【年金受給者必見】年金所得税はすべての人が対象?「確定申告不要制度」とは?
年金は、税法上では「雑所得」とみなされているため、基本的には所得税の対象となっています。ただし、年金受給者の場合は、所得税がかかる場合とかからない場合があります。また、所得税がかかる場合は、確定申告が必要な場合と不要な場合があります。
この記事では、どのような場合に所得税がかかるのか、確定申告が必要なケースと不要なケースなどについて分かりやすく解説していきます。
目次
年金受給者は確定申告は必要?不要?
年金受給者の場合、原則、確定申告が必要です。なぜなら、年金も所得の一種である「雑所得」とみなされており、所得税と住民税の課税対象となっているからです。しかし、高齢者に負担を減らすために、公的年金などに係る「確定申告不要制度」という制度が設けられています。後述しますが、この制度の条件に当てはまる場合は、特別な手続をすることなく、確定申告は不要となります。
所得税が免除されるケース
公的年金だけの収入を受給する場合、65歳未満の方は受給額が108万円以下、65歳以上の方は受給額が158万円以下である場合は、所得税は課せられません。なぜなら、年金受給額から基礎控除と公的年金控除を合わせると、課税対象となる所得がゼロとなるため、所得税は発生しません。
つまり、国民年金の老齢基礎年金だけを受給している場合は、所得税はかからない、つまり、所得税が免除されます。
公的年金から所得税が源泉徴収される人とは?
前述したように、65歳未満の方は受給額が108万円以下の場合と、65歳以上の方は受給額が158万円以下の場合は所得税が免除されます。では、それとは逆に、65歳未満の方で受給額が108万円以上の場合と、65歳以上の方で受給額が158万円を超えた場合はどうなるのでしょうか?
この場合、超えた分の金額に、所得税と復興特別所得税が課せられます。徴収額が計算され、公的年金の支給額から源泉徴収されます。その際、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出する必要があります。
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」とは?
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」とは、65歳未満の方で108万円、65歳以上で158万円を超えた場合、日本年金機構から送られてくる書類です。この書類は、毎年、9月中旬頃から10月上旬にかけて郵送で届きます。この書類は、源泉徴収の税額を決めることを目的とした申告書なので、源泉徴収がない人には届きませんし、提出する必要もありません。
課税対象となる方が「扶養親族等申告書」を提出することで、それを基に、老齢年金に課税する所得税と復興特別所得税が算出され、源泉徴収されることになります。「扶養親族等申告書」を提出すると、該当する控除を受けることができ、税率5.105%が適用されます。
なお、控除対象となる配偶者や扶養親族等がいない場合でも、税率5.105%を適用させるために提出する必要があります。「扶養親族等申告書」の提出を忘れてしまうと、控除を受けることができないだけでなく、所得税率(源泉徴収税率)が10.21%と割増しになるなどのペナルティが発生します。
「扶養親族等申告書」の提出から源泉徴収までの流れ
前述した点と少し重なりますが、年金受給者が、年金機構から郵送で届いた「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出すると、次のような流れで公的年金から所得税などが源泉徴収されます。
ステップ1:年金支給額から社会保険料が差し引かれる
社会保険料には、国民年金保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料などが該当します。
ステップ2:1から所得税の基礎控除、公的年金等控除、各種控除が差し引かれる
ステップ3:2に所得税率の5.105%をかけて、所得税及び復興特別所得税額を算出する
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出しない場合は、所得税率が倍の10.21が適用される
「扶養親族等申告書」の提出を忘れてしまった場合
扶養親族等申告書の提出期限を過ぎてしまったとしても、提出すれば受け入れてもらえることがほとんどです。もちろん、提出期限から大幅に遅れている場合は、その内容が反映されないこともあります。
しかし、所得税は確定申告で精算することが可能です。つまり、提出をしない場合は通常の倍の所得税率が適用されますが、確定申告をすることで余分に徴収された所得税が戻ってくるということです。
「確定申告不要制度」とは?
年金受給者を対象とした「確定申告不要制度」とは、年金受給者の確定申告の負担を減らすことを目的とした制度です。
確定申告不要制度の対象者
確定申告不要制度が適用するためには、次の2つの条件を満たしている必要があります。
条件①公的年金などの収入金額の合計額が400万円以下で、公的年金がすべて源泉徴収の対象であること。
公的年金などとは、国民年金、厚生年金、共済組合などから支給される老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、老齢共済年金)、恩給や過去の勤務に基づいて雇用者から支給される年金、確定給付企業年金契約に基づいて支給される年金などが該当します。
条件②公的年金などに係る雑所得以外の各種の所得金額が20万円以下であること。
公的年金などに係る雑所得以外の各種所得とは、生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金、給与所得、一時所得、不動産所得、生命保険の満期返戻金、株式などの譲渡所得などが該当します。
確定申告不要制度対象者でも確定申告が必要な人とは?
上記の2つの条件に該当している場合でも、所得税及び復興特別所得税の還付を受ける方や、住民税の申告が必要な方は、確定申告をする必要があります。
【所得税及び復興特別所得税の還付を受ける場合】
公的年金などから所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されている場合、一定の要件が当てはまる方は、還付を受けられる可能性があります。その場合は、還付を受けるために確定申告をする必要があります。還付が受ける具体的なケースには、次のようなものが挙げられます。
・マイホームを住宅ローンなどで購入した場合
個人が住宅ローンなどを利用して、マイホームの新築、取得、増築などをした場合は、住宅ローン控除として知られている「住宅借入金等特別控除」、もしくは「特定増改築等住宅借入金等特別控除」が受けられます。控除額は、住宅ローンなどの年末残高合計額の1%(特定増築等の場合は2%)で、控除期間は10年(特定増築等の場合は5年)となっています。
給与所得者の場合は、2年目以降は年末調整で控除することができますが、年金受給者の場合は、毎年、確定申告をする必要があります。
・家族構成が変更した場合
夫婦が離婚したり、死別したりなど、家族構成が変更したときは、確定申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。例えば、離婚や死別の場合は、寡婦(寡夫)控除を受けることができます。配偶者だけでなく、控除対象となる扶養親族の数や、障害者の数などに追加や減少などの変更がある場合も、確定申告が必要となります。
・一定額の医療費を支払った場合
納税者本人と同一生計をする配偶者や親族などが支払った医療費の合計金額が一定額を超えた場合は、医療費控除を受けることができます。医療費控除は、年金受給者に限らず、すべての納税者が確定申告をしなければ医療費控除を受けることができません。
医療費の一定額とは、自己負担で年間10万円以上支払った場合です。しかし、年金受給者の中でも所得金額が低い場合は、医療費の自己負担が、「(所得金額+申告分離課税の所得)×0.05」の計算式で算出された額よりも多ければ、たとえ医療費の支払い合計金額が10万円以下だとしても、医療費控除を受けることができます。
・災害や盗難に遭った場合
災害や盗難、横領などで、住宅や家財などの資産が損害を受けた場合は、一定の金額の所得控除が受けられる雑損控除の対象となります。控除を受ける際には、支出があったことを証明する領収書などのほかに、「罹災証明」や「盗難届」などの書類も必要となります。
・配偶者の国民健康保険料や生命保険料を支払った場合
配偶者の国民健康保険保険料や生命保険料を支払った場合は、社会保険控除や生命保険料控除を受けることができます。
・寄付をした場合
国への寄付金や都道府県や市町村などへのふるさと納税、公益社団法人や認定NPO法人などへの寄付金、政治献金など寄付をした場合は、確定申告をすることで寄附金控除が適用されます。なお、ふるさと納税に関しては、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用するなら、確定申告扶養で寄附金控除を受け取ることができるようになっています。
【住民税の申告が必要な場合】
確定申告不要制度の対象者だとしても、次の要件に該当する方は、住民税の申告をする必要があります。
・公的年金などに係る雑所得のみの方で、「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除以外の各種控除の適用を受ける場合
社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除等が該当します。
・公的年金などに係る雑所得以外の所得がある場合
生命保険料控除、損害保険料控除、医療費控除などが該当します。
「確定申告不要制度」に該当しているかどうかをセルフチェックする方法
「確定申告不要制度」の対象者かどうかを自分でチェックする方法があります。それは、日本年金機構などから届く「公的年金等の源泉徴収票」を確認することです。
毎年、確定申告が始まる前の1月~2月にかけて、日本年金機構や企業年金などから「令和○○年分 公的年金等の源泉徴収票」という書類が、年金受給者に送付されます。その書類を見ながら、前述した確定申告不要制度の対象者条件に該当するかを確認していきましょう。
ステップ1:公的年金の支払金額をチェック
まず①つ目の条件は、公的年金などの収入金額の合計額が400万円以下で、公的年金がすべて源泉徴収の対象であることでした。(上記を参照)公的年金等の源泉徴収票の「支払金額」の金額が、400万円以下かどうかを確認してください。
複数の年金を受給している方は、すべての源泉徴収票の「支払金額」を合算して、400万円以下になるかどうかを確認してみましょう。支払金額が400万円以下であれば、確定申告扶養制度の対象者条件をひとつクリアしていることになります。
ステップ2:公的年金以外の所得金額の合計額をチェック
続いて、②つ目の条件である公的年金などに係る雑所得以外の各種の所得金額が20万円以下である、という条件を確認します。
そのためには、公的年金以外の収入を把握し、所得の種類ごとに所得金額を計算して、合計金額を求めます。所得金額の合計額が20万円以下であれば、2つ目の条件もクリアしていることになるため、確定申告不要対象者となります。
確定申告をするには?
では、確定申告が必要な場合は、どのように行えばよいのでしょうか?毎年1月になると、年金機構から年金の源泉徴収票が郵送で届きます。この内容を参考にしながら、確定申告書に転記し、源泉徴収票と一緒に税務署へ提出します。
公的年金以外の企業年金など複数の年金を受給している方は、すべての年金の額を合算し、すべての源泉徴収票を添付します。また、年金を受給しながら、給与所得など他の取得がある場合は、それらの書類も一緒に添付して提出する必要があります。
確定申告の書類作成は、手書きで行うこともできますし、国税庁の「確定申告等作成コーナー」や、会計ソフトなどを利用して作成することもできます。確定申告の作成作業自体に不安を感じている方や、自分で作成したくないという方は、税の専門家である税理士に確定申告を依頼するのもひとつの方法です。
いずれにせよ、年金受給者でも確定申告が必要な方は、期限内に申告を済ませるようにしましょう。
まとめ
年金受給者の場合、年齢や支給額によって、所得税及び復興特別所得税の課税対象、非課税対象になるかが変わってきます。税額は、年金受給者が提出する「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」をもとに決定します。また、年金受給者の確定申告の有無は、「確定申告不要制度」が適用される条件をクリアしているかどうかで判断できます。
確定申告が不要対象者だとしても、受けたい控除がある場合は確定申告をしなければいけません。このように年金受給者の所得税は、個々の状況によって大きく変わりますので、内容をしっかり理解しておくようにしましょう。
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