扶養とは?税法上・社会保険上の扶養と扶養控除について
配偶者がパートで働く場合、1年間の収入を扶養範囲内に抑えておくなら、所得税や社会保険料などが課税されません。
では、そもそも扶養とは何なのでしょうか?扶養範囲の収入とはいくらまでなのでしょうか?この記事では扶養について、また所得税や社会保険の扶養の違いについて分かりやすく解説していきます。
目次
扶養とは?
夫婦で共働きをしている家庭の多くは、妻が夫の扶養に入っています。では、扶養に入る、とはどのようなことでしょうか?
一般的に扶養とは、親族から経済的な支援を受けることを意味しています。親族には主に夫や親、子どもなども含まれます。しかし、「税法上の扶養」、また「社会保険上の扶養」になると、意味が限定的なものとされます。
税法上の扶養とは、納税者が家族を扶養している場合、所得税の控除対象となる扶養家族の人数や年齢によって、一定の金額を課税所得から控除することができます。この控除の対象に該当するなら、納税者本人の所得税と住民税を抑えることにつながります。
一方、社会保険上の扶養とは、会社員や公務員の扶養者の厚生年金保険(配偶者のみ)と健康保険の扶養に入ることを意味しています。社会保険上の扶養に入るならば、国民年金保険料、健康保険料、介護保険料の支払いが不要となります。なお、自営業の場合、配偶者を国民年金保険の扶養に入れることはできません。
このように税法上の扶養と社会保険上の扶養の2つの扶養には、扶養の範囲や収入基準などが異なっています。それぞれについて詳しくみていきましょう。
税法上の扶養範囲
税法上の扶養は、扶養控除が関係してきます。所得税の扶養に関する控除には、配偶者が対象となる「配偶者控除」「配偶者特別控除」、配偶者以外の親族が対象となっている「扶養控除」の3種類があります。
扶養する場合は、原則として同居している必要があります。なお、学生などの扶養の場合、家から離れていることもありますが、生計を同一していれば扶養とすることができます。
具体的には、次に該当する方が扶養親族の対象となります。
・配偶者以外の親族(6親等内の血族、もしくは3親等内の婚族)、または都道県知事から養育を委託された里子、市町村から養護を委託された老人
・納税者本人と生計を同一している
・合計所得金額が48万円以下(令和2年以降から)、もしくはパートやアルバイトなどの給与収入のみで収入が103万円以下
・青色申告者の専業専従者(家族従業員)として一度も給与の支払いを受けていない
・白色申告者の専業専従者でない
扶養の対象となる年齢について
所得税の場合、毎年12月31日時点の状況をもとにして計算します。したがって、扶養の対象に該当するのは、対象年の12月31日時点で16歳以上の親族と対象年齢が定められています。なお、下限が16歳以上と定められていますが、年齢の上限はありません。
ちなみに、以前は16歳未満でも扶養にすることができました。しかし、2011年の税制改正により、16歳未満の子どもには児童手当が支払われることになりました。そのため、現在では児童手当の対象となる16歳未満の子どもは、扶養親族の対象外となっています。
税法上の扶養の収入基準と扶養控除
所得税の計算には、扶養の収入基準が定められています。つまり、扶養している家族がすべて扶養控除の対象になるわけではありません。家族の範囲や生計に加えて、収入基準も扶養の対象になるかどうかに大きくかかわってきます。
配偶者の場合
配偶者には、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」という2種類の控除があります。配偶者控除は年間所得が38万円以下(給与所得の場合は103万円以下)が収入基準となっています。
一方、配偶者特別控除の場合は、年間所得が38万超~123万円以下(給与所得の場合は103万円超~201万6千円未満)が収入基準となっています。
つまり、配偶者に関する控除は、配偶者控除か配偶者特別控除、もしくはそれらが適用されない、の3つのケースのいずれかになります。なお、配偶者とは、法律上の配偶者のみに限定されています。よって、内縁関係は適用対象外となります。
また、白色申告の事業専従者や納税者本人の合計所得が1,000万円(給与所得のみの場合は1,220万円)を超える場合などは、適用されないこともあります。
配偶者控除を受けられる5つの要件
配偶者控除を受けるには、以下の5つの要件をすべて満たしている必要があります。
要件①法律上の規定による配偶者であること。
法律上の規定とは、民放第739条で定められている婚姻届を提出している配偶者のことです。つまり、事実婚や内縁関係などの場合は、配偶者控除を受けられません。
要件②納税者本人と同一生計していること。
同一生計とは、同じ生計で暮らしていることを意味します。単身赴任や一時的に別居している場合でも、生活費が同じであれば同一生計として認められています。
要件③年間の合計所得金額が48万円以下であること。
配偶者の所得金額が、年間48万円以下である必要があります。なお、2019年までは年間38万円まででしたが、2020年以降から10万円分緩和された48万円となりました。それに伴い、基礎控除の金額も38万円から48万円へ引き上がりました。
要件④青色申告者や白色申告者の事業専従者でないこと。
青色申告者や白色申告者の専業専従者は、申告する年に納税者本人から給与を一度も受け取っていないことが条件となっています。これらに該当する方は別途控除を受けられます。そのため、二重に控除を受けることができないようになっています。
要件⑤納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であること。
配偶者特別控除を受けられる5つの要件
要件①配偶者が、以下の4つの要件全てに当てはまること。
1、法律上の規定による配偶者であること。
2、納税者本人と同一生計であること。
3、青色申告者や白色申告者の事業専従者でないこと。
4、年間の合計所得金額が48万円〜133万円以下であること。
要件③配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと。
要件④配偶者が、「給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書」に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと。
要件⑤配偶者が、「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと。
要件⑤控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
控除額
控除額は、配偶者控除、配偶者特別控除の両者とも、納税者本人の所得に応じて控除額が異なってきます。3段階の合計所得金額によって、次のように異なります。
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 | 老人控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 38万円 | 48万円 |
900万円~950万円 | 26万円 | 32万円 |
950万円~1,000万円 | 13万円 | 16万円 |
また、令和2年以降の配偶者の合計所得金額の上限は、38万円以下から48万円以下と変更になります。令和2年以降の控除金額は次のようになっています。
・配偶者の合計所得金額48万円~95万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 38万円 |
900万円~950万円 | 26万円 |
950万円~1,000万円 | 13万円 |
・配偶者の合計所得金額95万円~100万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 36万円 |
900万円~950万円 | 24万円 |
950万円~1,000万円 | 12万円 |
・配偶者の合計所得金額100万円~105万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 31万円 |
900万円~950万円 | 21万円 |
950万円~1,000万円 | 11万円 |
・配偶者の合計所得金額105万円~110万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 26万円 |
900万円~950万円 | 18万円 |
950万円~1,000万円 | 9万円 |
・配偶者の合計所得金額110万円~115万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 21万円 |
900万円~950万円 | 14万円 |
950万円~1,000万円 | 7万円 |
・配偶者の合計所得金額115万円~120万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 16万円 |
900万円~950万円 | 11万円 |
950万円~1,000万円 | 6万円 |
・配偶者の合計所得金額120万円~125万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 11万円 |
900万円~950万円 | 8万円 |
950万円~1,000万円 | 4万円 |
・配偶者の合計所得金額125万円~130万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 6万円 |
900万円~950万円 | 4万円 |
950万円~1,000万円 | 2万円 |
・配偶者の合計所得金額130万円~133万円
控除を受ける納税者本人の所得 | 一般の控除対象配偶者の控除額 |
~900万円 | 3万円 |
900万円~950万円 | 2万円 |
950万円~1,000万円 | 1万円 |
その他の親族の場合
令和2年以降の配偶者以外の親族の場合は、年間所得が48万円(給与所得の場合は103万円以下)であることが条件となっています。また、青色申告の場合は専従者として給与を受け取っていないこと、白色申告の場合は専従者でないことも条件となっています。
さらに税法上の計算では、扶養親族は19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」と、70歳以上の「老齢扶養親族」に区分されています。それぞれの控除額は次のようになっています。
・一般の控除対象扶養親族:控除額38万円
・特定扶養親族:控除額63万円
・老人扶養親族(同居老親等以外):控除額48万円
・老齢扶養親族(同居老親等):控除額58万円
社会保険上の扶養範囲
社会保険の扶養範囲となる家族は、配偶者と3親等内の親族となっています。税法上の扶養範囲とは異なり、法律的には家族として認められていない内縁関係の配偶者、亡くなった内縁関係の配偶者の父母や子どもなども扶養の対象範囲に含まれています。
しかし、内縁関係の配偶者を扶養とする場合は、確認が必要とされています。被保険者と内縁関係の配偶者の戸籍謄本、被保険者の世帯全員を確認できる住民票が必要です。また、3親等内の親族の場合、同居していることが要件となっています。
扶養の対象となる年齢について
社会保険上の扶養対象は、生計を同一している配偶者(内縁関係の配偶者も含む)、3親等内のの親族ですが、両者とも75歳未満までとなっています。75歳以上の場合は、後期高齢者医療制度により、75歳以上の対象者自身で健康保険に加入する必要があります。
社会保険上の扶養の収入基準と扶養控除
社会保険上では、非課税になるものも収入に入れて計算する必要があります。それには、障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金、雇用保険の基本手当、健康保険の傷病手当や出産手当金、労災保険の傷病補償給付、障害補償給付、胃則補償給付などが挙げられます。
また、社会保険上の扶養の収入基準額は、年間収入130万円未満と定められています。なお、60歳以上の被扶養者、もしくは被扶養者が障害をもっている場合は年間収入180万円未満となります。
税法上の計算は、年間での所得が基準内におさまっていれば月々の所得が異なっていても扶養の対象となっていましたが、社会保険上の計算では、毎月の収入で判断されます。
つまり、扶養にしたい人が給与所得のみで年間の給与収入130万円を月々で割ると、1ヶ月当たり108,333円になりますが、通年を通して扶養に入りたい場合は、毎月の給与が108,333円を超えると対象外となるので注意が必要です。
また、被保険者が扶養の対象者と同居する場合、扶養の対象になる人の年収は被保険者の半分未満であることが原則とされています。
参照:国税庁「扶養控除」
まとめ
所得税と健康保険の扶養は制度が異なっています。そのため、配偶者や親族などを扶養にできるとしても、親族の範囲や収入の基準は全く異なっています。ですから、扶養に入りたい場合は、それぞれの条件をよく理解する必要があります。また、給与や社会保険の処理をする担当者は、扶養範囲の違いに気を付けながら毎月の給与計算をしなければいけません。
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