約束手形とは?小切手との違いと仕訳方法を解説
多くの現金を持ち運ばなくても、約束手形で現金のように支払いをすることができます。そのため、商品取引の売買の際に、約束手形を使用することがありますが、発行する側だけでなく、受け取る側もそのメリットやデメリットを知っておくことは大切です。この記事では約束手形のしくみやメリットやデメリットなどについて解説していきます。
目次
支払い方法の一種「手形取引」とは?
手形取引とは、複数ある支払い方法の一種です。現金のようにモノやサービスを購入するときに「手形」を使って支払うことができます。では「手形」とは何でしょうか?
手形とは、手形を降り出した相手(振出人)が、手形を渡した相手(受取人)へ金銭を支払うと約束する証書のことです。つまり、手形を使って一時的に金銭の支払いを立て替えている状態のことです。
手形には支払期日が記載されており、その日までに受取人の口座に支払いを済ませる必要があります。なお、手形は、銀行に発行の申し込みをし、手形帳を受け取ることで、手形取引を始めることができます。
約束手形とは?
約束手形とは、手形の振出人(支払人)が代金の受取人に対して、あらかじめ定められた金額を所定の日に支払うと約束する証書のことです。
約束手形は、決められた期日にならないと現金化することができない、という特徴があるので、手元の現金が少ない場合などは、支払期日までにお金の準備をすることができます。
小切手との違いとは?
約束手形とよく混同されがちなものに小切手があります。しかし、両者には、支払いまでの期間に大きな違いがあります。約束手形は記載された支払期日まで現金化することができません。
一方、小切手の場合は、受け取った後、すぐに現金化することが可能です。したがって、小切手を振り出す場合は、その時点で当座預金に当確金額以上のお金がなければいけません。
約束手形を振り出した際の仕訳とは?
約束手形を振り出した場合、どのように帳簿に計上すればよいのでしょうか?満期日に所定の金額を支払う義務があることは「手形負債」といい、貸借対照表の負債が増えると考えます。そのため、貸方に「支払手形」という勘定科目で計上します。
例えば、30,000円の商品を仕入れ、約束手形を振り出して支払った場合は、次のように仕訳をします。
手形を振り出したとき
借方 | 貸方 |
仕入 30,000円 | 支払手形 30,000円 |
約束手形を振り出したときは、手形債務が発生し負債が増えたと考えます。そのため、貸方は支払手形で計上します。
手形が決済されたとき
借方 | 貸方 |
支払手形 30,000円 | 当座預金 30,000円 |
所定の日に手形が決済されたときは、支払いが完了したことで負債がなくなったと考えるため、借方に「支払手形」という勘定科目で計上します。そして、手形が決済されると、口座から引き落とされるので、貸方には当座預金で計上します。
約束手形を受け取った際の仕訳とは?
では、約束手形を受け取った場合は、どのように帳簿に計上すればよいのでしょうか?満期日に所定の金額を受け取る権利のことを「手形債権」といい、資産が増えたと考えます。そのため、借方に「受取手形」という勘定科目で計上します。
例えば、30,000円の商品を販売し、約束手形を振り出して受け取った場合は、次のように仕訳をします。
約束手形を受け取ったとき
借方 | 貸方 |
受取手形 30,000円 | 売上 30,000円 |
約束手形を受け取ったときは、手形負債が発生して資産が増えたと考えます。そのため、借方を受取手形として計上します。
約束手形を決済したとき
借方 | 貸方 |
当座預金 30,000円 | 受取手形 30,000円 |
代金の受取が完了すると試算がなくなるので、貸方は「受取手形」で計上します。そして、代金が当座預金に入金され資産が増えるので、借方には当座預金と計上します。
約束手形のメリットとは?
振出人のメリット
約束手形の振出人にとっては、資金繰りが有利になることがメリットとなります。手元にすぐに用意できるお金がなくても、手形決済であれば支払いの期日を伸ばすことができます。また、金融機関などからお金を借りると利息が発生しますが、手形を振り出す際には利息は発生しません。
つまり、約束手形で決済すれば、無利息で支払いの期日を伸ばすことが最大のメリットと言えるでしょう。また、通常の買掛金の支払いとは違い、一度約束手形を振り出すことで受取人が現金化することで支払いを忘れてしまうことの防止ともなります。
受取人のメリット
受取人のメリットは、受け取った約束手形を、支払期日前に金融機関や業者などに手形を買い取ってもらい、現金化できることが挙げられます。その際、金融機関や業者などに割引料を支払う必要がありますが、すぐに現金が必要なときや資金繰りの状況によっては利点と言えます。
しかし、受取人は割引料を支払う必要があるため、額面より低い金額を受け取ることになります。そのため、「手形割引」といいます。しかし、手形割引は、金融機関や業者などからの観点で、信用度が低いと判断された企業が振り出している手形は、買い取ってもらえないことがあります。
約束手形のデメリットとは?
振出人のデメリット
手形を期日までに支払ないことは、手形が不渡りになるといいます。1回目の不渡りは銀行に通知がいき、半年以内に2回不渡りを出してしまうと、銀行取引停止処分となり、倒産のリスクが高くなります。また、一度不渡りを出してしまうと、銀行の多くは新規に貸し付けをしてくれないため資金繰りが難しくなります。
さらに、約束の支払期日までにお金を用意できなかったため、期日の延長をお願いして、新た手形を振り出す手形のジャンプを行うと、受取人から信用を失ってしまう可能性があります。
受取人のデメリット
振出人の企業が倒産してしまった場合は、手形を現金化することができないので、資金回収ができなくなってしまう可能性があります。また、振出人の企業が金融機関から信用が低いと判断されている場合は、手形割引に応じてもらえないことがあります。
さらに、約束手形の場合、実際に現金が入るのは数ヶ月先のことになります。そのため、入金のタイミングが遅いことで、キャッシュフローが悪化する可能性もあります。
約束手形を振り出す前に注意したいこと
約束手形を振り出す際、一番注意したいことは、手形の支払い期日です。キャッシュフローの管理をしっかり行い、支払い期日までに必ずお金が用意できると確信できたときのみ振り出すことが重要です。また、約束手形に金額を記入する際には、大字の漢数字のみを使って記入してください。
約束手形を受け取る際に注意したいこと
約束手形を受けとった際には、すぐに金額欄が正しく記入されているかを確信しましょう。特に手書きで記載している場合は、誤字や改変された跡がないかどうかをしっかりチェックするようにしましょう。もし少しでも異変があるなら、再発行の依頼をされることをおすすめします。
また、支払期日についてもしっかり確認することは大切です。約束手形は、数ヶ月先の日付を記載する必要があるので、特に西暦の間違いなどには注意が必要です。さらに注意したい点として、発行者印の確認が挙げられます。はっきり押されているか確認しましょう。
約束手形は廃止される?
2021年1月、全国銀行協会は、2026年度を目安に手形と小切手の紙の利用を廃止し、電子化を目指すことを検討していることを発表しました。その理由とは、以下の通りです。
理由①手形を現金化にできるまでの期間が長いため
1つの理由は、手形を現金化できるまでの期間が長いことが挙げられます。そこで、手形を受け取る側の資金繰りの負担を軽減するために手形の廃止が検討されています。
経済産業省のアンケート調査では、手形が振り出されてから現金を受け取るまでの期間は平均100日間かかることがわかりました。一方、現金で振り込む場合は、約50日間です。つまり、資金繰りが難しい企業にとっては手形取引は大きな負担とっています。
理由②コスト削減のため
2つ目の理由は、コストやリスクを軽減するためです。 約束手形は、紙が用いられています。そのため、印刷や印紙の貼り付け、郵送、保管のコストや手間がかかる上、紙の保管は紛失などのリスクもあります。また受取人は、期日内に金融機関へ手形を持ち込まなければならない、という手間があります。
近年、インターネットバンキングが普及し、資金調達の手段が多様化しています。また、新型コロナウイルスの影響で、企業の業務のデジタル化が進んでいます。このような時代背景の変化も紙の手形や小切手を廃止する要素のひとつになっています。
手形が廃止されたら決済はどうなる?
手形が廃止されたら、企業間の決済はどのように行うのでしょうか?政府は、まず大企業から約束手形の利用を廃止し、現金での支払いに移行するよう呼びかけることを検討しています。
また現金振り込みに加え、インターネット経由で取引できる「電子記録債券」への移行も考えています。「電子記録債券」とは、手形の電子版のようなものです。詳しい詳細について、今後どのような発表がなされるか注目されています。
参照:JIJI .COM「約束手形、26年めどに廃止 産業界に要請へー政府方針」
まとめ
約束手形の支払期日は自由に設定することができますが、一般的には4ヶ月以内、長くても1年以内に支払期日が来るように設定しているようです。支払期日を決める際には、設定した日までに必ずお金を用意できるかどうか判断することは重要です。
振出人にとっても受取人にとっても約束手形はメリットともなれば、デメリットにもなりリスクが伴っています。ですから、振出側だとしても受取側だとしても、約束手形を使用する前にはメリットとデメリットを理解した上で利用することは大切です。
また、あまり信頼できない取引先から約束手形の依頼があった場合は、それを受け入れるかどうかを慎重に判断するようにしましょう。
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