労働者名簿とは?記載事項・書き方・保存期間まで労働者名簿のすべてを解説
「労働者名簿」は、法律によって作成と保管が義務付けられている「法定三帳簿」のひとつです。つまり、従業員を雇う際には、労働者名簿を作成し、保管しておく必要があります。この記事では、事業所にとって重要な労働者名簿に記載すべき事項や保存期間、管理方法など労働者名簿に関する基礎知識を解説していきます。
目次
労働者名簿とは?
労働者名簿とは、労働基準法第107条で定められている、労働者の氏名や採用した日など、事業所が雇用している従業員に関する情報が記載されている書類のことです。労働者名簿は事業所ごとに作成と保管が義務付けられています。したがって、入社時に1人1枚作成され、情報が変更されるたびに名簿の内容を改訂していく必要があります。
常に最新の情報へ改訂すべき理由
では、なぜ労働者名簿は常に最新情報へと改訂しなければならないのでしょうか?それは、労働者名簿には人事や労務の業務に欠かすことができないさまざま情報が集約されているからです。例えば、従業員の通勤にかかる交通費の請求や支給をするときには、通勤経路などを確認するために使います。また、緊急連絡先名簿として使われることもありますし、人事管理上の手続きをする際に利用されることもあります。
さらに雇用関係助成金を申請するときには、支援対象となる労働者の情報提示を求められることがあり、その際労働者名簿が使われることがあります。そのため、従業員を1人でも雇用しているなら、企業の規模を問わず、個人事業主だとしても労働者名簿を作成し、常に従業員の最新情報を正確に把握しておかなければいけません。もし違反をした場合は、30万円以下の罰金などペナルティが課せられるので注意してください。
労働者名簿の作成義務のある事業所
労働者名簿の作成は、従業員を1人でも雇用していれば、会社の規模に関わらずすべての事業所が対象となります。それには個人事業主も対象となっています。もし労働者名簿を作成していなかったり、記入漏れがあったりする場合は、労働基準監督署から指摘を受けることもあります。
労働者名簿の対象者
すでに何度か先述しましたが、労働者名簿を作成する必要がある従業員は、原則として雇用しているすべての従業員が対象となっています。つまり、正社員やパート、アルバイトなどの雇用形態を問わず、雇用している時点で労働者名簿の作成義務が発生しています。ただし、日雇い労働者の場合は、一時的な契約なので作成する必要はありません。
ただし、以下の雇用形態の場合は、作成すべきがどうか迷いやすいことがあります。まとめると次のようになります。
・日雇い労働者
日雇い労働者の場合、労働基準法107条上によると、作成・管理義務の必要はありません。
・派遣労働者
派遣労働者の場合は、派遣元で管理されています。そのため、派遣先では作成や管理の義務はありません。
・代表者や役員
代表者や役員は、労働基準法上では「労働者」として扱われていません。そのため、労働者名簿の作成や管理の対象とはなっていません。しかし、社会保険事務所が行う調査では、役員も社会保険の被保険者として扱われています。そのため、一般労働者同様、労働者名簿の提出を求められることもあります。
・在籍出向中の従業員
在籍出向中の従業員の場合は、出向先で指揮命令されると同時に、労働契約上の雇用関係も発生します。そのため、労働者名簿の作成と管理は、出向先と出向元の両方で義務が発生することになります。
・移籍出向中の従業員
移籍出向中の従業員の場合は、出向元との雇用関係はなくなります。したがって、出向先にのみ労働者名簿の作成と管理の義務が発生することになります。
労働者名簿は「法定三帳簿」のひとつ
労働者名簿は、法定三帳簿のひとつです。そもそも法定三帳簿とは何のことでしょうか?法定三帳簿とは、労働基準法によって作成と保管が義務付けられている書類のことです。それには「労働者名簿」をはじめとし、「賃金台帳」「出勤簿」の3つの書類のことを指しています。では、法定三帳簿として労働者名簿と並ぶ、賃金台帳と出勤簿とはどのような書類なのでしょうか?
賃金台帳とは?
賃金台帳とは、従業員の賃金や労働日数について記載された書類です。労働者名簿とは異なり、日雇い労働者も作成の対象となっています。賃金台帳に記載すべき事項には、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数などの基本事項に加えて、基本賃金、各種手当、控除斤、実物給与(現金以外に支給した物資支給)なども記載します。賃金台帳は、最後に記入したときから、3年間の保存が義務付けられています。
出勤簿とは?
出勤簿とは、従業員の労働時間を適切に把握することを目的として作成される書類です。出勤簿に記載すべき事項には、氏名、出勤日、始業時刻、終業時刻、休憩時間などです。出勤簿に関しても、賃金台帳同様、従業員が最後に出勤した日から3年間、保存しておくことが義務付けられています。
労働者名簿に記載すべき項目とは?
労働者名簿には、記載すべき事項が9項目定められています。ですから、最低でもその9項目は必ず記載する必要があります。なお、労働者名簿は必須項目さえ記載してあれば、どのような様式でも問題ありません。労働者名簿をはじめから作成する場合は、厚生労働省の様式第19号を参考としながら作成することができるかもしれません。記載すべき9項目とは、以下の項目となります。
1、労働者氏名
労働者の氏名を記載します。
2、生年月日
労働者の生年月日記載します。
3、性別
労働者の性別を記載します。
4、履歴
履歴とは、社内での異動や昇進などの情報のことです。原則、社内での履歴ですが、会社によっては、最終学歴や社外履歴などを記載することもあります。
5、住所
実際に住んでいる住所を記載します。住所は、連絡が取れる住所を記入すべきです。ですから、転居などで住所が変更した場合は、その度に新しい情報へ更新する必要があります。また、従業員の中には、住民票に記載されている住所と実際の住所が異なる場合もあるので、しっかり確認しましょう。
6、従事する業務の種類
経理事務や営業など、どのような業務に従事しているのかが分かるよう種類を記載します。ただし、労働者数が30人未満の事業所の場合は、記入は必須ではないので、記載しなくても問題ありません。
7、雇用年月日
雇用年月日は、採用を決定した日ではなく、実際に雇用をした日にちを記載します。
8、退職とその事由
従業員の都合で退職した場合は、理由を記載しなくても問題ありません。しかし、事業所側で従業員を解雇した場合は、解雇した理由を記載することが求められています。
9、死亡年月日とその理由や原因
従業員が在職中に死亡した場合、労務において労災に該当するかどうかを知る必要があります。そのため、その理由や原因などについても記載する必要があります。
労働者名簿の保存期間と更新頻度は?
労働基準法第107条と第109条では労働者名簿をはじめとした法定三帳簿に関して、3年間の保存期間が定められています。では、どの時点からの3年間なのでしょうか?保存期間に関しては、帳簿によって時点が異なります。労働者名簿の場合は、従業員が退職、解雇、死亡したときを起算日(期間を計算始める最初の日)とし、3年間保存します。在籍している従業員と名簿を分けて管理しておくなら、混同せずに適切な管理ができるでしょう。
賃金台帳に関しては最後に給与を支払った日、出席簿に関しては従業員が最後に出勤した日が、それぞれの起算日となり、そこから3年間保存します。また、労働基準法施行規則第53条では、それぞれの帳簿は、「遅延なく」更新するよう明記されていますので、従業員に異動や退職などの事由が生じたときは、その内容をすみやかにその都度更新することを忘れないようにしましょう。
なお、労働者名簿を紙で管理している場合は、変更になった記載事項に二重線を引き、訂正印を押してから、新しい情報を記載してください。
労働者名簿の保管方法とは?
労働基準法では、労働者名簿の保管方法について明確な規定は設けられていません。そのため、電子化が進んでいる現在でも、紙で保管している企業は少なくありません。しかし、さまざまな業務ではペーパーレス化が推奨されていることから、労働者名簿に関してもパソコンで作成し電子データで保管するよう行政通達で認められています。
事実、紙で管理している労働者名簿の場合、更新回数が増えるたびに何度も訂正印を押す必要があり、見た目も悪いだけでなく、見づらくなってくるのが現状です。また、労働者名簿は「遅延なく更新すること」が法律上の原則として規定されてるため、業務上の利便性という観点からみると、電子データで保管するほうが効率よく合理的な方法と言えます。
労働者名簿を電子化する場合
労働者名簿を電子化する場合は、一定の条件を満たす必要があります。その条件とは次の2つです。
条件①事業所ごとに労働者名簿を画面に表示し、印字できる装置を備えていること。
条件②労働基準監督署による調査などで労働者名簿の閲覧や提出を求められた場合、直ちに必要事項が明らかになっている写しを提出できる状態にしておくこと。
上記の2つの条件を満たしているなら、労働者名簿を電子化で保管することができます。労働者の雇用を続ける限り、労働者名簿を作成し、適正に管理していく必要があります。従業員の数が増えれば増えるほど、労働者名簿の管理もしづらくなってくることでしょう。手書きで作成しているなら、この機会に、業務の効率化につながる電子化を検討してみることができるかもしれません。
労働者名簿を作成するにあたって注意したいこと
労働者名簿を作成するにあたり、いくつか注意したいことがあります。それは次のような点です。
労働者名簿は事業所ごとに作成すること
労働者名簿は社内の人事部門ですべてを作成するのではなく、事業所ごとに作成するよう定められてます。ですから、本社以外にも支社や支店、営業所などがある場合は、それぞれの事業場で労働者名簿を作成するようにしましょう。
労働者名簿は個人情報保護法の対象であること
労働者名簿に記載される必要事項は、氏名や住所など個人のプライバシーにかかる情報がたくさん盛り込まれています。そのため、個人情報保護法の対象となっています。そのため、それらの必要事項を記載するために従業員から個人情報を集めるときには、本人の同意を得る必要があります。また、その際には、集めた個人情報をどのような目的や用途で使用するかなどをしっかり説明しておく必要もあります。
まとめ
労働者名簿は法定三帳簿のひとつで、法律によって作成と保管が義務付けられている書類です。事業所の規模に関係なく、従業員を1人でも雇用したなら作成義務と管理の義務が発生します。個人的な情報が記載されている書類ですから、適切な労務管理が求められています。
また、記載事項の内容が変更したときは速やかに更新することや、従業員が退職や死亡後も3年間は保管しておくなど注意すべきことがたくさんありますので、担当者は労働者名簿などの法定三帳簿の基礎知識をしっかり念頭にいれておきましょう。
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