従業員の定着率を上げる企業型確定拠出型年金について
企業型確定拠出年金とは、企業が毎月一定額の掛金を積み立て(拠出)し、加入者である従業員が自分で運用しながら受け取る制度です。原則60歳以降、老後資金として受け取れます。そのため、企業の中には、従業員の定着率を上げることをひとつの目的とし、企業型確定拠出年金を導入するところもあります。
この記事では、企業型確定拠出年金とはどのような制度なのか、加入することでどのようなメリットとデメリットがあるのかなど企業型確定拠出年金について解説していきます。
目次
確定拠出年金とは?
確定拠出年金には、企業が準備した積立額を従業員が運用する「企業型確定拠出年金」と、月々の積立額を自分で決めて年金を作る「個人型確定拠出年金」の2種類あり、どちらも日本の年金制度のひとつです。
そもそも日本の年金制度は、主に「公的年金」「企業年金」「個人年金」の3種類に区分されています。では、年金制度のひとつである確定拠出年金は、どの種類に該当するのでしょうか?
【公的年金】
国が管理する「国民年金」と「厚生年金」
【企業年金】
企業が独自に設ける年金。「厚生年金基金」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」「自社年金」と、「中小企業退職金共済」「特定退職金共済」などの共済制度の2つに分類されている。
【個人年金】
個人で管理する年金。「個人型確定拠出年金」「国民年金基金」「農業者年金」「個人年金商品」「財形年金」など。
このように確定拠出年金には、企業型と個人型の2種類あります。では、両者の違いとは何でしょうか?
企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金の違いとは?
両者にはどのような違いがあるのか、それぞれの特徴をみていきましょう。なお、企業型確定拠出は通称「企業型DC」、個人型確定拠出年金は通称「iDeCo(イデコ)」といいます。
企業型確定拠出年金の特徴
・企業が毎月一定額の掛金を拠出(積み立て)し、加入者である従業員が運用を行う。
・加入者本人が運用責任を負担するため、成果によっては受取額が変わる仕組みになっている。
・企業が掛金を負担するので、企業側は会社の損金として処理できる。
・毎月の掛金は給与として支払われないため、非課税の対象となる。(運用中の利益も非課税対象)
・確定拠出年金制度に加入している企業の従業員のみが加入対象となる。よって、公務員、自営業者、専業主婦(夫)などは加入対象外。
・運用した資産は、原則60歳以降受け取ることができる。ただし60歳未満でも受け取れる例外ケース(加入者本人が障害基礎年金の対象となる障害となった場合や、亡くなった場合など)もある。
個人型確定拠出年金の特徴
・自分で掛金の金額を決め、自分でお金を拠出する。(つまり私的年金制度)
・掛金は全額所得控除の対象となる。よって、確定申告や年末調整をすることで税金の還付が適用される。
・加入対象者は自営業者、専業主婦(夫)、定年退職者、第3被保険者、企業に勤務していない人をはじめとし、会社員や公務員などで企業型確定拠出年金に加入している人でも加入することが可能。
企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金の違い
このように企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金には、拠出の基準が違います。企業型の場合は、企業の独自の基準に従い、企業が掛金を拠出してくれます。加入対象者は、企業型確定拠出年金を導入している企業の従業員のみです。
一方、個人型の場合は、自分で掛け金を拠出する必要がありますが、確定申告や年末調整をすることで税金が還付されます。
厚生年金基金との違いとは?
厚生年金基金も、企業型確定拠出年金同様、加入者となる従業員の給与の一部を掛金として徴収し、そこに企業が上乗せした掛金を運用機関に託す企業年金です。しかし、厚生年金基金は運用商品を選ぶことができない、という大きな違いがあります。
確定給付企業年金との違いとは?
確定給付企業年金も企業年金のひとつです。企業型確定拠出年金との違いは、将来の受取額が確約されているという点です。そのため、運用がうまくいかなかった場合は、企業が追加で補てんを行わなければいけません。
企業型確定拠出年金の拠出額について
企業型確定拠出年金は、すでに前述したように、企業が拠出した掛金を、加入者である従業員が運用する制度です。拠出額(掛金)は一定のルールによってすでに決められていますが、加入者がどのように運用するかによって、将来の受取額が変わってくるため「確定拠出型」と呼ばれています。
なお、拠出限度額は、以下のようなルールが定められています。
・厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施していない場合
月額55,000円
・厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施せず、個人型年金への加入を認めている場合
月額35,000円
・厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施している場合
月額27,500円
・厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施し、尚且つ個人型年金の加入を認めている場合
月額15,500円
運用商品は自由に組み合わせが可能
確定拠出年金は、企業が提携した運営管理機関が提供する金融商品の中から自由に組合わせて運用することができます。金融商品は大きく2つの種類に区分されています。それは収益性が重視された「投資信託」と、安全性が重視された「元本確保型商品」です。各運用商品には以下のようなものが挙げられます。
【投資信託】
・国内債券
・外国債券
・国内株式
・外国株式
・国内REIT
・外国REIT
・バランス型
【元本確保型商品】
・保険
・定期預金
加入しているプランにより提供される運用商品は異なりますが、いくつでも選ぶことができ、組み合わせも自由です。企業型確定拠出年金の場合は個人型とは違い、資産運用や投資先の選定に関してのレクチャーが開かれるため、従業員も安心して運用商品を選定できることができます。
マッチング拠出
企業型確定拠出年金の掛金は原則企業が拠出しますが、従業員が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」を採用している企業もあります。マッチング拠出を採用している場合は、加入者は任意で利用することができます。
なお、加入者が掛金を追加拠出する際には、制限が設けられています。それは、①企業の掛金額を超えないこと、②企業の掛け金と合算したとき法定上限額を超えないこと、の2つの要件を満たしている必要があります。
企業型確定拠出年金に加入するメリットとは?
企業型確定拠出年金への加入は、制度を導入する企業はもちろん、従業員にとってもメリットとなります。ではそれぞれのメリットについてみていきましょう。
従業員へのメリット
・掛金への給与課税が適用されるため、企業が出した掛金はもちろん、本人が出した掛金も非課税となる。
・運用によって得た利息、収益分背筋、売却益なども課税されない。
・年金受け取り時や一時金受け取り時の場合、公的年金に準じた税制優遇が適用されるため、課税額が少なくなる。
・確定拠出年金で掛金を払い込むと給与額から控除され給与額が下がるため、負担している社会保険料の軽減につながる。
・資産管理会社の個人口座の年金資産をいつでも確認することが可能。
・資産運用プランは、自分の考えで決めることができる。
・転職する場合、転職先の企業の確定拠出年金にそのまま持ち運びをし、そのまま資産運用を継続することができる。
・原則60歳から年金、もしくは一時金を受け取ることができる。(ちなみに公的年金は原則65歳からの受取り)
企業へのメリット
・新たな福利厚生をして提供できるため、従業員の定着率を高めることができる。
・中途採用時の雇用条件のひとつとしてアピールできる。
・加入時期や掛金を自由に決めることができるため、全従業員を加入させる義務はない。
・掛金額が従業員の給与額から控除されるため、社会保険料が軽減される。
・従業員が中途退職する場合、運営管理機関と対象従業員で手続きを行うため、企業の事務手続きの負担が少ない。
・経営者や役員も加入することが可能。
このように企業が、企業型確定拠出年金を導入するメリットはたくさんあります。そのため、従業員のための福利厚生として、また従業員の定着率を高めるために、企業型確定拠出年金の導入を検討している企業が近年増えています。ただし、導入する際には、メリットだけでなくデメリットも検討しなければいけません。
企業型確定拠出年金に加入するデメリットとは?
企業型確定拠出年金に加入する際には、メリットだけでなくデメリットについても考慮することは大切です。どのようなデメリットがあるのでしょうか?
従業員へのデメリット
・社会保険料が少なくなる分、厚生年金の受給額が減額される。・元本確保型でない運用商品を選択した場合、元割れが生じるリスクがある。
・原則60歳になるまで現金化することができない。
・運用をするには、ある程度投資の知識が必要となる。
企業へのデメリット
・制度の導入の際、導入コンサルト費用、口座開設費用がかかるうえ、運営のために事業主手数料や加入者手数料などのコストがかかる。
・加入者である従業員に向けて、投資教育や情報教育を提供することが法律で義務付けられている。
・確定拠出年金の選択制導入をした場合、加入・不加入の意思確認や賃金体系の変更など給与システムに変更を加える必要がある。
企業型確定拠出年金の導入は魅力も多いですが、コストや事務手続きなどの対応が求められています。
まとめ
公的年金の支給水準が下がるなど、企業年金と取り巻く環境は常に変化しています。そのため、将来の不安を感じる人は少なくありません。このような状況から、確定拠出年金が注目されています。
特に企業が導入する「企業型確定拠出年金」は、加入対象となる従業員だけでなく、企業側にとってもメリットの多い制度です。まだ企業型確定拠出年金を導入していない企業は、この機会に導入を検討してみるのはどうでしょうか?
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