「給与所得の源泉徴収税額表」を使って計算します。給与所得の源泉徴収額標には、「月額標」「日額標」「賞与」の3種類あります。
月額標は、毎月の給与が月払いされる場合と、半月ごとや2~3か月ごとに支払われる給与の際に使用します。日額標は、その日や1週間ごとなどに支払われる場合に使います。賞与は、ボーナスなどの賞与を対象とした支払いをする際に用います。
参考:国税庁 令和2年分 源泉徴収税額表
給与所得に対する源泉税とは?
給与所得には、給料や賞与などに加え、皆勤手当、残業手当、住宅手当などの各種手当も含まれ、それらすべてに対して所得税が課せられます。
この所得税は確定申告の際に納付するものではなく、上記の「給与所得の源泉徴収税額表」に基づき、自動的に毎月の給与から天引きされ、雇用者が納付します。給与を支払う雇用者は、徴収義務者として、翌月10日までに徴収した税金を納付する必要があります。
給与所得の源泉徴収税額月額表の見方とは?
給与所得の源泉徴収税額表は、大きく分けて「甲」「乙」「丙(日額表のみ)」の欄で構成されています。
・甲の欄:
「給与所得者の扶養控除等の申告書」を提出した方に適用されます。ほとんどの従業員が、甲の欄となります。
・乙の欄:
「給与所得者の扶養控除等の申告書」の提出がない方や、2か所以上から給与を受け取る方に適用されます。
・丙の欄:
日額表だけに設けられる欄で、日雇いや短期間のアルバイトなどに適用されます。
甲、乙、丙の欄を確認できたら、「源泉徴収額」を確認します。その後、給与金額から社会保険料を控除した金額を計算し、「その月の社会保険料控除後の金額」(縦軸)と合っているかどうかを照合します。
次に、「扶養親族等の数」(横軸)で扶養人数の数を確認します。これらが交わる部分の金額が「源泉徴収税額」になります。
賞与に対する源泉所得税の計算方法
ボーナスなどの賞与に対する源泉税は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。
「前月に給与が支給され、賞与の額が通常の場合」や「前月に給与が支給され、その10倍の賞与額の場合」「前月に通常の給与の支払いが発生しなかった場合」等、支給方法や金額によって算出方法も異なるので、詳細は国税庁のホームページ等の参照をお薦めします。
参考:国税庁 平成31年(2019年)分 源泉徴収税額表
退職金に対する源泉所得税の計算方法
退職金は、所定期間継続した雇用関係の終結に支給される退職手当や一時恩給として、所得税法で定められています。また、社会保険制度に基づく退職一時金も、退職所得として扱われます。
一方、退職金を年金方式で受け取る場合は、雑所得して課税されます。退職金を支払う事業主から「退職金受給に関する申告書」の提出がない場合は、一律で退職金の20%を所得税として源泉徴収するように定められています。
なお、20%の源泉税額が不足している場合は、確定申告で清算します。
源泉所得税を計算するうえで注意したいこと
源泉所得税を計算する際、本人が寡婦や寡夫、勤労学生、障害者に該当している場合や、扶養親族に障害者が該当する場合などは、扶養親族数に1を足した数で税額表を参照して計算します。
また、2013年より所得税に加え、東日本大震災の復興財源の確保を目的「復興特別所得税」が制定されました。復興特別所得税は、課税基準となる所得税額の2.1%が、給与だけでなく賞与にも適用されます。ちなみに復興特別所得税の課税は、2037年分まで予定されています。
源泉所得税の納付方法は?
源泉徴収された源泉徴収所得税と復興特別所得税の納付は、源泉徴収をした翌月の10日(10日が土日祝の場合はその翌営業日まで)までに納付しなければいけません。
納付する際には、「所得税徴収高計算書」を作成し、管轄地区の税務署や金融機関、もしくはe-taxで納付します。
なお、従業員が10人未満の事業所の場合、「納期の特例」という制度を申請して受理されると、年に2回にまとめて納付することができます。
所得税の計算は、基本に忠実に
毎月の給与から所得税を計算することは、企業において重要な業務のひとつです。一人ひとりの従業員の給与水準や扶養家族の人数に応じて徴収額を算出しなければならないので、担当部署・担当者にとっては大きな負担にもなっているでしょう。
企業としても、計算間違いのないよう正しく所得税を計算して源泉徴収し、決められた日時までに納税をし、責任を果たすようにしましょう。
近年は会計ソフトやクラウド会計システムなども充実し、作業が効率よく行えるようになっていますが、それでも十分注意しながら作業しなければいけません。国税庁等による定めをしっかりと理解し、基本に忠実に行いましょう。
計算ソフトはたしかに便利ですが、企業においては様々な人が働いており、個々の事情を持っています。所得税の仕組みをきちんと理解したうえでツールを活用し、日頃から適切に管理するように意識することが大切といえるでしょう。
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