厚生年金保険料はどのように決まる?計算方法や知っておくべき基礎知識
毎月の給与明細書を見ると、さまざまな項目でお金が徴収されています。その中でも大きな割合を占めているのが厚生年金保険料です。では、厚生年金保険料はどのようにその額が決められているのでしょうか?また、厚生年金保険は、何に使われている保険なのでしょうか?今回は厚生年金保険料の決め方やその目的など、厚生年金保険について知っておきたい基礎知識について詳しく解説していきます。
目次
厚生年金保険とは?
厚生年金保険とは、厚生年金保険の適用を受ける事業所に勤務している20歳以上70歳未満の会社員や公務員が加入する公的年金制度です。厚生年金保険の加入者は、厚生年金制度である国民年金にも加入しています。したがって、将来的には、国民年金部分に該当する「基礎年金」と「厚生年金」の両方を受け取ることが可能となります。なお、厚生年金保険の場合、厚生年金保険法に基づいて国が管理し、給付するという仕組みになっています。
厚生年金保険と国民年金の違いとは?
厚生年金保険も国民年金も、老後生活をするための財源のひとつとなる年金です。では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?
厚生年金保険とは?
厚生年金保険は、主に会社員や公務員の方が対象となる年金です。国民年金に上乗せされ給付されることになります。つまり、基礎年金(国民年金)に厚生年金がプラスされた金額が、将来給付される年金となります。厚生年金保険の保険料は、その金額の半分を事業所側、もう半分を加入者が折半して負担します。厚生年金保険の支給額は、加入していた期間や保険料の額に応じて決定されます。
国民年金とは?
国民年金は、「基礎年金」とも呼ばれており、20歳以上60歳未満の国民全員を対象に加入することが義務付けられている年金です。国民年金の支給額は、加入期間に応じて決まってきます。加入期間の満期は40年間となっており、全期間保険料を納付した場合は、老齢基礎年金を満額受け取ることができます。なお、年金保険料は、自分で納めます。
厚生年金基金とは?
厚生年金保険とよく間違えられるものとして、「厚生年金基金」があります。では、厚生年金基金とは何でしょうか?厚生年金基金は、従業員の将来受け取る年金給付額を増やすために、厚生年金保険に上乗せして給付される年金のことです。
国が管理し給付する厚生年金保険の一部を、事業所側で積み立てや給付を行い、さらに厚生年金基金として上乗せして給付するための積立と給付をする仕組みになっています。このように国に代わって積み立てや給付される厚生年金の一部のことを、「代行部分」いいます。
代行部分の掛金に関しては、事業所側も被保険者も厚生年金保険料を納めことが免除されています。これを「免除保険料」と呼んでいます。つまり、厚生年金基金は、免除保険料と代行部分以外の加算分を掛金を納付ということです。そして、厚生年金保険は、免除保険料を差引いた額を国へ納付することになります。
厚生年金保険料の決まり方と計算方法
厚生年金保険料は、毎月の給与によって決定される「標準報酬月額」と、賞与によって決定される「標準賞与額」に「保険料率」をかけて算出します。そして、決定された厚生年金保険料は、企業側と加入者が半分ずつ負担します。
標準報酬月額とは?
では、標準報酬月額とは何でしょうか?標準報酬月額は、厚生年金保険料の基準になるものです。標準報酬月額を決定するためには、まず、報酬月額を決定しなければいけません。「報酬月額」とは、会社から支給される給与、つまり基本給に加え、役職手当、家族手当、通勤手当、残業手当など事業所側が負担している各種手当や、宿泊費や食事代などの現物支給額などすべて含まれた1ヶ月分の総支給額のことです。
そして、毎年9月に、給料の大きな変動などがなければ、基本的には4~6月の報酬月額を、一定の幅で区分した報酬月額に当てはめ「標準報酬月額」を決定します。決定された額は、同じ年の9月から翌年の8月までの1年間適用されることになります。これを「定時決定」といいます。
なお、令和2年3月分からの厚生年金保険の標準報酬月額は、1等級(8万8,000円)から31等級(62万円)までの31等級に区分されています。それぞれの等級によって、厚生年金保険料が決定されます。
標準報酬月額の決定タイミング
標準報酬月額は、事業所が提出した届書に基づいて、日本年金機構が決定をします。決定のタイミングは、大きく3つあります。
①資格取得時の決定
事業主は、従業員を雇用した際、就業規則や労働契約などの内容に基づき報酬月額を届出します。その際、標準報酬月額も決定します。これを「資格取得時の決定」といいます。このときに決定された標準報酬月額は、その年の8月まで用います。なお、6月1日~12月31日までに資格取得した人につきましては、翌年の8月まで用います。
②定時決定
上記でみたように、毎年1回、4月~6月に支払った報酬月額が事業主から提出され、その際、その報酬総額の平均を求めて標準報酬月額を決定します。これを「定時決定」といいます。このときに決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月まで用います。
なお、定時決定は、4月、5月、6月の3ヶ月間に支払われる報酬月額のうち、支払いの基礎となる日数が17日以上あるもので算定しなければいけません。例えば、4月と6月は25日分の報酬が支払われたが、5月は休日が多かったため15日分の報酬しか支払われなかった場合は、4月と6月の報酬総額で標準報酬月額を決めることになります。
③随時決定
昇給や降給などで支払われる報酬月額が、大幅に変動した場合は、事業主の届出に基づいて標準報酬月額を改定することができます。これを「随時決定」といいます。標準報酬月額が2等級以上変動したときに適用することが可能です。
毎月の厚生年金保険料の計算方法
毎月の厚生年金保険料は、標準報酬月額に共通の保険料率をかけて計算した額です。この額を、事業所側と加入者である被保険者が半分ずつ負担します。厚生年金の保険料率は、毎年少しづつ引き上げられて改定されてきましたが、平成29年9月から厚生年金保険料率が18.3%で固定されています。
つまり、毎月の厚生年金保険料は、「標準報酬月額×現在の保険料率(18.3%)×自己負担割合(50%)」という算式で求めます。
例えば、標準報酬月額が1等級の方(厚生年金基金に未加入の場合)の場合の毎月の厚生年金保険料は、算式を当てはめると、8万8,000円×18.3%=1万6,104円になります。厚生年金保険料1万6,104円を事業所側と被保険者で折半して負担しますので、1万6,104÷2=8,052円になり、被保険者が負担する厚生年金保険料は8,052円となります。
標準賞与額とは?
標準賞与額は、実際に支給された賞与額から1,000円未満を切り捨てた額が標準賞与額になります。したがって、賞与が支給される月毎に、標準賞与額が決定されることになります。標準賞与額の上限は、1ヶ月あたり150万円と定められているため、150万円を超えるときは、標準賞与額は150万円となります。また、育児休業などにより保険料免除期間中に支給された賞与に関しても、標準賞与額を決定する必要があります。
算定基礎届について
事業所側が被保険者の標準報酬月額を決定するために、日本年金機構へ届ける書類を「算定基礎届」といいます。基礎算定届を提出することで、その年の9月から翌年の8月までの1年間に使用する標準報酬月額が決定されます。
算定基礎届の対象者
算定基礎届の対象者は、7月1日の時点で被保険者の資格を有する人すべてが該当します。これには休職中の方や、育児休暇中の方なども含まれます。一方、算定基礎届が対象外となる従業員は、次のような方です。
・6月末までに退職した従業員
・6月1日以降に被保険者となった従業員(資格取得時決定で翌年8月までの標準報酬月額が決定しているため)
・7月改定の月額変更届を提出する予定の従業員
算定基礎届の提出期間
事業主は、算定基礎届対象者の報酬月額などを記入した算定基礎届を「日本年金機構」もしくは「健康保険組合」へ提出する必要があります。提出期間は、その年の「7月1日~10日まで」の間と決められています。
算定基礎届は、手続きや内容、計算方法などが少し複雑ですが、保険料と将来給付される年金を決定するとても重要な届出書のひとつです。6月から7月の短い期間内で作成し、決められている期限内に提出する必要がありますので、しっかり計画を立てて作業を進めることが大切と言えるでしょう。
必要な書類
算定基礎届の用紙は、毎年5月下旬から6月頃にかけて、管轄地区の年金事務所や健康保険組合から届きます。必要事項をもれなく記入して、提出期間内に提出します。なお、送付される書類は、次のようなものです。
・被保険者報酬月額算定基礎届
・被保険者報酬月額算定基礎届統括表
・被保険者報酬月額算定基礎届統括表附票
・70歳以上被用者算用基礎、月額変更、賞与支払届(該当者がいる場合)
・被保険者報酬月額変更届(7月改定者がいる場合)
提出方法
算定基礎届の提出は、電子申請、郵送、窓口持参の3つの方法が用意されています。また、被保険者報酬月額算定基礎届に関しては、届出用紙に加えてCDやDVDなどの電子媒体での提出も可能となっています。
電子媒体で提出する場合は、日本年金機構のホームページで「磁気媒体届書作成プログラム」をダウンロードして、事業所名と事業所整理番号などを記載したラベルを添付する必要があります。電子申請で提出する場合は、電子政府の総合窓口「e-Gov」をから提出をします。
まとめ
厚生年金保険制度のしくみや、国民年金、厚生年金保険との違い、厚生年金保険料の計算方法などについてみてきました。厚生年金保険に加入している方はもちろん、雇用主や経理担当者なども、厚生年金保険についても基礎知識をしっかり理解しておくことはとても大切です。
被保険者の方で、自分の標準報酬月額が分からない場合は、給与明細書から自分の標準報酬月額を推定することは可能です。この機会に厚生年金保険について再確認してみるのはどうでしょうか?
また、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、一時的に厚生年金保険料を納めることが難しい場合は、年金事務所に申請し、認められるなら、納付期限が猶予される可能性があります。納付が困難な方は、日本年金機構へ相談されることをおすすめします。
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