【過怠税も】収入印紙を甘く見てはいけない
「収入印紙」という言葉は、見聞きしたことがあるという方がほとんどでしょう。しかし、その内容をしっかりと理解されている方は多くはないかもしれません。
「領収書で、収入印紙を貼ってと言われるものがある」
「そういえば契約書等で収入印紙を貼ったような気がする」
などと、漠然とした記憶はあるかもしれません。しかし、
「どうして収入印紙が必要な書類と、必要でない書類があるのか」
「収入印紙を貼り忘れると、どうなるのか」
といったことを知らない方は、少なくありません。
しかし、収入印紙は印紙税法によって定められた義務であり、必要書類に貼り忘れると過怠税が課されます。漠然とした理解のまま放置しておいた結果、思わぬ負担が生じる可能性があります。
一方、最近ではIT化の促進から、契約書をクラウド上などでやり取りし、電子署名による契約を取り交わすことで収入印紙代を節約する動きも活発化しています。こうした動きにも注目したいところです。
サイズも金額も一見小さい収入印紙ですが、不適切な取扱いをした場合のリスクは、決して小さいものではありません。そこで、この記事では収入印紙の役割やルール、入手方法など、収入印紙の取扱いについて解説していきます。
目次
収入印紙とは?
収入印紙は、税金の支払いや行政関係の手数料などを支払う際に使用する切手のような素材の証票です。発行は、財務省が行っています。収入印紙を貼ることで納税することになります。
額面は最も安い1円からはじまり、2円、5円、10円と細かく種類が分けられており、最高額10万円までの合計31種類の収入印紙が発行されています。
収入印紙は、切手と似ているためか、貼り付けるだけで済ませてしまうというミスが散見されますが、ただ書類に貼るだけでは用をなしません。印紙税を納める必要のある書類に収入印紙を貼り、消印(割り印)することで、印紙税を納税したことになります。
つまり、消印が無いと、印紙税を納めたことにはならないので注意しなければいけません。ちなみに、印紙に押印する消印は、署名でも印鑑の代用として認められます。
収入印紙により納税する「印紙税」とは?
印紙税は国税の一種で、印紙税法によって定められている一定の課税文書を作成したときに課される税金です。
文章の内容や書類の種類、記載されている金額に応じて課される金額が決定されます。その書類を作成した人が、所定金額の収入印紙を書類に貼り付けて消印を押すことで納税したことになります。
印紙税は、消費税や法人税のように自分で計算して税務署に申告する申告納税ではありません。ですから「納税をしている」という感覚が持ちづらいかもしれません。しかし、納めなければいけない税金であることに変わりはありません。
そのため、収入印紙を貼り付けて納税しなければならない書類を放置した場合は、印紙税だけでなく過怠税が発生するのです。しっかりとした理解と管理が必要です。
収入印紙が必要になる「課税文書」とは?
すべての取引書類が、印紙税の対象になっているわけではありません。印紙税の対象となっている書類は印紙税法によって規定されています。この規定に該当する場合、収入印紙を貼って納税することになります。この「収入印紙を貼らなければいけない書類」は、「課税文書」と呼ばれています。
課税文書にはいくつかの種類があり、国税庁が発行している「印紙税額一覧表」に1号~20号までの各種類の詳細が詳しく記載されています。代表的なものをいくつか挙げてみます。
・1号文書
不動産や鉱業権など無体財産権に関する契約書や、土地の貸借権などに関する契約書、運送に関する契約書、金銭借用書などの契約書などの書類が該当します。印紙税額は、契約金額によって決まります。
・2号文書
請負に関する契約書類が該当します。例えば、スポーツ選手・ミュージシャン・俳優・女優等の仕事における契約や工事請負契約書などが挙げられます。
・4号文書
株券や投資信託などの受益証券に関する書類です。
・6号文書
6号文書には、会社を設立するときに作成する定款が該当します。印紙税は一律40,000円と規定されていますが、電子定款で作成した場合、収入印紙を貼る必要はありません。
・7号文書
7号文書には、業務委託契約書や継続的な取引の際に行われる契約書が該当します。印紙税は一律4,000円と規定されています。
・10号文書
10号文書は、保険証券です。印紙税は一律200円と規定されています。
・16号文書
16号文書は、配当金の領収書や配当金の振り込み通知書で、配当金額が3,000円以上、もしくは契約金額が記載されていない書類が該当します。印紙税は一律200円と規定されています。
・17号文書
17号文書には、売上代金にかかる金銭や有価証券の受取書、領収書などが該当します。
収入印紙が必要になる書類の内容
課税文書に該当する代表的な書類には、次のような内容のものが挙げられます。
・各種契約書
不動産の譲渡や賃貸契約書、銀行取引約定書、代理店契約書、金銭消費貸借契約、請負契約書、信託行為契約書、債務保証契約書など様々な内容の契約書が該当します。契約書の種類や記載されている金額によって、印紙税額が決定されます。
・約束手形や為替手形
手形は、売り上げや仕入れの決済をする際に用いられることがあります。受取手形も支払手形も課税文書に該当し、記載されている金額によって収入印紙の金額が変わってきます。
・定款
株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、相互会社など会社を設立する際の原始定款(原本のみ)には、収入印紙が必要です。印紙税額は、一律40,000円と規定されています。
・領収書
50,000円以上の金額が記載されている領収書には、その金額に応じて収入印紙を貼るよう規定されています。
詳しくは国税庁のホームページに記載がありますので、最新の情報をご確認ください。
参考:
国税庁ホームページ
・印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
・印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
収入印紙が不要なケースもある
課税文書に当てはまる内容の文書だとしても、印紙税法第5条に規定されている内容に該当しているなら印紙税は課されません。こうした文書は「非課税文書」や「不課税文書」と呼ばれ、収入印紙は不要となります。
例えば、契約金額が少額の契約書、病院が発行する領収書(医師・歯科医師・保健師・助産師などが作成する受取書)、公益社団法人・公益財団法人・一般社団法人・一般財団法人・NPO法人などが作成する受取書、弁護士や司法書士などが業務上作成する受取書、5万円未満の領収書などは非課税となります。
また、メールやSNSなどインターネットを用いた電子的な方法(電子契約)で相手に手渡した場合は、課税されないため収入印紙は不要です(同じ内容でも印刷した課税文書を手渡しや郵送し、紙文書でのやり取りとなった場合は課税の対象となります)。
なお、東日本大震災や、平成28年4月1日以後に発生した自然災害等により被災した方が作成する契約書等においては印紙税が非課税となる場合があります。詳しくは、国税庁ホームページをご参照ください。
参考:
国税庁ホームページ
・東日本大震災に関する税制上の追加措置について(印紙税関係)
・ 自然災害等により被害を受けられた方が作成する契約書等に係る印紙税の非課税措置について(平成29年4月(PDF/169KB))
海外の取引先と契約を交わすときの収入印紙
印紙税が課されるのは、日本国内で作成される課税文書が対象です。では、海外の取引先と契約を交わすときは、印紙税は課されるのでしょうか? 結論から述べるなら、契約を交わす場所によって変わってきます。
例えば、請負契約について日本国内で契約書を作成し、当社の署名や押印をした状態の書類を海外のA社に送付し、A社が署名と押印をして返送したとします。
この場合、A社が署名や押印をしたときに課税文書が完成したことになります。つまり、完成したのはA社のある海外であり、日本国内ではありません。そのため、課税文書の対象外となります。
一方、A社が海外から来日し、署名押印をした場合は、日本国内で書類が完成したことになるので、課税文書の対象になります。
収入印紙が購入できる場所
収入印紙は、郵便局や法務局、一部のコンビニエンスストアなどで購入することができます。ただし、コンビニエンスストアでは、高額な収入印紙を扱っていないところも多いので、高額の収入印紙が必要な場合は郵便局や法務局での購入をおすすめします。
なお、収入印紙は金券ショップなどでも販売されていますが、購入時には消費税が課税されます。
収入印紙に不備があった場合
では、課税文書に収入印紙を貼り忘れてしまった場合は、どうなるのでしょうか?
税務調査において、課税文書に収入印紙が貼っていなかったことを指摘された場合は、過怠税が発生します。過怠税額は、納付すべき印税額の3倍に相当する金額と定められています。
また、消印に不備があることを税務署から指摘された場合は、消されていない印紙の額面に相当する金額が過怠税として徴収されます。
税務署から指摘されるのではなく、自主的に「納付しなかった」ことを申告して納税する場合は、本来の印紙税額の1.1倍額が過怠税として徴収されます。
必要以上の収入印紙貼付けは、還付が可能
では、間違えて必要以上の金額の収入印紙を貼ってしまった場合は、どうなるのでしょうか?
この場合、還付金を受け取ることができます。国税庁の規定によると、請負契約書や領収書などの課税文書に貼り付けた収入印紙が過大なものや、印紙税の課税文書に収入印紙を貼り付けたが使用する見込みがなくなったもの、課税文書に該当しない書類に収入印紙を貼り付けてしまったものなどは、印紙税の還付対象になります。
還付を受ける場合は、「印紙税過誤納確認申請書」に必要事項を記入し、管轄地区の税務署に提出します(申請書は国税庁のホームページからも入手可能です)。その際、確認申請書、もしくは充当請求書と一緒に過誤納となった文書も一緒に提出しなければいけません。
提出後、税務署にて事実が確認されると、約1ヵ月ほどで確認申請書などで指定した方法で還付を受けることができます。
参考:
国税庁ホームページ
・印紙税過誤納[確認申請・充当請求]手続
一方、購入した収入印紙を使用する見込みがなくなった場合は、所定の交換手数料を支払えば、税務署や郵便局で他の収入印紙と交換することが可能です。
収入印紙は、正しい使用・管理を
これまで挙げてきたように、収入印紙は、印紙税法に規定されている課税文書を作成した際に課される税金の一種です。印紙税法に基づいた正しい形で使用しないと、過怠税が納税額の最大3倍にまで課税されるので注意が必要です。
納税義務者は文書作成者で、課税文書の種類や記載されている金額に応じて規定されている収入印紙を文書に貼り、消印を押すことで納税したことになります。納税手続きに不備があると、過怠税が発生します。一方、誤って多く納税した印紙税は、還付を受けることが可能です。
各種書類に貼り付ける収入印紙の額は、一見小さなものに感じるかもしれません。しかし、契約書や領収書等を、年に一度しか出さないという業態は珍しいでしょう。これらが課税書類だった場合、そしてそれが何百枚にも及んだ場合、負担も大きくなります。
また、最近では収入印紙の不適切な取扱いによる、横領事件や不正会計も発生しています。主に金券ショップを利用した手法のようですが、社内における収入印紙の管理・取扱いの大切さについて改めて考えさせられるものです。発覚した場合の損失や、信用の喪失は大きいでしょう。
例えば、収入印紙の取扱いは特定の管理者を定めたり、利用時には日付や利用者、枚数と金額等を帳簿に記入し定期的に残高を確認すると、不適切な利用の有無を確認できますし、抑止効果にもなります。また、管理者の不在時には金庫に入れる等により、盗難や紛失を防ぐようにするとよいでしょう。
改めて、日頃取り扱っている書類が課税書類であるか否かを確認したり、収入印紙が社内で適切に取り扱われているか点検することをお薦めします。
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
サービス内容としては、税理士の口コミから無料相談・厳選した税理士の紹介まで提供しております。
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