失業保険(失業手当)とは?受給条件・金額・期間など雇用保険のすべて
会社を辞める前に、失業保険のしくみや条件を理解していないと、退職後に失業保険を受け取ることができない、などトラブルにつながることがあります。なぜなら、受け取れる失業保険は、離職した理由や雇用保険の加入期間など様々な条件が設けられているからです。この記事では、失業保険をもらえる条件や申請方法などについて徹底解説していきます。
目次
労働者の生活と雇用の安定を守る「雇用保険」とは?
毎月の給与明細書をみると、「雇用保険料」という項目があります。雇用保険料とは、会社を辞めたときのために掛けている保険のことです。会社を辞める理由は人それぞれですが、会社の経営が悪化したため会社の都合で辞めざるを得なくなる場合や、より良い待遇や仕事を求めて転職するために自分の都合で辞める場合があります。
会社の都合にせよ、自分の都合にせよ、どんな理由で退職したとしても、未就労期間、つまり、離職期間の生活中に心強い味方となってくれるのが「雇用保険制度」です。加入者は、退職後も引き続く働きたいという意思があり、転職活動を行っている場合に、失業保険を受け取ることができます。
失業保険がもらえる条件とは?
実は、雇用保険に加入していても、すべての人が失業保険をもらえるわけではありません。退職の理由に応じて、次のような条件が設けられています。
①退職の理由
【自己都合の退職の場合】
労働者が自分から自発的に退職を申し出て離職した場合、正当な理由の有無で失業保険の受給条件が変わってきます。正当な理由の代表的な例としては、「家族の介護のため」「配偶者の転勤に伴って同行するため、通勤不可能なため」「疫病により就業が困難なため」などが挙げられます。
このように退職する理由が正当な理由のある自己都合退職であると認められた場合は、離職日以前の1年間に、被保険者期間が通算6ヵ月以上であるなら給付を受けることができます。
一方、正当な理由なしで、自発的に退職した場合は、離職日以前の2年間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが条件となっています。
【会社都合の退職の場合】
会社から解雇(懲戒解雇は除く)、倒産、退職勧奨、更新が予定されていた有期契約(3年以上)の打ち切りなど、会社の都合による理由で非自発的に失業となった場合は、離職日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6ヵ月以上あるなら給付の対象となります。
【その他】
定年退職や更新予定の有期雇用契約の満了など、あらかじめ相違で合意していた理由により失業した場合の失業保険の受給条件は、正当な理由がない自己都合退職と同じ条件です。ただし、このケースに該当する場合は、3ヶ月の給付制限はありません。
②退職理由以外の条件
退職した理由が自発的にせよ、非自発的にせよ、どんな理由だとしても、給付金を受けるためには、ハローワークに離職票を提出し、求職の申し込みをしなければいけません。そして、受給資格者の確認をした日、つまり、受給資格決定日から7日間は待期期間となっています。給付制限期間がない場合は、待期期間後に手当の支給が始まります。
また、給付金を受けるためには、「働く意思と能力」について確認されます。なぜなら、ハローワークでは、失業者が再就職できるよう生活支援をすることを目的とし、失業保険の給付をしているからです。つまり、失業保険を受けるためには、就職したいという意思と、積極的に求職活動をしていることが大切です。
会社都合による退職者は「特定受給資格者」に該当する
自分から自発的に退職する自己都合退職と、会社都合による退職では、基本手当の給付日や支給されるまでの期間などが異なります。特に会社都合による退職の場合、自分の意志とは関係なく失業してしまうので、手厚く保護されるよう「特定受給資格者」に分類されます。
これには会社が倒産したり、突然解雇されたりなどの理由が該当します。また、事業所の移転に伴い通勤が難しくなってしまった場合や、労働契約の内容と労働条件が異なっているなどの理由も、会社都合になります。
【特定受給資格者が給付を受けられる日数】
特定受給資格者が給付を受けられる日数は、雇用保険に加入していた期間や退職時の年齢などによって変わってきます。給付を受けられるのは、原則、離職日の翌日から1年以内です。
また、離職の理由を問わず、求職の申し込みをしてから通算7日間は、待期期間となりますので、支給を受けることはできません。支給期間は1年間ですので、給付日数が多い方は、早めに手続きをすることが大切です。
【特定受給資格者の所定給付日数ー離職時の年齢が29歳以下の場合】
被保険者期間 | 所定給付日数 |
~11か月 | 90日 |
1~4年 | 90日 |
5~9年 | 120日 |
10~19年 | 180日 |
【特定受給資格者の所定給付日数ー離職時の年齢が30~34歳の場合】
被保険者期間 | 所定給付日数 |
~11ヶ月 | 90日 |
1~4年 | 120日 |
5~9年 | 180日 |
10~19年 | 210日 |
20年以上 | 240日 |
すべてをご紹介することはできませんが、さらに年齢が上がれば上がるほど、手当が厚くなっています。特に離職時の年齢が45~59歳の場合は、最大330日となっています。
自己都合による退職者は「一般の離職者」に該当する
自分の意志で退職した人は、「一般の離職者」に該当します。退職願や退職届などと書いた場合は、自己都合退職になります。ただし、注意したい点として、会社都合なのに退職願や退職届を書くよう無理矢理強制されるケースには気をつける必要があります。
なぜなら、自己都合退職と会社都合退職では、給付の内容が大きく異なっているからです。ですから、会社側から無理矢理強要されたとしても、退職願や退職届に署名を絶対にしないようにしましょう。
自己都合には給付の期間が制限されている
一般の離職者の場合、特定受給資格者と比較すると、基本手当の給付日数が大幅に少なく制限されています。雇用保険に加入していた期間が1年未満の方は、給付金を受けることができません。また、雇用保険に20年以上加入していたとしても、150日しか支給されません。
さらに、自己都合退職の場合は、給付制限期間が設けられています。特定受給資格者の場合は、通算7日間の待期期間が満了した後、すぐに給付が開始しますが、一般の離職者の場合は7日の待期期間満了後、さらに3ヶ月間待つ必要があります。つまり、給付金を受け取るまでに、3ヶ月以上も待たなければいけません。
【一般の離職者の所定給付日数】
被保険者期間 | 所定給付日数 |
1年~9年 | 90日 |
10~19年 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
やむを得ない理由がある自己都合退職に該当する「特定理由離職者」とは?
雇用保険制度では、自己都合なのに、やむを得ない理由がある場合は、「特定理由離職者」に該当します。特定理由離職者に該当するのは、契約期間が満了し、本人が更新を希望しているにもかかわらず、更新の合意が成立しないで退職になってしまったなどの「雇い止め」などのケースが代表的な例として挙げられます。
また、健康面や家庭の事情などが理由で自己都合退職した場合も、特定理由離職者として認められることがあります。このようなケースの場合は、特定受給資格者と同様の給付日数が受けられます。しかし、これが適用されるのは、2022年3月31日までの離職が対象となっています。
ちなみに離職理由を判断するのは、ハローワークの所長、もしくは地方運輸局長です。会社が発行した離職票の離職理由を元に判断します。正当な理由があって自己都合退職するので、一般の離職者よりも手厚い給付が受けられるよう取り計らわれます。ですから、会社から離職票を受け取ったら、離職理由が正しいかどうかを必ず確認するようにしましょう。
また、トラブルを回避するためにも、退職する前、雇用主に離職する理由についてお互いが確認しておくことはとても大切です。
失業保険を受給するには「ハローワーク」に求職の申し込みが必要!
会社を退職した後、自動的に失業保険がもらえるのではありません。会社を退職する際、「離職票-1、‐2」「雇用保険被保険者離職票」が発行されます。
上記でみたように、雇用保険に加入していた期間が離職日以前2年間(理由によっては1年間)、通算12か月以上(理由によっては6ヶ月以上)などの条件に該当するなら、雇用保険被保険者離職票をもってハローワークに求職の申し込みをすると、通称「失業保険」と呼ばれている「基本手当」を受けられる資格を得ることができます。
会社側は、従業員に離職票を発行するためには、「離職証明書」を作成し、ハローワークに提出することが求められています。提出期限は、退職した従業員が雇用保険の被保険者の資格を喪失した翌日から10日以内、と規定されていますので、担当者の方は期日以内に提出するよう注意してください。
失業保険をもらうまでの流れと手続きについて
では、上記の点を踏まえた上で、失業保険を受け取るまでに流れについてみていきましょう。
ステップ1:手続きに必要な書類を準備する
・「離職票-1、-2」
・「雇用保険被保険者離職票」
・マイナンバーカード
・証明写真(縦3㎝×横2.5㎝)2枚
・印鑑
・本人名義の預金通帳、もしくはキャッシュカード(インターネットバンク及び外資系金融機関以外)
マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーカード確認書類としてマイナンバー通知カードか、マイナンバーの記載がある住民票のいずれかと、身元確認書類を用意してください。身元確認書類は、運転免許証、官公署が発行元の身分証明書か写真つきの資格証明書、年金手帳、公的医療保険の被保険証書などが挙げられます。
ステップ2:ハローワークで手続きをする
すべての必要書類が揃ったら、現住居に管轄するハローワークで手続きをします。給付金を受けるためには、次の3つの手続きが必要です。
・求職の申し込み
求職の申し込みをして、働く意思と能力があることを示します。求職の申し込みをしなければ、給付金を受けることはできません。
・離職票等必要書類の提出
勤務していた会社から発行された離職票を提出する際には、記載されている離職の理由が正しいかどうかを確認しましょう。もし異なっている場合は、ハローワークの担当者にその旨を伝えてください。
・雇用保険受給説明会日時決定
担当者から「雇用保険説明会」の日時について案内されます。
ステップ3:雇用保険説明会に出席する
指定された日時の雇用保険説明会(雇用保険受給者初回説明会)に参加します。この説明会で「1回目の失業認定日」について知らされます。また、給付金の受取に必要な「失業認定申請書」と「雇用保険受給資格者証」を受け取ります。
ステップ4:失業認定日にハローワークに行く
給付金を受けるためには、月2回以上、求職活動をすることが求められています。失業認定日には必ずハローワークに行き、「失業認定申告書」を提出し、失業認定を受ける必要があります。失業認定申告書には、就職活動の状況について記入しておきます。そして、この時に「2回目の失業認定日」が知らされます。
ステップ5:失業保険の受給
失業認定日から通常5~7営業日後に、指定した口座へ給付金が振り込まれます。それ以降は、原則、4週間に1度、失業認定を受けるためにハローワークへ行くことで、認定を受けた日数分だけの基本手当が支給されます。失業手当を受けるためには、これを継続的に行う必要があります。
ただし、失業手当がもらえる期間は、離職日の翌日から1年間と期限が決められています。手続きが遅れてしまうと、最後まで受け取ることができなくなってしまう可能性もあるので、早めに手続きを行うようにしましょう。また、再就職先が見付かり、まだ支給を受けていない基本手当の日数が残っている場合は、「再就職手当」という給付を受けることが可能になります。
失業保険の給付額について
失業保険の給付額は、退職した会社から支払われていた給与のおよそ50~80%程度もらえることになっています。では、具体的にどのくらいもらえるのでしょうか?計算方法についてみていきましょう。
ステップ1:退職する直前の6ヶ月間の給与合計額を算出する
まず離職する直前の6ヶ月間にもらった給与の合計額を計算します。給与明細書から計算することもできますし、退職する際に会社からもらった「離職票2」を確認することで、合計額が分かります。残業代や通勤手当、住宅て手などの各種手当も含めて計算します。しかし、ボーナスなどの賞与は含めないでください。
ステップ2:1の給与総額から1日当たりの平均賃金を計算する
離職する直前の6ヶ月間の総支給額を180日(30日×6ヶ月)で割り、1日当たりの平均賃金を算出します。つまり、「賃金日額=退職前6ヶ月間の給与総額÷180(日)」という算式で計算します。
ステップ3:離職時の年齢と賃金日額に基づき「基本手当日額」を算出する
すでに用意されている表から、離職時の年齢に該当する表を選び、賃金日額を各表の計算式にあてはめて、基本手当日額を算出します。表は4種類、年齢ごとに用意されています。1の表は29歳以下、65歳以上、2の表は30~44歳、3の表は45~59歳、4の表は60~64歳となっています。この表は、ハローワークの公式サイトで確認することができます。
失業保険を受給するメリット
ここまで雇用保険(失業保険)制度について詳しくみてきました。では、失業保険を受給することで得られるメリットとは何でしょうか?3つのメリットをみてみましょう。
メリット①精神的に安定する
仕事がないと収入もないため、お金は減る一方です。貯金があるとしても、次の就職先が見つかるまで、生活していくために貯金を切り崩していかなければいけません。そのため、精神的な負担が大きくかかります。
しかし、失業保険を受給できれば、一定額の収入を得ることができます。そのため、精神的に落ち着いた状態で転職活動をすることができます。
メリット②最低でも90日間は受給できる
人それぞれ退職の理由は違いますが、失業保険の受給資格を満たしていれば、最低90日間失業保険を受給することができます。およそ3ヶ月間です。3ヶ月間失業保険を受給できれば、転職活動も集中して行えるでしょう。
メリット③効率よく転職活動ができる
前述したように、失業保険はハローワークで手続きを行います。ハローワークは求職活動のサポートが充実しているので、効率よく転職活動が行えるのもメリットと言えるでしょう。また希望するのであれば、職業訓練を受けることも可能です。
失業保険を受給するデメリット
デメリット①職歴に空白期間ができてしまう
失業保険の受給期間は、職歴の空白期間です。一般的に、職歴の空白期間は短いほうが、転職の際に有利に働きます。受給期間が長くなるなら、今後の転職活動へマイナスの影響があるかもしれません。
デメリット②雇用保険の加入期間がリセットされてしまう
失業保険を受けtると、雇用保険の加入期間がゼロになる、つまりリセットされます。そもそも失業保険は、雇用保険の加入期間が長ければ長いほど、それに比例して受給額も増える仕組みになっています。
ですから、すぐに再就職先が見つかりそうな場合は、失業保険を受け取らずに、そのまま転職先で継続して雇用保険に加入し続けることで、次の退職時に受け取る受給額を増やすことができます。
デメリット③転職活動の意欲が低下してしまうことも
何ヶ月も仕事をせず、失業保険を受給していると、ラクな生活スタイルに慣れてしまい、転職活動の意欲が低下してしまう可能性もあります。支給期間が過ぎても転職先が見つからなければ、今後の生活費のやりくりが難しくなってしまうでしょう。
失業保険の不正受給はペナルティが発生!
失業保険の受給が違反と知りながら受給している場合は、「不正受給」とみなされ、ペナルティが課せられる可能性があります。不正受給が発覚した場合は、失業保険を受ける権利の失うだけでなく、受給した金額の全額返還と、その額の2倍に相当する金額のペナルティが発生します。
また、全額返還とペナルティの納付を完納するまで延滞金(年利5%)も発生します。さらに悪質な不正受給と判断された場合は、刑事告発や詐欺罪と処罰される可能性もありますので、不正受給は絶対にしないようにしましょう。
不正受給に該当するケース
では、不正受給には、どのような行為が該当するのでしょうか?以下のような行為は、不正受給とみなされますので注意しましょう。
・収入あってもなくても、就職や就労したことを申告しなかった場合。
・内職や手伝いをしたことを申告しなかった場合。
・自営業を始めて申告しなかった場合。
・就職日の日付を虚偽に申告した場合。
・行っていない求職活動を失業認定申告書の実績に申告した場合。
・傷病手当金や労災保険による休業補償給付などの支給(健康保険)を受けたことや、これから受けようとすることを申告しなかった場合。
・医師の証明書などを偽造したり、不正発行したりし、提出した場合。
・会社の役員などに就任したことを申告しなかった場合。
これらの行動は、失業保険の不正受給と判断されます。自分で判断することが難しい場合は、ハローワークに相談してみましょう。
参照:ハローワークインターネットサービス「不正受給の典型例」
まとめ
毎月の給与から天引きされている雇用保険は、失業したときに給付を受けることができます。退職する理由によって給付内容が異なっていることを覚えておきましょう。そして、人生の転機として転職することになった場合には、適切な申請を行い、雇用保険制度を上手に活用していきましょう。
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
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