役員報酬とは?3種類の役員報酬と決め方・注意点を徹底解説 | 税理士コンシェルジュ

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役員報酬とは?3種類の役員報酬と決め方・注意点を徹底解説

2021年6月17日
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企業経営をするためには、取締役、執行役員、監査役などの役員を登用しなければいけません。そして、これらの役員に対しては、「役員報酬」を支払う必要があります。

では、役員報酬はどのように決めるのでしょうか?給与と何が違うのでしょうか?この記事では、役員報酬について徹底解説していきます。

目次

役員とは?

役員報酬を支払うことになる役員とは、会社という組織を動かす中心的な役割を担っている人です。役員報酬を支払う法人税上の役員には、取締役、執行役、会計参与、監査役などです。それぞれどのような役割があるのでしょうか?

・取締役
取締役とは、会社法に基づき、すべての株式会社に設置が義務付けられている機関です。取締役開設置会社では、取締役会の構成メンバーから、業務執行を担う「代表取締役」、その代表者を補佐する「常務取締役」や「専務取締役」などが企業の必要に応じて設置されます。また、社外の人材から専任される「社外取締役」などもあります。

・執行役
執行役とは、会社法に基づき、指名委員会等設置会社に設置することが義務付けられている機関です。主に取締役会などで決定された業務を、取締役に変わって実行する役割を担っています。執行役を設置することで、業務執行と監視役を担う組織を分離し、より適切な経営管理を行うことを目的としています。

・会計参与
会計参与とは、会社法に基づき、取締役とともに会社の計算書を作成するために、任意での設置が規定されている機関です。この役員は、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人のいずれかである必要があります。企業の貸借対照表や損益計算書などの計算書類を適正に確保したり、株主総会などで作成した書類への質疑応答に応じることが義務となっています。

・監査役
監査役は、会社法に基づき、取締役会の職務内容や会計などを中心に、監査することを役割とする、原則として任意での設置が規定されている機関です。会計監査と業務監査を主な役割としています。取締役と会計参与が作成した計算書類を確認したり、取締役の職務の違法性などを確認し、報告書としてまとめて、株主総会の際に提出します。

参照:国税庁「役員の範囲」

役員報酬とは?

役員報酬とは、その名前の通り、役員に支払われる報酬のことです。法人税上で役員となる方に対しての報酬で、「利益の配当」という性質をもっています。一方、従業員に支払われるのは、給料です。給料は、雇われている側である従業員に対して支給される、「労働への対価」のことです。

役員報酬と給与の違いとは?

会社で働く人に対して支払われるお金には、「役員報酬」と「給与」の2種類に分類されます。役員報酬と給与には、税法上に大きな違いがあります。

①役員報酬は損金算入することができない

従業員への給与と役員報酬の一番の違いは、役員報酬は損金算入できない、ということです。損金とは、基本的に会社から出ていく費用や損失のことで、法人税法によって定められています。

役員報酬と給与を分けて管理しているだけでは、報酬決定の不透明さと利益コントロールの利用を阻止することができないため、税法上は、役員報酬を損金算入できないようにしています。

つまり、役員報酬を損金算入できないということは、会計上で経費になっても、税金を算出するときには、利益として差し引くことはできません。このような条件をつけることで、大きな利益が見込まれる決算の前に役員報酬を増やして法人税を減らす、といった調整を防ぐことができます。

②役員報酬の決定は株主総会の決議で決定する

原則的に、役員は自分の裁量だけで報酬額を決めることはできません。役員報酬の増額や減額は、年度の初めに実施する株主総会において金額を決定することが、会社法によって規定されています。

③役員報酬からは雇用保険料を徴収しない

給与からは毎回、雇用保険料が徴収されていますが、役員報酬からは雇用保険料を徴収しません。それは、役員は雇用保険に加入していないからです。そもそも雇用保険とは、従業員が失業した場合、次の転職先が見つかるまでの一定期間の収入をサポートすることを目的とした保険です。

しかし、役員の場合は、法律上雇われているのではなく、雇用している側です。雇用保険は、別名「失業保険」とも言われていますが、加入資格があるのは、会社の従業員だけです。

つまり、役員には雇用保険の加入資格がありません。したがって、役員は、定期株主総会や臨時株主総会などで役員を解任されたとしても、従業員のように失業保険の申請をすることはできません。

3種類の役員報酬について

法人税法では、損金算入として認められるための役員報酬として、「定額同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」の3種類あります。

①定額同額給与

役員報酬は、原則として、1ヶ月以下の一定期間ごとに同額の報酬である「定期同額給与」で支払うことになっています。一般的に役員報酬と言えば、定期同額給与のことを指しています。定期同額給与は、事業年度開始から3ヶ月以内に、役員報酬の金額を決定しなければいけません。

株式会社の場合は、「株主総会議事録」もしくは「取締役会議事録」を作成して保管した後に、年度中は同じ額の報酬を「定期同額給与」として支給します。毎月同額を支払うことで、損金算入することができます。

②事前確定届出給与

役員には、一般従業員に対して支払われるような賞与はありません。しかし、賞与に似た形で支払い、損益として計上できるのが「事前確定届出給与」です。

事前確定届出給与で支払う場合は、事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、支払の時期と金額を申告します。届出に記載した通りの支給日に、記載した金額を役員報酬として支払うなら、損金算入として認められます。

なお、「事前確定届出給与に関する届出書」には申請期限が決まっています。

まとめるなら、事前確定届出給与は、以下の3つのルールを守らなければいけません。

1、株式総会などで、支払日と支給額を事前に確定させること。
決算後の定時総会で支払日と支給額を決めるのが一般的ですが、臨時株主総会や取締役会でも確定させることができます。ポイントは、「株主総会に準ずる会であること」と「議事録を残すこと」の2点ができていれば問題ありません。

2、期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、支払の時期と金額を申告すること。
「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限は、「株主総会の決議をした日から1ヶ月経過日」もしくは「会計期間開始の日(期首)から4ヶ月経過日」のいずれか早い日となります。

3、支払日と支給日を守ること。
株主総会で決められた支給日に支給額を支払わないと、損金不算入となる可能性があります。支払日が銀行休日などと重なる場合は注意しましょう。

③利益連動給与

利益連動給与とは、同族会社に該当しない国内の法人が、決算時に作成する有価証券報告書に記載されている「利益に関する指標」を基準として支給する役員報酬です。利益連動給与を支給するためには、次の要件を満たさなければいけません。

1、有価証券報告書に記載されているその事業年度の利益に関する指標を基礎とした客観的な算定がされていること
2、指標(利益)が確定した後、1ヶ月以内に支払う、もしくは支払われる見込みがあること
3、損金経理をしていること

なお、原則として、株式の50%以上を親族で所有している同族会社には、役員報酬として適用することはできません。

参照:国税庁「役員に対する給与(平成19年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度分)」
参照:国税庁「役員に対する給与(平成28年以後に開始する事業年度分(平成29年4月1日前支給決議文))」
参照:国税庁「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

役員報酬の決め方と変更の5つのルールについて

役員報酬を決定する流れや期間などは、ルール化されています。どの企業でも基本的なルールは同じです。5つのルールは次のようになっています。

ルール①会社設立後、3ヶ月以内に決定しなければいけない

役員報酬は、会社設立後3ヶ月以内に決定しなければならない、と規定されています。会社設立後3ヶ月以内は創業期ですから、売上の見通しが立てにくいため、役員報酬を決めることも容易なことではありません。

役員報酬の金額によって、毎月の社会保険料、所得税、地方税などの税金が大きく変わってきますので、報酬額を慎重に検討することはとても大切です。

ルール②毎月同額(定額)が支払われること

役員報酬は、毎月定額支払われなければいけません。また、額面の金額と手取りの額が同一である定期同額である必要があります。

ルール③役員報酬の変更可能な時期は会社設立時、もしくは事業年度から3ヶ月以内

役員報酬を変更できるのは、会社設立時、もしくは事業年度から3ヶ月以内です。この期間内であれば、1度だけ変更することが可能です。例えば、事業年度開始日が4月1日であれば、3ヶ月以内となる6月30日までに変更手続きを終了させる必要があります。

では、なぜ3ヶ月以内、と決められているのでしょうか?それは、もし役員報酬をいつでも自由に変更することができると、売上に応じて節税対策のために、役員報酬を高く設定してしまう可能性があるからです。

ルール④賞与を支給する場合は届出書を提供する

役員にも賞与を支給することができます。ただし、賞与を支給する場合は、「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。次のうち、いずれかの早い日が提出期限となります。

・株主総会や取締役会で決議をした日から4ヶ月以内
・事業年度開始日から4ヶ月以内
・会社設立後2か月以内

ルール⑤役員報酬を支払うには株主総会での決議が必要

役員報酬を支払うには、原則として、株主総会で決議する必要があります。会社法361条1項には、取締役の報酬や賞与などは、株式総会の決議によって決定するものと定められています。このような規定を設けることで、自分の報酬を高く設定したり、それによって節税対策をすることを防ぐことができます。

ただし、実務上は株主総会で決めるのは、役員報酬の総額のみで、個々の役員報酬は取締役会や代表取締役で決めることが一般的となっています。

役員報酬決定までの手順について

役員報酬決定は、次のような手順で決定されていきます。

手順1:株主総会での決議

まずは会社法361条の規定に基づいて、株主総会の決議で役員報酬に関する普通決議が必要となります。普通決議とは、会社法の309条1項で規定されている通り、議決権総数の過半数の株式を有している株主が出席している株主総会です。出席株主の議決権の過半数で決議する必要があります。

手順2:株主総会議事録、もしくは同意書の作成

株主総会の内容を議事録にしておくなら、万が一、税務調査が入ったときに証明書と提出することができます。記載する内容は、開催日時、場所、出席した株主の発行済みの株式総数、役員報酬がいくらになったか、出席者の著名と捺印などを記載します。合同会社の場合は、株主総会議事録の代わりに同意書を作成し、著名と捺印をします。(議事録の作成方法については後述します)

手順3:「被保険者報酬月額変更届」の提出など

健康保険と厚生年金に加入している場合、役員報酬が変更された場合で標準報酬月額が2等級以上増減することになった場合は、日本年金機構に「被保険者報酬月学変更届」を提出する必要があります。また、5等級以上下がる場合には、株主総会議事録や同意書、所得税源泉徴収簿もしくは税金台帳の写しも提出しなければいけません。

役員報酬の決め方のポイント

すでにみてきたように、役員報酬は株主総会での決議が必要です。そのため、役員が妥当と感じる金額を提示しなければいけません。では、役員報酬を検討するときのポイントをみてみましょう。

ポイント①世間の相場を考慮する

世間の相場を知らずに高額な役員報酬を提示すれば、妥当と感じてもらうことはできません。世間の相場に合った金額を提示するなら、根拠となるので納得を得やすくなります。国税庁は毎年、中小企業における役員の平均年収をまとめたデータを作成しています。世間の平均データを考慮することは、役員報酬を決めるうえでひとつの目安となるでしょう。

国税庁が行った標本調査によると、平成30年度の民間企業役員の資本金別の役員報酬の平均は、次のようになっています。

資本金 男性 女性 合計
~2,000万円 694万円 394万円 605万円
2,000万円~ 955万円 481万円 851万円
5,000万~ 1,215万円 518万円 1,094万円
1億円~ 1,467万円 724万円 1,392万円
10億円~ 1,583万円 1,040万円 1,561万円

ポイント②従業員の事業に対する貢献度を考慮する

企業は従業員の労力で成り立っていますので、コストだけでなく、従業員のことも考慮した上で役員報酬を決める必要があります。つまり、役員報酬だけが高額な企業では、従業員のモチベーションは上がらない、ということです。

従業員とのバランスを考慮するひとつの指標に「付加価値分配比率」という考え方があります。付加価値、つまり、その会社の労働によって付け足された総人件費と営業利益のことです。

この付加価値の分配比率を考慮する際、利益を上げるために、どのくらいの人件費がかかっているのか、を考えることと「労働分配率」といい、「労働分配率=(人件費÷売上総利益)×100」という算式で算出することができます。

この値が大きければ大きいほど、利益を生み出すために必要な人件費が大きいので、従業員の労力が必要なことになります。具体的には、労働分配率に応じて、従業員の配分と役員報酬の割合は、次のように配分するのが理想的と言われています。

労働配分率 従業員の配分 役員の配分
70% 75 25
60% 71 29
50% 67 33
40% 60 40
30% 50 50

このように、人件費の割合を考慮するなら、従業員も納得できる役員報酬を設定しやすくなります。

ポイント③従業員との報酬格差のバランスを図る

付加価値配分比率は、役員報酬を合理的に算出した方法ですが、役員報酬を決める際には、社員との報酬格差のバランスをとることも忘れてはいけません。あまりにも報酬格差が大きく開いてしまうと、従業員のモチベーションは下がってしまいます。

一般的に、役員と従業員の報酬格差が20倍を超えると従業員の多くは不満を抱く傾向がある、と言われています。従業員が納得する役員報酬を額を決めるためには、平均値ではなく、年収の下限と比較することが大切です。

役員報酬を決める際の注意点

役員報酬の決め方のルールと報酬額の決め方のポイントをみてきましたが、これらを踏まえた上で、節税につながる報酬額を決めることができるでしょう。では、役員報酬を決める際に注意すべき点をみてみましょう。

注意点その①損益を正確に予測すること

役員報酬を決める際には、1年間の売上を予測します。それには家賃や光熱費などの固定費、従業員の給与、仕入金額、粗利を算出した上で、役員報酬として計上できる金額を算出してみます。もし予想よりも利益が多くでてしまうなら、法人税を多く納める必要が出てくるので、資金繰りが圧迫される可能性があるので注意が必要です。

また、役員報酬を高く設定してしまい、支払うことができない場合は、会社側が個人に対して借金をしている形になります。支払うことができなかった分は、支払い余力ができた時点で支払わなければいけません。

では、正確な損益を予測するためには、実際に損益計算書を作成してみることができるでしょう。具体的に予測すべき大切な金額は、次の通りです。

・1年間の固定費
1年間の家賃、水道代などの光熱費に加えて、固定の費用を計算する。

・1年間の従業員の給与
1年間に従業員に支払う給与の総額合計を算出する。

・1年間の売上
年間の売上をデータや分析結果などに基づいて予測し算出する。

・1年間の仕入金額
1年間の売上から、必要な仕入金額を計算する。

・1年間の粗利益
売上金額から仕入金額を差し引いて、粗利益を計算する。

すでに何年か経営しているのであれば、過去のデータや分析結果などから金額を算出することができるでしょう。新しい会社の場合は、平均値や統計値などを参考にしつつ、予測することができるでしょう。

注意点その②役員報酬額が少ないほど法人が増える

役員報酬は、会社が役員に対して支払う給与なので、役員報酬を支払った分だけ、会社の利益が減少します。したがって、法人税などの税金の軽減につながります。法人税などの税金を考慮して、役員報酬を決めることはとても大切です。

しかし、会社にたくさんお金を残したい、という理由から役員報酬を減らすと税金面で損をしてしまう可能性があります。なぜなら、会社に多くのお金を残せば残すほど、税金が余計に課されてしまうからです。そのため、利益の額にもよりますが、多くの税金を納める必要がでてしまいます。実際は、役員報酬を増やしたほうが節税につながるケースはよくあります。

税金面で得をするためには、税金のシュミレーションをした上で、役員報酬を決めることができるでしょう。

注意点その③役員報酬として経費計上できるものは限定されている

役員のために支払うお金は、すべて経費に計上できるわけではありません。役員報酬で経費として計上できるものは、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3つだけに限定されています。

例えば、業績が好調なので期中に役員報酬を増額した場合は、増額した金額は経費に計上することができません。また、事前確定届出給与を税務署に提出した通りに役員に支給しなかった場合は、原則として、増額や減額に関わらず、全額を経費として計上してはいけない、ことと規定されています。ただし、実務上は、期中の課税所得に何の影響も出なければ、その事業年度は損金不算入として処理をすることは不要となっています。

注意点その④使用人兼務役員は税務調査の対象になりやすいので注意が必要

使用人兼役員とは、「取締役」という肩書が付きながら、従業員と同じように営業活動や事務処理をしている立場をしている人です。使用人兼役員として認められるためには、会社に役員として勤務しながら、それと同時に他の従業員のように業務をこなしていることが条件となっています。

ただし、代表取締役や副社長のように経営の中心的存在の役員は、使用人兼役員と認められていません。また、報酬を支払う際には、次のようなルールが定められています。

・役員報酬は定期同額給与として支払うこと
・賞与は事前に届出を提出した分しか支払うことができないこと
・給与と業務内容のバランスは、他の従業員と同等であること

使用人兼役員は、役員報酬に加えて給与手当も支払うことができますし、賞与も役員として、また従業員として療法を受け取ることができるため、節税につながります。そのため、これらのルールをしっかり守っていないと、税務署から脱税していると疑われ、税務調査の対象となります。ルールをしっかり守るようにしましょう。

注意点その⑤役員報酬を基準を超えた金額に設定すると損金計上できない

役員報酬には、一定の基準が設けられています。一定の基準を超えた金額を設定すると、「過大」とみなされ、損金として計上することができなくなってしまい、会社の税金が増えることにつながります。

役員報酬の基準には、2つの基準が設けられています。

基準1:形式基準
形式基準では、次の3つの点がしっかり守られているかどうかチェックされます。
・役員報酬が定期同額給与として支給されているか?
・定期同額給与以外で役員報酬を支給する場合は、事前に届出を提出しているか?
・利益連動給与の場合は、有価証券報告書に記載をしてるか?

これらの点は基本的なことです。しかし、万が一、疑いをかけられたときに備えて、証拠となる議事録をしておくことは大切です。つまり、株主総会や取締役会で上記の3点を決定した際には、必ず議事録を作成してください。なお、議事録を有効なものとするためには、定礎などに記載されているルールを守る必要があるので作成方法には注意しましょう。

基準2:実質基準
実質基準では、形式基準のようなルールは設けられていません。役員報酬が総合的に適正金額かどうかを判断するために、役員がこなしている仕事の内容、会社の収益性や従業員の給与とのバランス、同業他者の役員報酬の相場との金額差、などをチェックします。ですから、役員報酬の適正金額を決める際には、事前に情報を収集した上で、適性な金額を設定するようにしましょう。

注意点その⑥役員報酬としてみなされてしまうケースもある

役員報酬として支払った金額が役員報酬としてみなされないこともありますが、その逆のケースもあります。つまり、役員報酬として支払ったと扱われることがあります。3つのケースをみてみましょう。

・ケース1:会社が役員に無利息でお金を貸した場合
経営者は、会社のお金を役員に貸し付けることができます。これを「役員貸付」と言います。役員貸付は、利子をつけて貸すことが条件となっています。もし無利息で役員にお金を貸し付けると、無利息分が役員報酬として疑われ可能性があるので、必ず利子をつけて貸す必要があります。

また、役員貸付の利子は、次のようなルールが設けられています。
・金融機関から融資を受けている場合は、その借入利率を適用すること
・金融機関から融資を受けていない場合は、国内銀行の短期貸出約定平均金利+1%以上の利率を適用すること

このように役員貸付には、年利数%の利息が発生します。

・ケース2:会社が所有する土地や建築物を相場よりも安く役員に貸した場合
会社が所有する土地や建築物などを、役員へ貸し付けることができます。しかし、借手は会社に対して適正な家賃を支払うことが求められています。つまり、会社の所有物だとしても、相場よりも安価な価格で貸すことは認められていません。

もし適正な家賃よりも安い価格で貸している場合は、役員報酬として計上されることもあります。その際、「役員報酬として計上される金額=家賃の適正金額-実際に支払っている金額」という算式で、役員報酬として計上される金額が算出されます。

・ケース3:会社の資産を無償で役員に譲渡した場合
会社の資産を無償で譲渡した場合、その資産の時価額相当分が役員報酬としてみなされ可能性があります。特に高額な資産を譲渡すると、多額の役員報酬が計上されるので、無償で譲渡することのないようにしましょう。

注意点その⑦社会保険料とのバランスも考慮する

社会保険料は、法人税などの税金とは異なり、役員報酬が高ければ高いほど、会社も個人も社会保険料の負担が大きくなります。例えば、東京都で40歳以上の方の場合、月々の給与が20万円前後であれば、毎月の社会保険料は約22,000~23,000円程度です。一方、月々の給与が120万円の場合は、社会保険料が14万円もかかります。このように、月の収入によって社会保険料は大きく変動しますが、多く支払ったとしても、保険内容が手厚くなるものではありません。

また、将来、年金として回収できる額が社会保険納付額よりも少なくなる可能性は十分にあります。そのため、社会保険料は低く抑えておいたほうが良いと言われています。したがって、役員報酬を決める際には、社会保険料のバランスも考慮することは大切です。つまり、会社で支払う法人税、個人で支払う所得税、双方で支払う社会保険、の3つのバランスをしっかり確認しましょう。

一例として、会社の利益を1,000万円、役員報酬の合計額が400万円、600万円、800万円、1,000万円とした場合の税金の支出金額は、次のようになります。

役員報酬額 法人税金 個人税金
小計 内訳 小計 内訳
400万円 190万5,400円 法人税:80万8,900円、法人事業税:20万7,000円、地方法人特別税:8万9,400円、法人都道府県民税:6万400円、法人市町村民税:13万2,900円、法人社会保険料:60万6,800円 84万6,700円 所得税:7万900円、住民税:17万9,800円、個人社会保険料:59万6,000円
600万円 166万6,400円 法人税:46万3,400円、法人事業税:10万5,000円、地方法人特別税:4万5,300円、法人都道府県民税:4万3,100円、法人市町村民税:9万9,400円、法人社会保険料:91万200円 140万5,400円 所得税:20万1,100円、住民税:31万300円、個人社会保険料:89万4,000円
800万円 146万1,400円 法人税:11万7,900円、法人事業税:2万6,700円、地方法人特別税:1万1,500円、法人都道府県民税:2万5,800円、法人市町村民税:6万5,900円、法人社会保険料:121万3,600円 199万2,500円 所得税:34万5,600円、住民税:45万4,900円、個人社会保険料:119万2,000円
1,000万円 159万1,500円 法人税:0円、法人事業税:0円、地方法人特別税:0円、法人都道府県民税:2万円、法人市町村民税:5万4,500円、法人社会保険料:151万7,000円 259万900円 所得税:49万5,500円、住民税:60万5,400円、個人社会保険料:149万円

このように法人と個人の税金支出額のバランスを比較してみると、役員報酬額と法人税額は反比例しています。役員の報酬額が高ければ会社に残る資金は少なくなり、それとは逆に、役員報酬額が少ないと会社に残る資金は多くなります。

また、役員報酬の金額が600万円ほどのときが理想的なバランスとなっています。ですから、役員報酬と法人税等の支払い額は反比例することを念頭において、役員報酬の金額を決めることは大切です。

役員報酬を変更する方法:その①期首の3ヶ月以内の場合

役員報酬額は、理由なく自由に変更することはできません。しかし、会社設立時、もしくは事業年度開始から3ヶ月以内であれば、1度だけ報酬額を変更することができます。その際、まず株主総会などで役員報酬の変更を決定し、議事録残して保管する必要があります。合同会社の場合は、同意書を作成して保管しておきます。

このように決定したことを証明する議事録や同意書などがないと、税務調査が入った場合に損金算入を認めてもらえず、税金が課されることがあります。

役員報酬を変更する方法:その②期首の3ヶ月以降の場合

すでにみたように、役員報酬は定期同額給与でなければ経費として計上することができません。したがって、基本的には期首の3ヶ月以内を除き、期中に役員報酬を変更することはできないことになっています。なぜなら、いつでも役員報酬を変更することができれば、会社は法人税の納税額を意図的に操作することができるからです。

しかし、特定の場合は、期中だとしても役員報酬を変更することが可能です。それは、次のような場合となっています。

役員報酬を減額が認められる場合

会社の売上が見込んでいた通りにいかず、経済状況が悪化し、役員に対して定額同額で報酬を支払えなくなってしまうと、その期に役員に対して支払ったすべての報酬を経費として計上することができなくなってしまいます。つまり、損金不算入となってしまうので、法人税額が増額してしまいます。

このような状況になってしまうと、会社の経営状況はさらに悪化する一方となってしまい、最悪の場合は倒産してしまう可能性もあります。そのため、次の4つのケースに該当する場合は、役員報酬の減額が認められています。

1、会社の業績や財務が悪化し、株主との関係上、役員として経営上の責任をとるために役員報酬を減額せざるを得ない場合

2、取引銀行との借入金の予定協議の結果、役員報酬を減額せざるを得ない場合

3、会社の業績や財務が悪化し、取引先などと利害関係者からの信用を維持するために、役員報酬を減額して経営状況の改善を図る計画がされた場合

4、特定の役員が不祥事をおこし、会社の秩序を維持するため、もしくは会社の社会的評価の悪影響を避けるために一時的に減額されるもので、その処分が社会通念上相当である場合

役員報酬を変更する場合は、議事録を作成し、後の財務調査のときなどに、4つのケースと照らし合わせて、具体的な理由を説明できるようにしておくことは大切です。もし十分に説明することができなければ、減額変更を認めてもらうことができません。その結果、役員報酬を経費として計上することができなくなるため、追加で税金が課せられることになります。

役員報酬を増額が認められる場合

会社を経営していて、当期の予想よりも売上が大きくなった場合は、自分に対する報酬を増やしたくなるものです。しかし、会社の経営状況によっていつでも役員報酬を増額することができるなら、会社の利益操作を簡単に行って、法人税の支払いを意図的に減額することも可能となってしまいます。そのため、基本的に期中には役員報酬を増額することはできません。

しかし、ある特定の状況である場合は、報酬を増額することが認められています。それは、次のような場合です。

・平の取締役が専務取締役になった場合
・定款の役員報酬総額の支給限度内である場合
・臨時株主総会の決議がある場合
・報酬額が「不相当に高額」な額ではない場合

これらの条件を満たしているのであれば、期中内に役員報酬の増額を認められることがあります。ただし、役職の格が上がったときは、報酬額を変えたいために名義だけを変えることは不正とみなされますので注意が必要です。

役員報酬を変更する際に注意したい点

上記でも少し触れましたが、役員報酬を変更する際には、役員報酬変更の決議をする必要があります。取締役会設置会社であれば取締役会で、そうでない場合は株主総会で決議を行います。

役員報酬の変更理由が説明できるように議事録をとることに加え、変更が必要になった理由を説明できる資料なども保存しておくことは大切です。また、期中に役員報酬を変更した場合は、取締役会や株主総会などで決議があった日の次の支給から変更が適用されます。

期首にさかのぼって減額や増額などの変更をすることはできません。もし期首にさかのぼって適用した場合は、税務調査のときなどに経費として認められず、追加で法人税が課されることになります。

役員報酬に関する議事録が必要な理由

役員報酬は、会社法上で定めらている手続きに沿って報酬額を決定します。つまり、「定款に定める」「株主総会の決議をする」という2つの理由から、議事録を残す必要があります。また、役員報酬の金額を変更する場合も、その度決議をし、議事録を残さなければいけません。

参照:会社法第361条「取締役の報酬等」
参照:法人税法第70条

役員報酬変更に関する議事録の雛形とポイント

株主総会を開催するにあたり、議長と議事録作成者を指名する必要があります。取締役会や株式総会に記載すべき議事録の事項には、次のような事項を記載することが一般的です。役員報酬変更時の株主総会議事録の雛形は、税理士事務所のホームページなどから無料でダウンロードできるよう公開されています。

・株主総会を開会した日時、開会時間と閉会時間
・株式総会を開会した会場
・発行済株式の総数
・議決権を行使できる株主の数
・議決権を行使できる株主の議決権の数
・出席株主数
・出席株主の議決権の数
・変更する役員の報酬金額及び支給を開始する年月
・議事録を作成した日時
・会社名
・議長の氏名(代表印の押印が必要)
・出席した取締役等の氏名(個人の実印の押印が必要)

発行済株式総数は、定款に定めたものと合わせて記載します。変更する役員の報酬金額は、変更後の役員報酬の金額を記載します。

定期同額給与を変更した場合は、年金機構(国民年金事務所)に「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を提出します。

事前確定届出給与を変更した場合は、税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を事前に申請します。金額を変更した場合はもちろん、変更しない場合でも「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。

役員報酬にかかる税金について

役員報酬も、税法上は「給与所得」と同じ扱いをされます。そのため、役員報酬には「所得税」や「住民税」がかかります。さらに「健康保険」「厚生年金」も税金同様、源泉徴収されます。

会社員であれば、これらの計算は事業主がしてくれますが、特に起業したばかりの方は、自分の役員報酬にかかる各種の源泉徴収を自分で計算する必要があります。

役員報酬にかかる源泉徴収の計算方法とは?

役員報酬にかかる健康保険と厚生年金の保険料は、役員報酬の金額に応じて決まります。

1、健康保険と厚生年金の保険料を「保険料額表」で確認する
健康保険の場合は、毎年、各都道府県ごとに保険料が設定された「保険料額表」がありますので、保険料控除を計算するためには、その表を確認する必要があります。健康保険と厚生年金の保険料額表は、全国健康保険協会の公式サイトで確認できます。

2、控除した後の保険料に源泉徴収税が課される
続いて、1で控除した保険料にかかる源泉徴収税を、国税庁の公式サイトの「源泉徴収税額表」で確認します。源泉徴収税額表をみると、扶養親族等の人数によって源泉徴収税額が変わってきますので、間違えないように確認しましょう。

3、住民税の特別徴収
役員報酬には、住民税も課されます。住民税を納める方法には、年に4回に分けて個人で支払う「普通徴収」と、住民税の金額を12ヶ月で割り、役員報酬から徴収する「特別徴収」の2通りあります。

しかし、役員報酬の場合は、地方税法第321条第4項により、特別徴収が義務付けられています。したがって、住民税は会社ではなく、市区町村が計算をし、毎年5月に「特別徴収税額通知書」を送付され、6月以降から記載されている金額が、役員報酬から徴収されていきます。

源泉徴収した税金等の納付方法とは?

一般的な会社員であれば、源泉徴収された税金等は事業主が代わりに納付してくれます。しかし、起業家などは自分で源泉徴収した後、自ら納付する必要があります。

1、社会保険料の納付期限と納付方法
源泉徴収した健康保険料と厚生年金保険料の納付期限は、役員報酬を支払った月の翌月末までと定められています。役員報酬を支払った月の翌月20日頃に「保険料納入告知書」が届きます。その通知をもって、金融機関で支払います。社会保険料の納付は、口座振替も可能となっています。

口座振替を利用したい場合は、日本年金機構で「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」を入手し、必要事項を記載した後に金融機関に提出する必要があります。

2、源泉徴収税と特別徴収住民税の納付期限と納付方法
源泉徴収税である所得税と、特別徴収税である住民税の納付期限は、役員報酬を支払った月の翌月10日までと定められています。源泉徴収税は、「所得税徴収高計算書」という納付のための書類を作成し納めます。特別徴収税は、市区町村から送付されてくる納付書で納めます。

3、源泉徴収税の納期の特例について
源泉徴収税の納期の特例とは、毎月10日に支払わなければならない源泉徴収税の納付手続きが、年2回(7月と1月)に減らしてくれる特例の措置のことです。

この措置を適用するためには、「源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書」を作成し、管轄地区の税務署に提出する必要があります。申請書に問題が無ければ承認され、申請の翌々月の納付分から納期の特例が適用されます。

4、特例徴収税の納期の特例について
特別徴収税の納期の特例とは、毎月10日に支払わなければいけない特別徴収税の納付手続きが、年2回(6月と12月)に減らしてくれる特例の措置のことです。この措置を適用するためには、「特別徴収税額の納期の特例に関する申請書」を作成し、管轄の市区町村の役所に提出する必要があります。

源泉徴収税の納期の特例とは異なり、自治体ごとに特例を認める条件が異なっていますので、特例徴収税の納期の特例を受けたい場合は、会社の管轄地区の市区町村の役所の公式サイトで確認されることをおすすめします。

役員報酬を節税につなげるポイントとは?

税金を抑えるために、「会社のお金+経営者の現金が最大値」となるように、税金面において詳細に計算していくことが必要になります。一般的な目安としては、利益金額、役員報酬、会社に残すお金、実効税率を計算するなら、節税に対する具体的な効果を予測することができます。

「支払う税金=利益金額×実効税率(%)」という算式で、支払う税金を算出できるので、役員報酬が節税につながるよう計算することができるでしょう。その際、会社の利益すべてを役員報酬として計算すると、実効税率は異なりますので、比較することができるかもしれません。

役員報酬を節税することには、専門的な知識が必要となります。どうしても分からない場合や不明な点があるなら、管轄地区の税務署に相談することもできます。また、税理士や公認会計士などの専門家に依頼することもひとつの選択肢です。

まとめ

役員報酬の定義や決め方、手続き、変更方法、注意点などについてみてきました。実際に役員報酬を決める場合、これらのことを理解していても、適性な金額を割り出すことは容易なことではありません。

しっかり基礎知識をとりいれることはもちろん、適性な役員報酬を決めることを難しく感じる方は、信頼できる税理士などに相談してみましょう。
なお、税理士コンシェルジュの税理士紹介サービス税理士紹介公式サイト-顧客満足NO.1【税理士コンシェルジュ】では、無料で税理士をご紹介しています。ご不明な点がある場合は、お気軽にご相談ください。


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