個人事業主消費税の納付義務が発生する要件とは?個人事業主のための簡易課税制度 | 税理士コンシェルジュ

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個人事業主消費税の納付義務が発生する要件とは?個人事業主のための簡易課税制度

2020年9月4日
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個人事業主として事業を営んでいる場合、個人事業主消費税の納付義務が発生するケースがあります。すべての個人事業主に該当するものではないため、消費税のしくみについて理解できていない方もいることでしょう。

今回は、個人事業主消費税の納税が必要になる人や個人事業主消費税の簡易課税制度など、個人事業主消費税のしくみについて解説していきます。

消費税とは?

私たちの身近な税金のひとつである「消費税」とは何でしょうか?そもそも税金には、納税者が直接納付する「直接税」と、税金を負担する者と納付する者が異なる「間接税」に大きく分類されています。

そして、消費税は、「間接税」に該当します。つまり、税金を負担するのは消費者で、税の申告・納付をするのは事業者です。

消費税の「課税事業者」と「免税事業者」

消費税の税金を負担する人は「担税者」、税の申告・納付をする人は「納税義務者」と呼ばれています。そして、納税義務者は、「課税事業者」と「免税事業者」に分類されています。では、両者は何を基準として分類されるのでしょうか?

それは基準期間として設定されている前々年度の1年間と、前年の1月1日~6月30日までの課税売上高と給与支払いが1,000万円を超えるか超えないか、などの一定の要件を基準として判断されます。これには個人事業主も含まれます。

消費税の納税義務のある課税事業者

では、消費税の課税事業者の要件について確認していきましょう。

要件①基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている。

ここで言う消費税の「基準期間」とは、課税期間の前々年度のことです。個人事業主の場合は、法人とは異なり、暦年で確定申告をします。したがって、その年に消費税の課税事業者になるかならないかは、前々年の1月1日~12月31日までの課税売上高で判定されます。

課税売上高が1,000万円超の場合は「課税事業者」、1,000万円以下の場合は「免税事業者」になります。なお、新規に事業を開始した場合は、2年目までは基準期間がありません。そのため、その年の売上高にかかわらず「免税事業者」と判定されます。

要件②前年の1月1日~6月30日の課税売上高(または給与支払額)が1,000万円を超えている。
個人事業主の場合は、1月1日~6月30日までの課税売上高が1,000万円を超えると、基準期間の課税売上高にかかわらず「課税事業者」になります。

ただし、課税売上高に代えて、給与支払額で判断することもできます。特定期間(前年の1月1日~6月30日までの6ヵ月の期間)の給与支払額が1,000万円以下であれば、「免税事業者」になります。なお、前年の1月1日~6月30日までの6ヵ月の期間のことを、消費税の用語では「特定期間」といいます。

要件③「消費税課税事業者選択届出書」を提出している。
課税事業者になると判断された場合は、速やかに「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。(「消費税課税事業者選択届出書」については、詳しく後述します)

自ら課税事業者になることを選択することも可能

上記の要件を満たしていなくても、事前に手続きを行うなら、消費税の課税事業者になることが可能です。「わざわざ消費税の課税事業者になって何の得があるのだろうか・・?」と不思議に思われる方もいるかもしれません。

なぜ自ら課税事業者になることを選択する方がいるのでしょうか?それは消費税は必ずしも納税するだけのものではないからです。つまり、還付を受ける可能性があるからです。

消費税の確定申告では、顧客から預かった消費税から、自分が支払った消費税を差引いた金額を申告、また納税することになっています。その際、顧客から預かった消費税よりも、自分が支払った消費税の金額の方が大きい場合は、還付を受けることができます。

ただし、課税事業者のみが還付を受けられます。つまり、免税事業者は還付を受けることはできません。ですから、営む業種や業界にもよりますが、大きな仕入をする予定がある場合などは、上記の要件を満たしていないとしても、自ら課税事業者になることで節税につながる可能性があることを覚えておきましょう。

なお、一度課税事業者を選択した場合は、一定期間は免税事業者に戻ることはできません。選択する際には将来を見据えた選択をされることをおすすめします。

課税事業者になるために必要な「消費税課税事業者選択届出書」

個人事業主は、1月1日から12月31日までの1年間の売上高や支出などをまとめ、翌年、確定申告書を提出することが義務付けられています。その際、課税売上高が1,000万円を超えた場合に納税の義務が発生します。

しかし、自動的に課税事業者になる、というわけではありません。「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。

「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」の提出

1年間の課税売上高が1,000万円超えになった場合は、「基準期間用」の「消費税課税事業者届出書」を提出します。基準期間用の届出書には、次のような項目があります。

【納税地】
納税地とは、開業届を記載した住所です。

【住所】
基本的には、住民票に記載されている住所を記載します。

【名称(屋号)】
開業届に記載した屋号を記載します。(なお、開業届で屋号を記入することは義務付けられていません)

【個人番号・法人番号】
該当する番号を記載します。

【氏名】
個人事業主の氏名を記入し、押印をします。

【適用開始課税期間・基準期間】
基本、基準期間は前年の1月1日~12月31日、適用開始課税期間は翌年1月1日~12月31日となっています。

【総売上高・課税売上高】
総売上高(総収入金額)とは、個人事業主が事業を行うことで得たすべての収入金額が該当します。一例として次のようなものが挙げられます。
・商品や製品の販売代金
・請負工事収入やサービス料収入
・不動産の賃貸料や権利金、礼金、更新料など
・事業用固定資産などの譲渡収入
・原稿料や講演料など
・棚卸資産など

一方、課税売上高とは、総売上高から消費税が課税されない収入金額を差し引いた額のことです。消費税が課税されない収入金額の一例として、次のようなものが挙げられます。

・身体障害者用の販売収入や賃貸料
・商品券や切手などの販売収入

【生年月日】
個人事業主の生年月日を記載します。

【事業内容】
開業届に記載した事業内容を記載します。

【届出区分 】
特に記載する必要はありません。

「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」の提出

「特定期間用」の「消費税課税事業者届出書」は、1月1日~6月30日の半年間にわたる売上高が1,000万円を超えた方が提出する届出書です。「基準期間用」の項目とほぼ同じです。

納税地・住所・名称(屋号)・個人番号・氏名・適用開始課税期間と基準期間・総売上高と課税売上高・生年月日・事業内容を記載します。記載項目はほぼ同じなので、「特定期間用」の届出書かどうかをしっかり確認しましょう。

消費税の「簡易課税制度」とは?

「簡易課税制度」とは、課税売上高が5,000万円以下の中小企業者の事務の負担を軽減することを目的とした制度です。届出を提出した事業者を対象とし、簡易化された仕入控除額の計算が認められています。この簡易化課税制度を理解するためには、まず原則となっている「本則課税制度」について理解する必要があります。

本則課税制度の概要

通常、消費税の納付税額は、「納付税額=課税売上等に係る消費税額-課税仕入等に係る消費税額」という計算式で求めます。つまり、顧客から預かった消費税から、自分が支払った消費税を差引く、「納付税額=預かった消費税-支払った消費税」という計算式です。

簡易課税制度で事務の負担を軽減!

原則、支払った消費税は、仕入先が納付をします。そのため、自社で納付すべき税額は、預かった消費税から支払った消費税になります。消費税用語では、控除する金額のことを「仕入控除額」といいます。

仕入控除額の計算には、課税対象となる仕入高だけでなく、設備の購入など諸費税を支払った取引すべてが対象となります。そのため、毎回の仕入れごとに金額を記録し、課税対象となるものを合算することは、中小企業にとっては大きな負担となります。

そこで事務負担を軽減するために、届出を提出した中小企業は、課税売上等に係る消費税額(支払った消費税額)の一定割合を、課税仕入等に係る消費税額(預かった消費税額)として計算できる「簡易課税」が認められています。これにより、売上のみ記録し、計算するだけで済ませることが可能となっています。

本則課税と簡易課税ではどちらが有利か?

前述したように、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には、事前に届出を提出することで通常の消費税の計算方法である本則課税ではなく、簡易課税で申告・納税をすることができます。

簡易課税の目的は、売上の少ない中小企業を対象に、事務の負担を軽減させることですが、近年は会計ソフトを利用して消費税を計算することが一般的となっています。

したがって、計算の手間はどちらの制度を採用したとしても、あまり変わりません。そのため、最近は、本則課税と簡易課税の税額の少ない方を採用することが一般的となっています。

簡易課税には還付がない!

簡易制度を採用したほうが有利になる、と一般的には言われています。しかし、簡易課税には還付がありません。通常、預かった消費税より、支払った消費税の方が多い場合は、消費税の還付を受けられますが、簡易課税を選択した場合は還付を受けられないので注意が必要です。

大きな仕入を予定し、還付を受けられる見込みがある場合は、簡易課税にするか本則課税にするか、慎重に検討されることをおすすめします。

本則課税と簡易課税の計算方法の具体例

では、具体的な例をみていきましょう。例として、600万円の課税売上高と300万円の仕入額を仮定したとします。この場合、実際の消費税額はどのようになるのでしょうか?本則課税で計算した場合と、簡易課税で計算した場合をみてみましょう。

本則課税の計算方法

本則課税を採用した場合、消費税の納付税額は「納付税額=課税売上等に係る消費税額-課税仕入等に係る消費税額」を当てはめて税額を求めます。600万円の課税売上高と300万円の仕入額を当てはめると、「(600万円×10%)-(300万円×10%)=30万円」となります。つまり、消費税額は30万円になります。

簡易課税の計算方法

では、600万円の課税売上高と300万円の仕入額を簡易課税で計算するとどうなるでしょうか?簡易課税で計算する際には、業種によって定められている「みなし仕入れ率」を反映させる必要があります。

【みなし仕入れ率】
・第1種事業(卸売業):90%
・第2種事業(小売業):80%
・第3種事業(農業・漁業・林業・工業・建設業・製造業など):70%
・第5種事業(運輸通信業・金融業・保険業・飲食店以外のサービス業など):50%
・第6種事業(不動産業):40%

みなし仕入れ率を反映させた計算式は、「納付税額=(課税売上高×10%)-(仕入額×10%×みなし仕入れ率)」となります。これに600万円の課税売上高と300万円の仕入額をあてはめてみましょう。

卸売業の場合は、「600万円×10%-600万円×10%×90%=26万円」
農業の場合は、「600万円×10%-600万円×10%×70%=18万円」 となります。

このようにみなし仕入れ率は、業種によって40~90%の範囲で変動をします。ですから、個人事業主の方は、自分の業種がどのみなし仕入れ率を反映すべきなのかを事前に確認しておくようにしましょう。

個人事業主税の納付方法

課税事業者となった場合は、規定されている方法に沿って申告・納税手続きを進める必要があります。

納付期限

消費税の申告から納付までは、2月末が期限として定められています。つまり、個人事業主の消費税納税期限は、課税期間が終了してから2ヶ月以内です。所得税の確定申告と納税とは期間が異なりますので注意してください。

ただし、簡易課税で申告する場合は、課税期間が始まるまでに手続きを終了させる必要があります。原則、12月31日が届出書の提出期限となっていますので、簡易課税を採用している方は、年末にかけて準備を進めることができるでしょう。

申告書類の作成と提出

本則課税と簡易課税では、申告する際の必要書類が異なります。

【本則課税の場合】
本課税で消費税を納める場合は、「消費税および地方消費税確定申告書(一般用)」と「付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」の2つの書類を提出します。なお、還付を受取たい場合は、「消費税の還付申告に関する明細書」も一緒に提出する必要があります。

【簡易課税の場合】
簡易課税で消費税を納める場合は、「消費税および地方消費税確定申告書(簡易用)」と「付表5 控除対象仕入税額の計算表」の2つの書類を提出します。

消費税の納付ができないときのリスク

個人事業主の場合、給与所得者と比較すると自由度は高いという魅力もありますが、収入が激減するリスクがあります。特に消費税の場合、原則2年前の売上高が基準となり課税されます。そのため、納税するときに支払が難しくなるというケースもあります。

では、消費税の納付期限がきても支払いができなかった場合はどうなるのでしょうか?結論から述べるなら、延滞税がペナルティとして発生します。納付期限の翌日から2ヶ月経過するまでは延滞税年7.3%、2ヶ月以降は延滞税率年14.6%で課せられます。

どうしても支払えない場合は、猶予の申請をすることもできます。いずれかせよペナルティが発生しますので、早めに対処するようにしましょう。

まとめ

個人事業主の課税売上高が1,000万円超えた場合や、前年の1月1日~6月30日の課税売上高(または給与支払額)が1,000万円超えた場合は、課税事業者として「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。

また、納税額を算出する際には、課税売上高が5,000万円以下の中小企業者の事務の負担を軽減することを目的とした「簡易課税制度」を利用することができます。ただし、還付はないので注意しましょう。


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