個人住民税の「特別徴収税額」とは何?経営者なら知るべき特別徴収制度の基本
毎年6月になると、地方税の一種である個人住民税の「特別徴収」の新しい年度が始まります。特別徴収とは、事業主が従業員に対して行う住民税の徴収、つまり天引き制度、そして「特別徴収税額」とは、給与から天引きされる税額のことです。
では、個人住民税の特別徴収とは何のことでしょうか?この記事では、特別徴収とは何か、特別徴収税額の決め方、納税までの流れ、納税方法など経営者が知っておくべき基礎知識を説明していきます。
目次
特別徴収とは?
地方税の一種である個人住民税とは、その名前の通り、個人が負担する地方税です。地方税は都道府県民税と市町村民税の2つで構成されています。そして、個人住民税の徴収方法には、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類あります。
普通徴収とは、納税者が直接税を納める方法です。一方、特別徴収とは、事業主が従業員の給与から天引きして代わりに納める方法のことです。
事業主には、国税である所得税の源泉徴収のように、地方税である住民税を特別徴収という形で、給与から源泉徴収、つまり天引きするよう義務付けられているのです。特別徴収の対象者は、正社員をはじめとし、アルバイトやパート、短期雇用者、役員など雇用形態問わず、すべての人が該当します。
個人住民税の特別徴収の納付までの流れ
個人住民税は、1月から12月までの個人の所得に対して課税されます。そして、特別徴収の場合は、毎年6月から翌年5月にかけて個人住民税を納付します。では、大まかな流れをみていきましょう。
ステップ①「給与支払報告書」の提出
源泉徴収義務のある事業所は、前年1月から12月までの1年間の、各従業員の給与支払額を給与支払報告書にまとめ、市区町村の窓口に1月31日までに提出することが求められています。この給与支払報告書に基づき、住民税算定の基準が決まります。なお、年の途中に退職した従業員がいる場合は、その人の給与支払報告書の提出も必要となります。
ステップ②特別徴収税額通知書の送付
「給与支払報告書」提出後、各市区町村で住民税額が計算されます。そして、従業員ひとりひとりの住民税額が、毎年5月31日までごろに事業所に「特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用・納税義務者用)」が送付されます。
ステップ③個人住民税の徴収
通知書には、各従業員の住民税の年額税と月額税が記載されています。事業主はそれに基づき、6月分の給与から翌年の5月分の給与まで、個人住民税の源泉徴収をします。
ステップ④個人住民税の納付
各従業員の給与から源泉徴収した住民税額は、原則、給与支払いの翌月10日までに納付書を使って納付しなければいけません。金融機関、もしくは市区町村の窓口で納付します。
「特別徴収税額決定通知書」の見方とチェックポイント
毎年5月31日までに事業者宛てに送付される「特別徴収税額決定通知書」が届いたら、その内容を確認しましょう。なお、この通知書は大きく4つの分野、①所得、②課税標準、③所得控除、④税額、で構成されています。
①所得
所得の欄は、「給与収入」「給与所得」「その他の所得計」「主たる給与以外の合算所得区分」「総所得金額」の項目があります。
・給与収入
給与収入とは、年収のことです。
・給与所得
給与所得は給与収入から給与所得控除額を差引いた金額が給与収入になります。
・その他の所得計
その他の所得計には不動産所得や利子所得などの金額が記載されます。
・主たる給与以外の合算所得区分
主たる給与以外の合算所得区分には、それに該当する所得の合計額が記入されます。
・総所得金額
総所得金額とは、給与所得控除後の金額のことです。
②課税標準
課税標準とは、税額計算の基礎となる金額のことです。通知書には、全ての所得の合計して所得割額を計算する「総合課税」と、それ以外の方法で計算する「分離課税」の2種類の記載されています。
③所得控除
所得控除の欄には、全部で14種類の控除項目が記載されています。給与所得から差し引く所得控除額を確認しましょう。
④税額
最後の税額の欄には、市町村民税と道府県民税の「税額控除前所得割額」「税額控除額」「所得割額」「均等割額」が記載されています。
・税額控除前所得割額
税額控除前所得割額とは、③の課税所得に税率をかけた金額が記載されています。税率は、市町村民税・特別区民税が6%、道府県民税・都民税が4%が設定されています。(ただし、政令指定都市は市民税8%、道府県民税2%)
・所得割額
所得割額とは、税額控除前所得割額から税額控除額を引いた金額のことです。
・均等割額
均等割額とは、2023年度(令和5年度)までは、一部地域によっては異なりますが、基本的には、道府県民税・都民税が1500円、市町村民税・特別区民税が3500円となっています。
特別徴収税額の納付方法
「特別徴収税額決定通知書(特別徴収義務者用)」には、通知書と一緒に納入書も同封されています。納入書には、納入月毎の月割額が印字されています。指定されている金融機関や郵便局などに納入書を持参し、納付します。納入書には、各月の納付期限が印字されているので、納付期限までに納税するようにしましょう。
納付期限の特例
特別徴収税額は、原則、年12回に分けて納付することになっています。しかし、人手が不足しがちな小規模事業主にとっては、年に12回、つまり1ヵ月に1回金融機関などへ出向き、納税することは手間のかかる業務のひとつです。そこで「納期の特例」という制度を設けています。
納期の特例とは、給与支払いを受ける従業員が常時10人未満の事業者のみが利用できる制度です。この制度が適用された場合は、6月~11月分までの6ヶ月分を12月10日まで、12月~翌年5月分までの6ヶ月分を6月10日まで、の年2回に分けて納付することができます。
特別徴収税額についてよくある質問
5月になっても通知が届かない・・場合は?
「5月になっても、特別徴収税額決定通知書が届かない・・」というケースがあります。給与支払報告書を1月末までに提出している場合は、引っ越しや転勤で従業員の住所が変わった、などの理由が考えられます。
2月以降に提出した場合は、給与報告書提出が遅れて事務手続きが遅れていると考えられます。いずれにせよ、手続きが遅れると正確に給与計算ができなくなってしまうので、早めに市町村へ問い合わせることをおすすめします。
新たに社員が入社した場合は?
新たに雇用することになった従業員が普通徴収であった場合、「特別徴収切替届出(依頼)書」を市町村に提出する必要があります。すでに納付期限を過ぎた税額は、特別徴収へと切り替えることができないので、従業員個人で納付しなければいけません。
従業員が退職した場合は?
従業員が退職した場合は、ケースによって対応が異なります。
【退職した従業員が再就職した場合】
退職した従業員が再就職した場合、新しい勤務先で特別徴収を続けるときは、翌月10日までに新しい勤務先へ「給与所得者異動届出書」を送ることで特別徴収を継続させることができます。
【退職した従業員が再就職しない場合】
一方、退職したものの再就職しない場合は、翌月以降は徴収義務がなくなります。ただし、未徴収分は、退職した月によって取扱いが異なります。
・1月1日~4月30日に退職した場合
原則残りの分を一括徴収。
・5月1日~5月31日に退職した場合
通常どおり特別徴収。
・6月1日~12月31日に退職した場合
退職月までは通常どおり特別徴収。翌月以降は原則、普通徴収に切り替え。
退職金などを超えない範囲であれば、本人が希望するなら一括徴収にすることも可能。ただし、退職金等を超える部分については普通徴収。
滞納した場合は?
住民税を滞納してしまった場合、住民税を納付する義務のある事業主にペナルティが課せられます。通常、滞納から20日前後で事業所の督促状が送付されます。この場合は、翌月に2ヶ月分まとめて納付することが可能です。ただし、納付額によっては、延滞税が発生することもあります。ですから、当たり前のことですが、納付期限はしっかり守ることは大切です。
まとめ
個人住民税の特別徴収と納付は、経営者に課せられている義務です。従業員の出入や社内転勤が多いと、特別徴収の処理手続きが多くなるため、住民税を滞納してしまう可能性があります。しかし、どんな理由にせよ、住民税を滞納した場合は、それなりのペナルティが発生します。
ですから、定められた税額を、定められた期限までに必ず納付することは経営者に課せられている義務ですので、責任を持って納税義務を果たしましょう。
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