税理士との相性が合わないと感じる5つのサインと、正しい対処法
税理士との相性が合わないと感じる場面には、いくつか共通した形があります。決定的な失敗があったわけではないのに、やりとりのたびに小さな引っかかりが残ります。その引っかかりは、多くの場合なにかの事実を指しています。
5つのサインで現状を測り、そのうえで対処法を伝える・確かめる・比べるの順に組み立てます。乗り換えを決めるのはその後で構いません。不満のまま止まっている状態を、判断できる形に変えていきます。

税理士との相性という感覚を、確かめられる事実に置き換える
税理士との相性が合わない。そう話す経営者に理由を尋ねると、そこで言葉が止まります。悪い人ではない、大きな失敗もない、それでも噛み合わない、という言い方になります。
この状態が扱いにくいのは、動く理由も動かない理由も、同じくらい曖昧なままだからです。材料がないので判断が先送りになり、次の期が来て同じ場所に戻ります。
最初に行うのは、感覚を事実へ置き換える作業です。評価をいったん脇に置き、起きた出来事だけを日付とともに書き出してください。
返答までに何日かかったか、決算の何週間前に最初の連絡が来たか、質問に数字で答えが返ってきたか。測れる形に直すと輪郭が出てきます。
出来事が10件並べば、そこには必ず偏りが見えます。特定の時期に集中しているのか、種類を問わず一年中続いているのかで、選べる対処法が変わります。
書き出しは1枚に収めてください。枚数が増えるほど、どれが重い出来事なのかが分からなくなります。
ここから先は、その出来事を5つのサインに当てはめます。どれも専門の知識なしに自分で確かめられるものだけを選びました。
5つのサインは、上から順に確かめる想定で並べています。前半ほど数字で測りやすく、後半ほど自社側の関与が絡む項目になります。
3つ以上に当てはまるなら、感じていた違和感には裏づけがあったと言えます。1つか2つなら、依頼の出し方を変えるだけで収まる余地が残っています。
疑う気持ちを、誰かを責める材料にする必要はありません。自社の段階が動いた合図として扱えば、次にやることが具体的になります。
税理士との相性という言葉のままでは、具体的な改善に向けた行動にはつなげられません。5つに分解して初めて、伝えるべき相手と、伝えるべき中身が決まります。
単なる不満という言葉のままでは、先方との話し合いや社内での検討を進めるための具体的な材料になりません。日付と件数に置き換えた時点で、共有できる材料へ変わります。
並べ終えたら、この一覧を手元に置いたまま先へ進んでください。後半で組み立てる対処法の材料は、すべてここから取り出します。
- 質問への答え方が変わらない。想定されるリスクの説明がないまま、結論だけが返ってくる
- 決算書の残高や内訳に、放置されたままの項目が毎期同じ形で残っている
- 顧問料の水準と、実際に受けている支援の量が、説明のつかない差になっている
- 担当者が短い間隔で替わり、そのたびに同じ説明を最初からやり直している
- 提案が出てこない。ただし自社からの情報開示が足りているかどうかは別に確かめる
面談や日常のやりとりで返る答え方に、姿勢の差がはっきり出る

1つ目のサインは、質問への答え方です。ここでは、いま付き合っている事務所がどの層に当たるのかを見分けるための質問を1つ紹介します。
いま検討している案件を1つ挙げて、これをやろうと思うがどう見るか、と尋ねてみてください。返ってくる答えの型は、大きく2つに分かれます。
ひとつは、勝手にすればよいという無関心な返答か、理由の説明がないまま反対する返答です。これをレベル1・2の型とします。
もうひとつは、想定されるリスクを先に挙げ、結論は言わずに経営者の決断を待つ返答です。これをレベル3以上の型として分類します。
差が出るのは知識の量ではありません。判断を渡すか、判断を代わりに下すかという、仕事の組み立て方の違いです。
実際に試すときは、まだ決めていない案件を選んでください。すでに動き出した話を持ち込むと、答えが追認に寄ってしまいます。
返ってきた答えは、その日のうちに書き留めます。3回続けて同じ型なら、それは個人の癖ではなく、事務所の方針として読んでかまいません。
答えが返ってくるまでの時間も一緒に測ります。中身が同じでも、翌日に返ってくる事務所と1週間後に返ってくる事務所では、経営の意思決定の速度が変わります。
税理士との相性という言葉で語られてきたものの多くは、この返し方の差です。人柄ではなく応答の設計として見ると、ずいぶん扱いやすくなります。
面談の場でも同じ質問が使えます。乗り換えの候補を比べるときは、全員に同じ問いを投げて、返り方の違いだけを並べてください。
何に不満を感じているのかがはっきりしないときほど、この質問が有効です。感じ方ではなく、返答の型という観察できるものに置き換わるからです。
税理士との相性を人柄の問題としてとらえていると、この差は直しようのない性格に見えます。返答の型として記録すれば、対処法を組み立てる材料に変わります。
契約を続けるかどうかの結論は、まだ先で構いません。いまは、同じ問いに対する答えを3回分、集める作業に集中してください。
記録は箇条書きで足ります。日付と、こちらの問いと、返ってきた答えの3列があれば十分です。
レベル3以上の税理士は、事前に想定されるリスクを教えてくれ、決して結論は言わず経営者の決断を優先し応援してくれることでしょう。
決算書に残る処理の粗さは、専門の知識がなくても突き合わせられる

2つ目のサインは決算書です。専門的な視点では決算書そのものを見れば、いま依頼している専門家が変更を考えたほうがよい層に当たるかどうかを判断できます。
用意するのは直近の決算書と期末日の通帳です。はじめに、期末の通帳に記された金額と、決算書の普通預金がそろっているかを見ます。
例えば、通帳の残高が300万円なのに決算書は320万円という不一致がある場合、本来ここが一致しないことは実務上あり得ません。
ずれていれば、ほかにも合っていない箇所があると考えられます。1期だけなら偶然もありますが、2期続けて同じ形なら、処理の習慣として見てよい部分です。
続けて見るのは、貸借対照表に並ぶ仮受金と仮払金の残高です。内訳を説明できないものが積み上がっていれば、締める前の作業が残っている疑いがあります。
売掛金と買掛金が実態と離れている場合も同じです。回収の見込みが立たない売掛金を長く残すと、金融機関の評価が下がり、融資の枠に跳ね返ります。
社長への短期貸付金も確認します。これらが解消されないままでは、金融期間からの融資を受けることが非常に難しくなります。返済の予定を適切に説明しない担当者は、先ほど触れたレベル2に該当するケースが少なくありません。
この4項目は、専門の知識がなくても数字を並べるだけで確かめられます。担当者の人柄をどう思うかとは切り離して、処理の丁寧さだけを見る場面です。
当てはまった項目は、そのまま質問の種になります。該当の数字を示して理由を聞けば、返し方の差が姿勢の差として表に出ます。
税理士との相性が悪いという言い方は、ここでは使いません。使うのは、期末の残高が合っているかという、誰が見ても同じ結論になる問いです。
2期分を並べて確かめると精度が上がります。同じ項目が2年続けて放置されているなら、それは繁忙期のたまたまではありません。
この確認は、乗り換えを考えていない段階でも役に立ちます。ずれを指摘して直れば、税理士との相性の話は一段軽くなります。
数字がそろうと、伝える側の言葉も変わります。不満の表明ではなく、確認の依頼として渡せるようになります。
顧問料の水準と受けている支援の量が、説明のつく関係になっているか

3つ目のサインは顧問料です。5段階に分けたレベル別の月額報酬の目安を、年商5,000万円ほどの会社を念頭に整理しました。
並びで目を引くのはレベル2の金額です。具体的には、レベル1は1万5千〜2万円ぐらい、レベル2は4万〜5万円ぐらいとされています。
これに対してレベル3は2万円ぐらい、レベル4は4万円ぐらい、レベル5は最低でも10万円程度が目安となります。レベル2とレベル4がほぼ同じ水準に並びます。
期日どおりの申告はするが経営には関わらない層と、人脈を使って課題の解決に動く層が、同じ月額で並ぶという構図です。
ここで起きやすいのは、費用を下げれば収まると考えて、より安い層へ移ってしまう動きです。安易に価格を下げると、結果として処理の精度がさらに落ちていくという事態を招きかねません。
税理士全体の内訳を整理すると、レベル1とレベル2で6〜7割、レベル3とレベル4で3割ほど、レベル5は1000人のうち4〜5人ぐらいというのが実態です。
探し方を変えないまま入れ替えると、同じ層に当たり直す確率が高いという意味でもあります。個人の力量の問題として片づけると、次も同じ結果になります。
自社の顧問料を、記帳の代行、月次の対応、決算と申告の3つに割り付けてください。年1回の申告のみなら、1か月あたりに直した重さが見えます。
分けたうえで、それぞれに対して何を受け取っているかを1行ずつ書きます。空欄が残る項目があれば、そこが金額と中身の差になっています。
税理士との相性の問題として語られているものが、実は価格の設計の問題だったという場面は珍しくありません。分解してから判断してください。
見直しを申し入れる時期は、契約の更新月か申告の直後が動かしやすいところです。期の途中では、先方も金額を動かしにくいものです。
金額を下げる交渉に入る前に、上げてでも受けたい支援があるかを考えます。不満の中身が量の不足なら、値下げは解決から遠ざかります。
費用の側から入る対処法は、税理士との相性の中身を後回しにしがちです。順序としては、支援の量の確認が先に来ます。
契約書の条項と担当者の交代の履歴から、事務所側の体制が見える

4つ目のサインは、事務所の体制です。契約の相手が法人化された大きな事務所のときは、所長がよい所長であっても担当者と合わない場合があります。
そのため、実際に自社を受け持つ人には、始める前に必ず一度会っておくよう勧めています。会わないまま始まった関係は、後から調整が効きません。
所長の運営の仕方が古いままの事務所ほど、担当者が入れ替わりやすい傾向もあります。交代の頻度そのものが、体制を映す情報になります。
交代のたびに同じ説明を一から繰り返しているなら、それは相性ではなく引き継ぎの仕組みの問題です。人が替わっても情報が残る設計かどうかを見ます。
確かめ方は簡単です。担当者の名前、就任の時期、退任の時期を、覚えている範囲で年表にしてください。3年で3人替わっていれば、それは偶然ではありません。
年表には引き継ぎの有無も書き添えます。前任からの申し送りがあった交代と、なかった交代を分けると、体制の弱い場所が特定できます。
契約書も机の上に出してください。実務上、1年間は解約できないという縛りがある例や、書面を交わさないまま契約が始まっている例には注意が必要です。
契約書で確かめる箇所は3つです。何年単位で更新されるのか、解約を伝える期限はいつか、期の途中で終えたときの精算はどうなるのかです。
価格の話だけが続く面談や、初回で契約書が机に出てくる進め方にも、著者は注意を促しています。事業の相棒ではなく支払い元として見られている場合がある、という趣旨です。
これらは相手の性格ではなく、事務所の運営の設計です。分けて見ると、税理士との相性という言葉で片づけていた中身が分かれてきます。
体制の問題は、伝えても短期では変わりません。乗り換えを検討する材料としては、5つのサインのなかで最も重く扱ってよい項目です。
体制の弱さは、伝えるだけの対処法では届きにくい領域です。ここが主な理由なら、次の段取りへ進んでよいと考えられます。
担当が固定されている事務所かどうかは、契約書を交わす前に確かめたい点です。税理士との相性は、担当者の単位でも変わります。
不満が提案の不在に向くときは、自社からの情報開示も併せて数える
5つ目のサインは提案の不在です。ただしこの項目だけは、相手の側だけを見ても結論が出ません。
<p情報をしっかり開示したうえで相談内容を明確にし、年商5,000万円ぐらいの規模になっていれば、有意義な提案が返ってくる専門家を選ぶべきです。
裏返せば、渡す情報が少ないまま提案を待つ状態では、判断の材料そのものが足りません。はじめに自社側の量を数えてください。
直近1年に渡した資料を一覧にします。試算表、資金繰りの見通し、設備や採用の予定、金融機関とのやりとり。渡していない欄が多ければ、そこが先です。
提案が出にくい背景には、職業としての成り立ちもあります。書籍は、安定した資格の仕事を選ぶ人ほど、変化そのものを得意としない傾向があると説明しています。
これは個人の怠慢に還元できる話ではありません。求める中身を先に言葉にしない限り、どちらの側からも動きようがない、という構造です。
国税庁が公表しているQ&Aにも、双方の意思疎通に触れた記述があります。制度上も、一方通行のやりとりでは成り立たないという前提に立っています。
依頼の解像度を上げると、不満の一定部分は消えます。求めているのが資金繰りなのか、税の負担なのか、金融機関への見せ方なのかを、3つに絞って伝えてください。
絞った3つには締切を添えます。来月の月次で翌期の資金の見通しを一緒に確認したい、と具体的に頼めば、対応できるかどうかがその場で分かります。
それでも動かない部分が、税理士との相性ではなく、業務の設計として残った課題です。ここまで来て初めて、乗り換えの検討に意味が出てきます。
開示を厚くしても反応が変わらないという結果も、立派な材料です。自社側でやれるだけやったという記録が、次の判断を軽くします。
開示を厚くしても不満が残るなら、それは自社側だけの課題ではありません。対処法の段階を1つ先へ進めてよい合図です。
税理士との相性という言い方を、依頼と応答の記録に置き換えてください。誰が読んでも同じ結論になる形に整います。
日頃からの納税者との信頼関係等を考慮すれば、お互いに意思疎通を図り、納税者の理解を求めておくことも必要ではないかと思われます。
出典:国税庁「税理士制度のQ&A」問4-15(令和7年7月1日現在の法令等に基づき作成・2026年8月取得)/税理士制度のQ&A(PDF)
乗り換えで解ける問題かどうかを、動き出す前に切り分けておく

ここからは具体的な判断の段階へと進みます。最初にやるのは、替えれば解ける問題と、替えても残る問題の切り分けです。
替えれば売上が伸びるのか、という問いに対しては、直接には伸びない、ただしきっかけにはなり得る、と捉えてください。
その理由は、売上を伸ばすのは経営者の役割であり、顧客を最もよく知る立場にいるのも経営者自身だからです。
何を期待するのかをここで明確にしておかなければ、替えたのに何も変わらなかった、という感想で終わってしまいます。
替えることで動くのは、記帳と決算の正確さ、返答までの日数、説明の出し方、そして支払額に対する中身の量です。どれも進め方の領域にあります。
反対に動かないのは、売上の水準、投資や採用の判断の結果、そして社内に数字を読める人がいない状態です。相手を替えても、この3つはそのまま残ります。
抱えている項目がどちらに寄っているかを数えます。前者が多ければ乗り換えは効きますし、後者が多ければ、その前に手を打つべき部分があります。
会社経営の結果を負うのは、あくまで経営者自身です。自社としてやるべきことを尽くしてもなお良好な関係が築けない場合にこそ、初めて変更を考える段階に入ります。
この順序は守る価値があります。順序を飛ばした乗り換えは、同じ違和感を別の相手で再現しがちだからです。
切り分けの結果は紙に残してください。半年後に読み返して同じ項目が残っていれば、それは一時の気分ではなかったという記録になります。
税理士との相性という言葉を使わずに、2つの列だけで説明できるようになったなら、判断の材料はそろっています。
地域によっては選べる母数が限られます。選べる事務所が多くない地域では安易に動かず、いまの関係を立て直す道を優先的に検討してください。
切り分けが済むと、違和感の話は感情から離れます。残った項目に対して、どの対処法が効くのかを選ぶだけの作業になります。
税理士との相性という言葉は、この2列のどちらにも入りません。入らない言葉を根拠にしない姿勢が、失敗を減らします。
- 乗り換えで動く側:記帳と決算の正確さ/返答までの日数/説明の出し方/支払額に対する支援の量/担当者の固定
- 乗り換えても残る側:売上の水準/投資と採用の判断の結果/社内に数字を読める人がいない状態/資料を渡す手間
対処法は伝える・確かめる・比べるの三段に分けて進める
対処法は3つの段階に分けられます。伝える、確かめる、比べる、の順です。いきなり替えると、次に何を求めるのかが決まらないまま動くことになります。
第一段階は伝えることです。望ましい付き合い方とは、会社の情報をすべて開示したうえで、起こりうるリスクを挙げてもらいながら経営者が決める、という形です。
前提として、報酬をきちんと払う、事実を隠さない、決めたことを守る、という3点も挙げられています。ここが欠けたままの要望は届きません。
頼み方は具体的にします。もっと考えてほしい、では動きません。来期に1,000万円の設備を入れたいので、資金の作り方を3通り並べてほしい、という形に直します。
第二段階は確かめることです。伝えたあと、返ってきた反応を1か月だけ記録します。動いたのか、言葉だけだったのかを、事実で判定します。
この段階で片づく場面は珍しくありません。こちらから言わなければ何も返ってこないという状態は、実務において改善が必要な問題点の一つです。
第三段階は比べることです。できることなら2〜3人を比べて自社に適した相手を選ようにしてください。比べる対象がいなければ、判断の基準となる物差しが持てないからです。
比べる場では、同じ質問を全員に投げます。答えの中身だけでなく、答えるまでの速さと、根拠の示し方をそろえて記録してください。
この三つの段階を踏むと、乗り換えそのものが目的になりません。伝えて動いた相手は残す、動かなければ確かめる、差がはっきりすれば比べる、という順序です。
かかる時間も見積もっておきます。反応を見る期間に1か月、候補との面談に1〜2か月、資料の受け渡しに1か月ほどを見ておけば、無理のない日程になります。
三段の途中で打ち切ってもかまいません。第一段階だけで収まったなら、それがいちばん負担の小さい対処法です。
この対処法は、税理士との相性を疑うたびに何度でも使えます。使うほど、自社が何を求めているのかという言葉が磨かれていきます。
不満を抱えた年数と、必要な手間は比例しません。3年でも10年でも、税理士との相性を測り直す手順は同じです。
急ぐ気持ちがあるときこそ、この対処法の順番を確かめてください。後戻りが減ります。
- 起きた出来事を日付つきで書き出し、5つのサインのどれに当たるかを振り分ける
- 求める中身を3つに絞り、期限を添えて現在の相手に伝える
- 1か月のあいだ、返ってきた反応を事実として記録する
- 変化がなければ候補を2〜3人そろえ、全員に同じ質問を投げて比べる
- 引き継ぎの範囲と時期を決めてから、現在の相手に申し出る
引き継ぎの範囲と時期を先に決めると、実務の事故はほとんど防げる

乗り換えを決めたら、動く順序を先に固定します。候補を決め、受け取る資料の範囲を次の相手とすり合わせ、そのあとで現在の相手へ申し出る。こ円滑に手続きを進めるためにも、この順序は必ず守るようにしてください。
順序を反対にすると、引き継ぎの前に空白の期間が生まれます。月次の処理が止まり、結局こちらの手が増えます。
引き継ぎで受け取るものは先に一覧にします。元帳と補助簿、直近3期の決算書および申告書の控え、償却資産台帳、会計データ、各種届出の写しが最低限の範囲です。
会計ソフトが事務所の名義だと、蓄積したデータを引き揚げられない場合があります。契約者が自社か事務所かは、早めに確かめてください。
時期は決算と申告を終えた直後が最も軽くなります。1期分の資料がそこで完結するため、渡す範囲を年度の単位で区切れるからです。
3月決算の会社なら、申告後の6月か7月が動きやすい時期です。期の途中だと、月ごとの資料を1か月単位でそろえ直す作業が加わります。
避けたい時期もあります。税務調査の通知が届いているときと、融資の審査が進行中のときです。経過を把握している相手が担当したほうが早く終わります。
伝え方は短くします。経理のやり方を社内で組み直すので、何月の申告を最後にしたい。書面でそれだけ伝えれば足ります。
理由を長く述べる必要はありません。角を立てずに終える段取りは、資料を滞りなく受け取るための実務そのものです。
踏み切れない理由として、変えると嫌がらせをされるのではという不安が挙がります。この点についても背景を含めて整理しておく必要があります。
こうした不安の背景には、粉飾や脱税を抱えているケースが一定数あります。表に出せない部分があるからこそ、無意識に報復を想像してしまうという側面があるのです。
後ろ暗いところのない会社でも同じ心配を感じてしまうことは少なくありません。報酬を適正に払い、表に出せない処理をしていなければ、案じる必要は特にありません。
事務の段取りとして進めれば、税理士との相性の話を持ち出さずに終えられます。この対処法なら、双方の負担が軽くなります。
不満を伝えるかどうかは自由です。伝えないと決めても、税理士との相性の記録は残しておいてください。
違和感を判断に変えるとき、法律が定める役割を土台に置く
ここまでの5つのサインは、いずれも自社で確かめられる事実でした。最後に、違和感を評価へ変えるための土台を確認しておきます。
国税庁が公表しているQ&Aは、税理士法第1条を引いて使命を示しています。専門家として独立し、公正な立場を保つ姿勢が、条文の冒頭に置かれています。
条文はさらに、申告納税の仕組みの理念にそい、依頼する側の信頼にこたえて、義務の適正な実現を図るところまでを求めています。
同じQ&Aは、この条文を、法の解釈に当たってよるべき基本原則を明らかにした規定だと説明しています。個々の付き合い方の前に、この土台があります。
期日を守る、正確に計算する、依頼した側の信頼にこたえる。ここまでは好みの話ではなく、制度が求めている水準ということになります。
5つのサインのうち、決算書の粗さと説明の不在は、この水準に届いているかどうかの話です。好き嫌いの問題として扱う必要はありません。
残りの部分、たとえば話しやすさや連絡の頻度は、水準の上に乗る選択の問題です。ここは会社側が決めてよい領域になります。
2つを分けると、税理士との相性をめぐる乗り換えの見極めが軽くなります。水準に届いていないなら替える、選択の問題なら伝えて調整する、という振り分けです。
新しい候補を確かめる手順も公表されています。国税庁は、税務相談や税務書類の作成を依頼するときに、依頼相手が登録を受けた有資格者かどうかを確認するよう案内しています。
案内されている確認の方法は2つです。税理士証票の提示を求める方法と、日本税理士会連合会が公開している検索サイトで登録を照会する方法です。
登録の有無は、面談の前に数分で確かめられます。ここを飛ばして人柄の話から入ると、判断の順序が逆になります。
水準と選択を分けたうえで、自社が何を選ぶのかを決める段階に入ります。物差しの作り方は、税理士の選び方の基準を整理したページにまとめています。
税理士との相性という言葉を最後まで使わずに、条件表を1枚つくれたなら、次の面談はずいぶん短く済みます。
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
出典:国税庁「税理士制度のQ&A」問1-1 税理士の使命(税理士法第1条・令和7年7月1日現在の法令等に基づき作成・2026年8月取得)/税理士制度のQ&A(PDF)
税務相談・税務書類の作成等を依頼する場合には、依頼相手が税理士かどうか確認してください。
出典:国税庁「その税務相談、違法です ~にせ税理士にご注意~」(令和7年12月・2026年8月取得)/リーフレット(PDF)
対処法を実行したあとの3か月で、選び直しの結果を測る

替えたあとの3か月は、選んだ判断が正しかったのかを確かめる期間です。ここを空白にすると、数年後に同じ違和感をもう一度背負います。
1か月目に見るのは2つです。問い合わせてから返事が届くまでの日数と、その返事に理由が添えられているかどうかです。
2か月目は、こちらが尋ねる前に指摘が出てくるかどうかを見ます。前期の数字を踏まえた指摘が1件でもあれば、決算書に目を通している相手です。
3か月目に見るのは段取りです。次の決算までに何をいつ渡すのかが一覧で示されれば、業務の設計は整っていると考えてよいでしょう。
3つの確認のうち2つが満たされていれば、選び直しの判断は正しかったといえます。満たされない場合は、面談で聞いた話と実際の動きに開きがあるということです。
開きがあったときの対処法は、最初と変わりません。事実を並べ、締切を添えて伝え、動かなければもう一度比べる。この流れは繰り返し使えます。
期待の水準もここで合わせます。売上そのものが伸びるわけではない点は、切り分けの段階で確かめたとおりです。変わるのは決められる速さです。
税理士を探すのは大変で時間も労力がかかりますが、だからこそ早期に自社に合う相手を見つけ、本来の労力は売上の拡大に使うべきです。
こうした視点を持つことは、乗り換えを何度も繰り返す動きへの歯止めにもなります。探す作業自体が目的になれば、本業に使う時間が削られていきます。
次に点検する時期も、この機会に決めておきます。年商の桁が変わったとき、新しい事業を立ち上げたとき、経営者が交代するときが節目になります。
不満を抱えたまま動けない状態が続く会社は多いものです。実際、長い付き合いの事務所ほど、不満があっても変更に踏み切れない経営者が多いのが実情です。
踏み切れなさは性格ではありません。比べる相手を持たないまま年数が過ぎるという、材料の不足から来ています。
税理士との相性という言葉を、責める材料ではなく点検の合図として使えば、対処法はいつでも組み直せます。
点検の手順を持つ会社は、次の乗り換えでも慌てません。税理士との相性を測り直す物差しが、すでに手元にあるからです。
税理士を探すのは大変で、時間と労力も使います。経営者も暇ではありませんから、早く優秀で会社と相性のよい税理士を見つけ、できる限り労力は売上の拡大に使うようにしていきたいものです。
税理士コンシェルジュ事務局からのコメント
税理士との相性という言い方は、実際には別々の事柄がひとまとめになった状態を指しています。1,600名との面談の場でも、束をほどいて日付と金額に置き換えたところから、話が急に具体的になる場面を数多く見てきました。まずは直近1年分の出来事を、10行ほど書き出すところから始めてみてください。