税理士のミスによる損害の責任はどこまで問えるか?
「税理士のせいで、損害を被った」と考える経営者の方は、少なくありません。例えば、以下のような場合です。
・長年の付き合いだからと信頼して税理士に任せていたら、税務調査で過年度からのミスを指摘され、延滞税を取られた。
・税理士が自分のミスを隠すために帳簿を改ざんしていたことが、税務調査で発覚した。
・税理士が法律が変わったことを知らなかったために、できたはずの節税対策を逃してしまった。
税理士にとってはもちろん、会社にとっても名誉なことではないので、あまり表には出てこない話ですが、こうしたトラブルをきっかけに、税理士の変更に判断する経営者の方も少なくありません。
しかし、顧問税理士と会社とは契約を交わしているはずなので、責任の範囲は契約の内容によることとなります。
契約書の文言にぴたりと当てはまり、明快に判断できるケースばかりであれば話は早いのですが、実際には、税理士と経営者の方とどちらにも責任がある場合もあり、線引きが難しいこともあります。
「損害賠償を求める」「責任の所在を明らかにする」となると、すぐに裁判が思い浮かぶかもしれませんが、裁判には多大な労力がかかります。
すぐに「訴えてやる!」「裁判するしかない!」と行動に移さず、まずは改めてトラブルの内容と、その背景について検討することをお薦めします。
目次
その損害は、本当に税理士だけの責任なのか
例えば、役員報酬の取扱いについて税務調査を受けた結果、不適切と指摘され、会社がペナルティを受けることになったとします。
ここで「顧問税理士が、事前に指摘をしなかったからペナルティを受けることになった。これは税理士のミスだ」等と主張するのは、やや筋違いといえるでしょう。経営者や役員の報酬については、取締役会で決められるものであり、その内容の責任は会社にあるからです。
経営上の責任については、経営者が負うべきもののはずであり、税務調査において不足分の税負担を求められたとしても、税理士のミスとはいえません。それは加算税や延滞税が発生した場合でも同様です。
単純に「税金が発生した→税理士のせいだ」というわけではありません。税理士はチェックやアドバイスはできても、会社の決断に直接関与することはできません。税理士からしてみれば「相談してくれれば、アドバイスできたのに」「事前に伝えてもらえれば、他に方法があったのに」と感じられる場合もあるでしょう。
この例のように、会計まわりのトラブルだからといって、何でも税理士の責任になるわけではないということに注意が必要です。
損害については、税理士だけではなく経営者の監督責任も問われる
では、税理士に記帳代行を依頼していて、入力ミスがあったとします。そして、そのミスのために会社がペナルティを受ける事態になったとしても、安易に税理士ばかりを責めるべきではないと思います。
ペナルティを受けることとなるほどのミスであれば、その兆候は財務諸表上に表れているはずです。いくら記帳代行を依頼していたからといって、月次の報告のなかで財務諸表をチェックする義務は依頼者側にもあるはずです。
もちろん、だからといって税理士のミスが帳消しになる訳ではありません。実際には、会社が負担するペナルティの一部を税理士が負担する等、双方が納得できるような和解を目指すことになるでしょう。
多くの税理士は損害に備え、賠償責任保険に加入している
こうした不測の事態に備えて、多くの税理士は賠償責任保険に加入しています。ミスの解釈に応じて、顧客との関係に配慮しつつ、ミスにより発生させてしまった損害に対応できるようにするためです。
もちろん「保険に入っているんだから」と、何でも税理士の責任にするような態度は望ましくありません。一方、このような保険があるということを知っていれば、税理士側の責任と会社側の責任を線引きし、それぞれの責任を明確にすることに及び腰にならずにすむともいえます。
税理士による損害の解決方法は、複数ある
責任の所在や、損害のリカバーについて、どうしても当事者だけでは決着がつかない場合もあるかもしれません。
そうした際でも、「裁判だ!」と慌てて対応することはお薦めしません。裁判以外にも解決方法はあります。
まず、調停機関として税理士会を利用するという方法があります。各地方に設けられている税理士会に問合せをしてみるとよいでしょう。
参照:東京税理士会ホームページ 紛議調停制度
「税理士会は税理士の味方をする」というわけではありません。税理士会としても、税理士と企業との良好な関係のために、中立な立場で相談に対応します。また、税理士の損害についての相談を数多く受けているので、過去の事例を参照しながら解決へと導いてくれることを期待できます。
また、税理士への損害賠償について経験豊富な弁護士に相談するという方法もあります。弁護士に相談したからといって、すぐに裁判にはなりません。過去の判例をもとに、いわば「落としどころ」を一緒に探っていってもらうというのも一案です。
必ずしも、損害の全てを税理士の責任にできる訳ではない
加算税や延滞税等のペナルティが会社に課せられた場合、責任を税理士に問いたくなる気持ちはわかります。「実害があったのだから、損害賠償を」という考えにもなるでしょう。
たしかに、税理士は経営者の依頼を受けて税務の代行をする立場です。しかし、本来は税務は経営者の仕事ですし、代行を依頼したとしても監督責任は経営者として持たざるを得ません。
会社がペナルティを負った原因は、本当に全責任が税理士によるものなのか。 また、それは税理士の悪意に基づくものだったのか。これらについて、改めて検証してみることをお薦めします。
また、税理士によるミスについては、ある程度事例の蓄積があります。どのような場合にミスが生じやすいのか、予め把握しておくことで未然に防ぐことにも繋がります。
税理士側が気をつけることはもちろん、依頼者側も「話題になっている改正について、自社の対応はどうしようか?」「同じ業界の経営者から、こんな話を聞いたのだが」等と、日頃から会計まわりについてのアンテナを働かせておくことも大切です。
参考記事:税理士のミスによるトラブルが起きたら?裁判を避けるためのリスク対策
経営者の方と税理士はパートナーであり、お互いに助け合う関係です。しかし、税理士はあくまでも外部の助力者であり、税務も含めた経営の責任は、あくまで会社側にあります。
こうしたことを踏まえて、税理士の「ミス」の原因や責任の範囲について、冷静かつ公平な判断を心がけたいところです。
株式会社タックスコム:代表取締役
会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談を行い、相談実績は1万件を超える。2017年に執筆した書籍「税理士に顧問料を払う本当の理由」は、出版から半年にわたりAmazonカテゴリ「税理士」で1位を獲得。2021年に実施した日本コンシューマーリサーチの調査では、税理士紹介サービスで顧客満足No.1を獲得。
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