賃金台帳とは?記載事項や様式、保存期間など賃金台帳について徹底解説!
賃金台帳は、法定三帳簿のひとつで、労働者を雇用している事業所すべてに作成と保存が義務付けられている重要な書類です。労働基準法によって定められているルールに基づいて作成しなければいけません。
この記事では、賃金台帳に記載すべき事項や様式、保存期間、給与明細書との違いなど賃金台帳について詳しく解説していきます。
目次
賃金台帳とは?
賃金台帳とは、労働者の給与支払いの状況を記した書類のことです。労働基準法第108条には、「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。」と定められています。
よって、労働者を雇用している事業所には、賃金台帳を作成することが義務付けられています。また、「各事業場ごとに・・」と定められているため、事業所単位ではなく、部門や事業内容が異なる場合は、同じ事業所だとしても異なる賃金台帳を作成・保存しなければいけません。
なお、賃金台帳は、賃金が支払われるたびに記載する必要があるため、月に1回は必ず記載します。
賃金台帳は法定三帳簿のひとつ
賃金台帳は、法定三帳簿のひとつです。法定三帳簿とは、労働基準法において定められている帳簿のことで「賃金台帳」「労働者名簿」「出勤簿」の3つの帳簿のことを指します。
【賃金台帳】
先述したように、労働基準法第108条にて賃金台帳の作成・保存が定められています。
【労働者名簿】
労働者名簿とは、労働者の氏名や採用した日など労働者に関する情報が記載された書類のことです。労働基準法第108条にて労働者名簿の作成・保存が定められています。
【出勤簿】
出勤簿とは、労働者の始業や終業時間、早出、残業など労働時間に関する情報が記載された書類のことです。労働基準法第108条にて出勤簿の作成・保存が定められています。
これらの帳簿は労働基準法で定められている書類で、労働基準監督署や年金事務所などの調査や、役所の監査などで提出を求められることがあります。もしも法定三帳簿を作成・保存をしていない、もしくは法律で定められている基準を満たさない場合は、労働基準法120条により30万円以下の罰金が科せられることがあります。
賃金台帳を作成する対象者は?
賃金台帳は、雇用形態問わず、事業所で働くすべての労働者が作成の対象になります。法定三帳簿のひとつである労働者名簿に関しては、日雇い労働者などの短期労働者は対象外となりますが、賃金台帳に関しては日雇い労働者などの短期労働者も対象者に該当します。
つまり、正規雇用者はもちろん、契約社員、派遣社員、パートやアルバイト、日雇い労働者などすべての労働者の賃金台帳を作成しなければいけません。これには社会保険の対象となっている役員も含まれます。
ただし、例外として、労働基準法第41条に該当する「管理監督者」は、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」と定められているため、賃金台帳を作成する必要はありません。なお、管理監督者だとしても、22時から翌朝5時までの深夜労働をした場合は、割増賃金を支払う必要があります。
労働者が1人でもいるなら作成すべき
労働基準法では、事業所で働くすべての労働者が賃金台帳の作成対象になると義務付けられているため、たとえ労働者が1人であったとしても作成しなければいけません。労働者が1人だから・・と賃金台帳の作成を怠るなら、法律違反となりますので注意ましょう。
賃金台帳に記載すべき事項とは?
賃金台帳に記載すべき事項は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条で定められています。定められている記載すべき事項は、以下の10項目です。
①氏名
労働者の氏名
②性別
労働者の性別
③賃金計算期間
賃金計算期間とは、賃金の対象となる期間のこと(月締めの場合は月初めの1日から月末の日付、10日締めの場合は11日から翌月10日までの期間)。
④労働日数
賃金計算期間のうちの労働日数の合計。
⑤労働時間数
賃金計算期間のうちの労働時間の合計。
⑥時間外労働時間数
賃金計算期間のうち時間外労働のあった時間数の合計。
⑦深夜労働時間数
賃金計算期間のうち深夜労働のあった時間数の合計。
⑧休日労働時間数
賃金計算期間のうち休日労働のあった時間数の合計。
➈基本給・各種手当・その他賃金種類ごとにその額
労働基準法では、賃金台帳は、給与支給総額ではなく、基本給と各種手当を給与している。したがって、基本給と各種手当をその種類ごとに記載する。なお、各種手当のうち、通勤手当、家族手当、住宅手当などは時間外賃金の割増の対象にはならない。
⑩控除項目とその額(税金や保険料など賃金の一部を控除した場合の額)
健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料など賃金から控除された控除項目とその金額を記載する。
賃金台帳の様式は?
賃金台帳の様式は、法的に定められていません。そのため、必要な記載事項さえ確認することができれば、基本台帳として認められます。つまり、Excel形式で自作することもできますし、市販の賃金台帳を使用することも可能です。
Excelで作成
賃金台帳を手書きで作成すると、多くの時間と労力を必要しますが、Excelで作成するなら作業の効率化につながります。Excelであれば、自動で計算してくれるので便利です。
会計ソフトの利用
会計ソフトを使って賃金台帳を作成することも可能です。会計ソフトには数多くの種類があり、導入するソフトにもよりますが、賃金台帳の作成をはじめとし、確定申告書の作成や決算書類の作成など会計業務をスムーズに進めるための機能が搭載されています。
また、会計ソフトの多くは、会計業務が初心者の方や簿記の知識がない方でも問題なく使えるのもメリットのひとつです。業務の効率化を図りたいなら、会計ソフトの導入を検討することができるでしょう。
テンプレートの利用
近年は、賃金台帳のテンプレートを利用する方も増えています。厚生労働省の公式サイトをはじめとし、インターネット上で賃金台帳のテンプレートを無料でダウンロードしたものを使用することができます。さまざまな様式のテンプレートがあるので、自社のフォーマットに合ったテンプレートを選ぶことができるでしょう。
専門家に依頼
賃金台帳は、専門家である社会保険労務士に作成を依頼することも可能です。社会保険労務士は、労務や保険、年金などを専門としているため、賃金台帳の作成をはじめとし、労務に関する相談やアドバイスなどを受けることができます。
自社で作成する手間や時間を省略するために、賃金台帳の作成を社会保険労務士に依頼する事業所も少なくありません。ただし、当たり前のことですが、ある程度の費用も発生することも考慮しましょう。
賃金台帳と給与明細書の違いとは?
「賃金台帳をわざわざ作成しなくても、各労働者に毎月発行している給与明細書を賃金台帳の代用として利用できるのでは?」と思われる方もいるかもしれません。実際、賃金台帳よりも給与明細書のほうが身近に感じるものですが、給与明細書を賃金台帳の代わりとして使用することはできません。では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?
賃金台帳も給与明細書も労働者の給与が記載されているという点では同じです。しかし、給与明細書には1ヵ月の賃金額や控除額、勤務日数などが記載されていますが、性別や労働時間などが記載されていない場合があります。給与明細書に記載すべき内容は法的に定められているわけではないので、各事業所によって記載内容は異なります。
一方、賃金台帳は先述した10個の記載事項が法的に定められています。つまり、賃金台帳に記載すべき法定項目が網羅されている給与明細書であれば、賃金台帳として利用することが可能です。しかし、一般的に給与明細書は簡素な内容となっており、賃金台帳に記載すべき法定項目はすべて網羅されていないものがほとんどです。そのため、給与明細書を賃金台帳の代わりとして使用することはできません。
また給与明細書は、給与の支払いをするたびに労働者に対して発行する者であり、事業所は保管していません。一方、賃金台帳は3年間保管するよう法律で定められています。このように賃金台帳は給与明細書よりも法的な拘束力を持つ書類として扱われています。
賃金台帳の保存期間は?
賃金台帳は、法定三帳簿のひとつであるため、保存期間が労働基準法で定められています。労働基準法第109条には、「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。」と規定されています。
つまり、法定三帳簿(賃金台帳・労働者名簿・出勤簿)は、3年間保存しなければいけません。また、労働基準法施行規則第56条第2号では、賃金台帳の起算日に関して、「起算日は、賃金台帳については、最後の記入をした日」と定められています。
そのため、労働者の最後の給与を記載した日が起算日として、3年間保存しなければいけません。また、法定三帳簿(賃金台帳・労働者名簿・出勤簿)は、それぞれ起算日が異なるので注意してください。まとめると以下のようになります。
・賃金台帳
労働者の最後の給与を記載した日が起算日。
・労働者名簿
労働者の死亡、退職、解雇の日が起算日。
・出勤簿
労働者の最後の出勤日が起算日。
なお、賃金台帳の保存は、紙媒体はもちろん、電子データによる保存も可能です。ただし、監査が行われたときや、賃金台帳の提示を求められたときなどに、すぐに表示できる、もしくは印刷できる状態にしておく必要があります。
賃金台帳の作成・保存に違反があると罰則が科せられることも!
賃金台帳の作成・保存に関して法律違反がある場合は、罰則が科せられる可能性があります。具体的には、記載すべき法定項目が守られていない場合や、保存期間が守られていない場合などの不備があるなら、労働基準法違反となります。
違反と判断された場合は、労働基準監督署から是正勧告書が通知され、記載されている是正期日までに訂正箇所を直した正式な賃金台帳を作成して提出する必要があります。もしもそれらの指示を無視するなら、労働基準法第120条により30万円の罰金が科せられる可能性があります。
まとめ
賃金台帳は、労働基準法で作成・保存が義務付けられている「法定三帳簿」のひとつです。雇用している労働者がたとえ1人だとしても、事業所には作成義務があります。また、労働基準法で定められている10項目の記載事項を記載し、3年間、事業所ごとに保存しておくことも義務付けられています。
もしも作成・保存を怠った場合は、法律違反として罰則が科せられる可能性があります。ですから、労働基準法で定められているルールをしっかり守り、作成・保存をしていきましょう。
また、賃金台帳は法定項目が記載されていれば、どのような様式でも可能です。Excelやテンプレート、会計ソフトなど自社に合ったものをつかって作成することもできますし、社会保険労務士へ作成を依頼することもひとつの方法です。毎月1回、必ず作成すべき書類なので、どのような方法で作成するかを慎重に検討することができるでしょう。
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