税務署上がり・税務署OBの税理士は税務調査で顔がきく?
「税務署上がり」「税務署OB」「国税OB」等と呼ばれる税理士がいます。これらは、ほぼ同じ意味です。
いずれも、国税局や税務署といった税務に関する行政機関に勤務経験がある税理士のことを指しています。
一昔前まで「税務署上がりの税理士や、税務署OBは、税務調査に強い」といわれていました。
ここから「顧問税理士には、税務署上がりの税理士がよいだろう」「税務署OBは、税務調査のときに頼りになる」という言説が、かつてはありました。しかし、現在はこの限りではありません。
ここでは、「税務署上がり」「税務署OB」等と呼ばれる税理士の特徴と、このような税理士に仕事を依頼したり顧問契約を結ぶ際の注意点について解説していきます。
目次
税務署上がり・税務署OBの税理士に関する誤解
「税務署上がり」「税務署OB」等と呼ばれる税理士は、多数派である「試験組」と呼ばれる、税理士試験に合格して税理士になった一般の税理士とは、異なるのでしょうか。
その名のとおり、こうした税理士は、税理士としての実務に就く前に、税務著で働いていた経験があります。このことから、
徴税側で働いていたということは、徴税する側の考えを把握しているはず
↓
税務署で働いていたということは、いざというときにはその人脈を活かせるはず
↓
税務署上がり・税務署OBの税理士は、税務調査で頼りになる
…という説が流布されています。しかし、現実はこのように上手くはいかず「誤解」といってよいでしょう。
まず、税務署職員には定期的に人事異動があります(一般的には3年に1度といわれていますが、さらに短い場合もあるようです)。採用局管内での転勤が基本ではありますが、管内といっても範囲は広く、税務署の数も多いので、人間関係はその度にリセットされるといってよいでしょう。
参照:日本税理士会連合会ホームページ 国税専門官に関するQ&A 問10 転勤の範囲を教えてください。
したがって「人脈を活かした対応をしてもらえる」「税務調査のときには、顔見知り同士で融通がきく」といったことはほとんどありません。
また、長期間にわたり厳しい競争にさらされ続けている一般の税理士と比べると、実務経験は乏しいため、顧問先が求めに的確にこたえられない可能性があります。
教科書的な対応は可能でしょうし、税理士としての知識は当然備えています。しかし、ビジネスシーンにおける実務対応や、経営の役に立つようなアドバイスについて、どこまで顧客の期待に添えるは微妙なところです。
税務署上がり・税務署OBと、一般の税理士との違い
一般的には、税理士試験に合格し、日本税理士会連合会(日税連)に登録することで税理士になります。このルートで税理士となった人は「試験組」と呼ばれています。
このルートとは少し異なるのが「税務署上がり」「税務署OB」と呼ばれる税理士です。主に2つのパターンがあります。
1、「税務署上がり」と呼ばれる税理士に多いパターン
まず、税務署勤務と並行して、税理士試験に合格するパターンがあります。
税務署に勤務経験があり、一定の条件を満たすと税理士試験の一部が免除されます。試験の一部が免除されるとはいえ、難関試験に合格して税理士資格を得たわけですから、たしかに「税務署上がり」ではありますが、一般の税理士に近い存在といえます。
2、「税務署OB」と呼ばれる税理士に多いパターン
一定の年数を税務署に所属して実務にあたっていた場合、税理士試験が免除されます。別途定められた研修を受ける必要はありますが、無試験で税理士の資格を得ることができます。
俗に「税務署OB」と呼ばれるのは、このパターンが特に多いようです。
税務署上がり・税務署OBと呼ばれる税理士に依頼するメリット
では、一般の税理士と比べて、税務署上がり・税務署OBと呼ばれる税理士と顧問契約を結んだり、仕事を依頼するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
税理士自らが「税務署上がりである」「税務署OBである」ということを看板に掲げて営業している事務所は少なくありません。つまり「自分は税務調査を行う側に長年いたのだから、その仕組みも傾向も熟知している。したがって、一般の税理士よりも、より税務調査対策には長けている」とアピールしているといえるでしょう。
たしかに、税務調査をする側にいたということは、会社が調査対象になるのかという基準であったり、調査上ポイントとなる部分に精通していることが期待できます。
例えば「このままの管理では、税務調査で指摘されますよ」「税務調査で指摘されないように、あらかじめ対応しておきましょう」といったアドバイスをしてくれるかもしれません。
ただし、「税務署上がり・税務署OBが顧問税理士をしていると、税務調査が来ない。税務調査が来ても手加減してくれる」ということはありません。これは、いわば都市伝説であり、信じすぎないほうがよいでしょう。
「以前はこの税理士も税務署にいたのだから」「先輩にあたる人だから」等といった理由で調査官が税務調査を甘くするということはありません。
税務署上がり・税務署OBと呼ばれる税理士に業務を依頼するデメリット
しかし、税務署出身であることが、デメリットとなることもあります。主に、税理士自身が「税務署上がり」「税務署OB」であることに縛られすぎてしまうことが原因です。
代表的なものとしては、勤務時代の感覚が抜けず、経営者(納税者)の視点よりも国税庁や税務署(徴税側)の感覚で物事を捉えてしまうということです。
経営者の方からすれば、もしも税務調査が行われることになれば、当然顧客である自社の利益になるように対応することを顧問税理士には期待します。
しかし、そのときに自分の味方であるはずの税理士が税務署側の感覚でいられては、税務調査はどのようになるでしょうか。
例えば、交渉の余地がある指摘を、唯々諾々と受け入れてしまうかもしれません。最悪の場合、追徴課税となってしまうこともありえます。
また、税務は判例の解釈次第で、従来とは異なる取扱いになることがあります。税法をはじめとする税務関する実務対応は一度定められたら変わらない、というものではありません。
通達や国税庁のタックスアンサーにも、実務の上で対応していかなくてはなりませんが、これが苦手な税務署上がり・税務署OBの税理士もいるようです。
「これは、法律で定められている!」と税理士が経営者の方に主張した内容について、よくよく調べてみると、その法律は改正されていた、という例もあります。
また、一般に省庁は一般のビジネスシーンよりもデジタル化・オンライン化が遅れています。通常の会社であればメールやチャットで行われているやり取りが、郵便やFAXで行われているという場合もあります。
現在もそのようなのですから、税務署上がり・税務署OBが勤務していた頃の税務署はどのようだったのでしょうか。
昨今は、デジタル化・オンライン化が著しく推進されており、クラウド会計に積極的に取り組んでいる企業も少なくありませんが、一般のビジネスシーンからは少し距離がある環境で働いてきた税務署上がり・税務署OBの税理士は、このような「時代の流れ」に疎い可能性もあります。
もちろん、「税務署上がり・税務署OBはデジタルに疎い」というわけではありませんし、一般の税理士が全員この種の情報に詳しいというわけでもないので、そこは経歴にとらわれず判断していくことになります。
税務署上がり・税務署OBに限定せず、税理士に何を求めるかを明確に
税理士を選ぶ権利は顧客側にあります。ですから、経営者の方が、より適切な税理士を探すことになります。ここで、税務署上がり・税務署OBだからといって、安易に契約することは危険です。上記のように、税務署上がり・税務署OBの税理士にはメリットもデメリットもあるのです。
その税務署上がり・税務署OBの税理士は、昔の意識を引きずったままの頭の堅い税理士ではありませんか? それとも内部事情を知っていることを上手に活かして、より経営者の方の力になってくれる税理士なのでしょうか?
大切なのは、「今、経営者や顧客のためになってくれる税理士なのか」ということです。その税理士が税務調査のときに頼りになるか否かをチェックしたいのであれば、過去の職歴の「徴税側として税務調査に立ち会った経験」ではなく、「顧問税理士として税務調査に立ち会った経験」を問いましょう。
税務調査のときに、過去の経歴が顔を出してしまい徴税側に立ったような意見しかいわない税務署上がり・税務署OBの税理士へ不満を持つ経営者の方は少なくありません。
たしかに、税務署上がり・税務署OBの税理士ならではのメリットはありますし、このメリットを活かして顧客のために働いてくれる税理士もいます。しかし、それは他の税理士も同様です。むしろ、一貫して納税者側に立って経験を積み、常に研鑽を怠らない一般の税理士のほうが頼りになる場合も多いです。
経歴にとらわれすぎることなく、本当に顧客のためを思って行動してくれる税理士に仕事を依頼すれば、より満足のいく結果が得られるでしょう。税理士を探すにはコツがあるので、自社にあった方法で、より頼りになる税理士に出会うことができれば、それが何よりです。
参考記事: よい税理士を探すための3つの方法
株式会社タックスコム:代表取締役
会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談を行い、相談実績は1万件を超える。2017年に執筆した書籍「税理士に顧問料を払う本当の理由」は、出版から半年にわたりAmazonカテゴリ「税理士」で1位を獲得。2021年に実施した日本コンシューマーリサーチの調査では、税理士紹介サービスで顧客満足No.1を獲得。
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