医療費控除は、難しくない!【10万円以下も可】
「医療費控除」とは、「1年間に支払った医療費が一定額を超えた時、所定の手続きをすると納めた税金の一部が戻ってくる」という制度です。
病気やケガをしてしまい、受診したときや入院したときなどには治療費や入院費がかかります。病気や怪我の程度、治療や入院にかかる期間によっては、かなりの負担になる場合もあります。医療費控除は、この負担を軽減させることができる仕組みです。
2020年は、新型コロナウイルス拡大の影響から受診を控えたり、外出時自粛による事故や怪我の減少したりといった傾向が見られましたが、現在では、そのような傾向も緩やかなものになっているようです。
しかし、一方で「マスクは医療費控除に入るのか?」「不安なために自主的に行ったPCR検査は医療費控除に入るのか?」といった、コロナ禍ならではの疑問も多く見られているのが特徴です。また、2020年に引き続き、2021年の確定申告も期限延長がなされたため、例年以上に興味が持たれているようです。
参考記事:2021年度の確定申告も期限延長!~LINEで申告相談する方法(「今年ならではの確定申告の疑問「マスクは、医療費控除になる?」)
これまで「医療費控除って、多額の医療費がかかったときにだけ使えるのでしょう?」「医療費に10万円もかかっていないから、関係ない」「いちいち領収書等を管理するのが面倒だから、医療費控除は考えていない」といった医療費控除に関心を持っていなかった人も、「また期限が延長されるのであればチャレンジしてみようかな」と、医療費控除に取り組む人が増えているようです。
詳細は後述しますが、医療費控除を利用できる機会は一年に一度なので、日頃から医療費控除という仕組みの基本を理解しておき、医療費負担が大きくなってしまった場合に、きちんと利用できるようにしておくことをお薦めします。
この記事では、医療費控除の基礎知識や仕組み、手続き方法などについて解説していきます。
目次
医療費控除とは?
医療費控除とは、1年間で支払った医療費の合計が一定の金額を超えた時、支払った医療費に応じて税金を計算し直し、「所得控除」を受けられる制度です。所得控除とは、税金を計算する際に基準となる「課税所得」に含めない、ということです。
つまり、医療費控除とは、支払った医療費の額がそのまますべて戻ってくることではない、ということに注意が必要です。
では、どのように支払った税金の一部が戻ってくるのでしょうか?
会社員の場合は、医療費控除を申請することで、給与から天引きされていた所得税の還付を受けることができます。なお、年末調整があるため、確定申告していない場合でも医療費控除を申請する際には、確定申告が必要になります。
個人事業主である場合など、例年確定申告を行っている場合は、医療費控除についても記入し申請すれば、支払った医療費に応じて「課税所得」が少なくなり、結果として課税額が低くなります。
医療費控除の対象となる金額とは?
医療費控除の対象となる金額は、
「1年間の医療費の合計額-保険金などの補てん金額-10万円=医療費控除額(上限200万円)」
という計算式で算出します。なお、総所得が200万円以下の場合は、10万円ではなく、総所得の5%を引いた額が適用されます。
よく「医療費控除は、医療費が10万円以上の場合」と言われていますが、それはこの計算式によるものです。ただし上記のように、総所得が200万円以下の場合は、総所得の5%を引いた額、つまり
「(1年間の医療費の合計額-保険金などの補てん金額)-総所得×5%=医療費控除額
となることに注意が必要です。例えば、総所得が100万円であれば、その5%の5万円を超えた金額の医療費を支払っていれば、控除を受けることができます。
「医療費控除といっても、10万円は超えないし・・・」と適用をはじめから検討していない方もいるようですが、総所得によっては10万円以下でも利用可能なので、よく確認することをお薦めします。
計算式にある「保険金などの補てん金額」とは、医療保険や健康保険などから支給されたお金の金額すべてが当てはまります。
具体的には、医療保険の入院給付金や手術給付金、健康保険の高額療養費、出産育児一時金などが含まれます。このような補てん金を受け取った場合は、支払った医療費から差し引いて計算します。
医療費控除の「対象となる医療費」と「対象にならない医療費」とは?
支払った医療費はすべてが控除の対象になるわけではなく、「対象になる医療費」と「対象にならない医療費」があるという点にも注意が必要です。
一般的に医療費控除の対象となる医療費は、病気やケガなど治療を目的としたものがあてはまります。ここには、治療するために発生した入院費や薬代、交通費、食事代などが含まれます。
一方、控除の対象とならない医療費は、予防を目的とした医療があてはまります。具体的には自分の都合で利用した差額のベッド代や健康診断の費用、美容整形、サプリメント代などが含まれます。
例えば、入手が大変困難であると大きな話題になっているマスクですが、以前から花粉症対策やインフルエンザ予防のために広く用いられているため、医療費控除に該当するか否かは、確定申告の際に多い問合わせの一つです。しかし、マスクは「予防を目的」とされており、対象外になります。
対象については、主に次のように分類することができます。
【医療費控除の対象となる主な費用】
・病院での診療費や治療費
・入院したときの部屋代や食事代などの入院費用
・治療のために購入した医薬品の費用
(市販薬も含まれるが、ビタミン剤などの病気予防の医薬品代は除く)
・治療に必要な松葉杖や補聴器などの医療器具の費用
・病院や介護施設など通院に必要な交通費
(電車やバスなど交通機関の利用)
・歯科医院での治療費
・子どもの歯列矯正費用
(大人は美容目的は対象外、咀嚼など機能回復の場合は対象になる)
・病気やケガの治療のためのリハビリ・マッサージ・ハリ・お灸などの費用
・介護保険制度の対象となる介護費用
・妊娠してからの検査や定期健診の費用
・助産師が分娩の介助をした際の介助費用
・入院や自宅療養をしている病人の付添を依頼した際の付添費用
【医療費控除の対象とならない主な医療行為】
・人間ドックなどの健康診断の費用
(病気が発見された場合は、医療費控除の対象となる)
・予防注射の費用
・美容目的の整形や歯列矯正などの治療費用
・病気予防や健康増進、美容目的で購入したビタミン剤や漢方薬、サプリメントなどの費用
・自家用車による通院のガソリン代や駐車料金
・自分の都合で利用したベッドの差額代
なお、医療費控除は、自分以外にも生計が一緒の家族の分もまとめて申告することができます。家族の中で一番所得の多い人が、家族の分をまとめて医療費控除を申告すれば、税額を大きく軽減させられます。確定申告の時期まで、レシートや領収書は保存しておき計算してみるとよいでしょう。
なお、あくまでも生計が同一していることが条件であり、同居している必要はありません。例えば、一人暮らしをしている学生の子どもの医療費なども医療費控除の対象になります。
医療費控除を受けるための手続きとは?
医療費控除は、所得税の計算における所得控除になるので、「確定申告」をする必要があります。確定申告をする年の1月1日から12月31日までに支払った医療費が確定申告の対象となります。
毎年、確定申告期間は決められていますが、還付金を受け取る「還付申告」の期間は、医療費のかかった年の翌1月1日から5年以内です。つまり、過去5年分までさかのぼって申請することが可能なのです。
したがって、過去に多額の医療費がかかっていたのに医療費控除の手続きをしなかったり、申請をしていなかった場合は、過去5年以内であれば、医療費の還付申告をすることが可能です。例えば、2021年の医療費控除の申請期間は2022年1月1日~2026年12月31日となります。
医療費控除手続きの流れとは?
医療費控除の申請から、還付金までの受け取りは、次のような流れとなっています。
1、医療費控除に必要な書類を準備する。
2、書類の必要項目をすべて記入する。
3、提出が必要な書類すべてを管轄地区の税務署に提出する。
4、1か月~1か月半ほどで指定した口座に還付金が振り込まれる。
では、この流れを踏まえた上で、さらに詳しくみていきましょう。
医療費控除のための確定申告に必要な書類とは
雇用側が年末調整をしてくれるため確定申告が不要な人(会社員など)が、医療費控除をするために確定申告をする場合には、次のような書類を揃える必要があります。
・「確定申告の申請書類(確定申告書A・Bと医療費控除の明細書)」
確定申告の申請書は、管轄地区の税務署に直接取りに行くか郵送で取り寄せることができます。また、国税庁のホームページからダウンロードして印刷する、国税庁のホームページの「確定申告等作成コーナー」で作成するといった方法があります。
また、オンライン申請(e-Tax)を利用すれば、パソコンやスマートフォンからも申告ができます。この場合、紙の申請書は不要です。ただし、オンラインでの確定申告には事前準備も必要なので、予め確認しておくことをお薦めします。
参考:
国税庁 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
・「医療費控除の明細書」
医療費控除の明細書も、確定申告の申請書と同様に税務署に直接取りに行く・国税庁のホームページからダウンロードする等の方法で入手することができます。手書きで作成する場合、冊子状になっている確定申告の申請書の中に綴られてているので、冊子から切り取って記入することになります。
また、国税庁のホームページで配布されているものは、PDFとExcelのタイプがあるので、記入しやすいものを用いましょう。なお、Excelのタイプのものは、計算式が入っているため比較的作成が容易です(計算式が壊れている可能性も考慮し、ご自身でも数字を確認することをお薦めします)。
参考:
国税庁 医療費控除の明細書の書き方など(pdf版・excel版ともに、ここで入手できます)
・「医療費の領収書」
1年間に、どれくらい医療費がかかったのかがわかる領収書やレシートが必要です。ただし、提出は必要ありません。「医療費控除をするには、領収書をどっさり出さなくてはいけない」というイメージも根強くありますが、平成29年分の確定申告から領収書の提出のかわりに、上記の「医療費控除の明細書」の添付が求められるようになりました。
国税庁ホームページの案内に「領収書では医療費控除は受けられません」と注意書きがあるように、「領収書の提出ではなく、明細書の作成・提出が必要になっている」ということがポイントです。
では、領収書は不要なのかというと、もちろんそうではありません。医療費控除の明細書を作成するためには領収書が必要ですし、作成後も5年間保存する義務があります。税務署からの求めがあった際には提示または提出しなければならないからです。
参考:
国税庁 医療費を支払ったとき(医療費控除)
・「健康保険の医療費通知」
医療費通知とは、加入している健康保険組合などから送られてくる書類のことです。医療費控除を申請するために提出する場合、「健康保険の加入者などの名前」「療養を受けた年月」「療養を受けた人の名前」「療養を受けた病院・薬局などの名称」「健康保険の加入者が支払った医療費の額」「健康保険組合等の名称」等の項目が記載されていなければいけません。
・「給与所得の源泉徴収票」
会社員などが雇用者から受け取るものです。これは確定申告の際に必ず必要なので、小さな書類ですがしっかりと保存しましょう。また、雇用側は発行の義務があるため、もしも発行されていない場合は、発行するように求めましょう。紛失した場合の再発行を求めることも可能です。
このほかにも還付金を受け取るために「銀行口座の通帳」や「印鑑(シャチハタ以外)」も必要です。
なお、一部のネットバンクは利用することができません。最近では、ジャパンネット銀行や、楽天銀行、ソニー銀行、住信SBIネット銀行といった、ネットバンクでも利用可能になりましたが、ネットバンクの取扱いについては様々なので、確認することをお薦めします。
医療費控除のための書類作成の手順について
医療費控除のために確定申告をする場合、確定申告に必要な書類を作成しなければいけません。以下のような流れで進めるとスムーズでしょう。
1、医療費明細書の作成
まず、医療費明細書の作成から始めます。
医療費明細書には「医療を受けた人」「続柄」「病院や薬局などの名称と所在地」「治療内容や医薬品名」「支払った医療費」「保険で補てんされる金額」などの項目があります。1月1日から12月31日までの1年間にかかった領収書やレシートを参考に、個人ごとの医療費を項目ごと記入していきます。
医療費の記入が終わったら、そこから医療費控除として申告できる額を算出して記入します。
2、医療費控除の明細書の作成
確定申告書にはAとBの2種類あります。確定申告書Aは、公務員や会社員などが医療費控除のみを申請する場合に用い、確定申告書Bは主に自営業の場合など誰でも用いることができます。
上記の「医療費明細書」の作成により算出された医療費控除額を確定申告に記入し、申請書にの手引きに従って、医療費控除額を計算し記入します。
3、作成した書類を提出
医療費控除に必要な書類一式が揃ったら、管轄地区の税務署に提出します。提出する際には、マイナンバーの確認が必要です。次の3つの方法のいずれかで、マイナンバーを掲示しなければいけません。
・窓口でマイナンバーを掲示する。
・マイナンバー通知カードと身分証明書(運転免許証・パスポート・健康保険証など)を掲示する。
・「確定申告書の添付書類台紙」に本人確認書類の写し(コピー)を貼った書類を提出する。
なお、申告書類は管轄地区の税務署に郵送で提出することも可能です。その場合、マイナンバーを確認するために「確定申告書の添付書類台紙」に本人確認書類の写し(コピー)を貼ったものを提出します。
また、オンラインでも可能ですが、オンラインの場合はマイナンバー方式と、ID・パスワード方式があります。それぞれで対応が異なるので、予め確認しておくとよいでしょう。
参考:
国税庁 e-Tax利用の簡便化の概要について
積極的に医療費控除を利用するためには
医療費控除は、高額な医療費の出費があったときに所得税の還付が受けられる制度であり、この制度の適用を受けるためには、確定申告書書類を作成し、申請手続きをしなければいけません。
日頃から確定申告をしていない場合や、確定申告をしているが医療費控除をしたことがない場合は「面倒そう」「難しそう」など感じるかもしれません。しかし、1年間分の医療費はそれなりの金額になります。
また、「セルフメディケーション税制」という、市販の医薬品などを対象とすることができる医療費控除特例も設けられています。通常の医療費控除と併用はできませんが、下限額が低かったり、対象範囲が異なっていたりするので、こちらの利用も一考でしょう。
参考:
厚生労働省 セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
国税庁 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除との選択適用
近年、確定申告をサポートするソフトなども充実しています。効率よく確定申告をしたい方や、医療費控除のために初めて確定申告をするが不安がある方は、こうしたソフトを利用してみるのもよいでしょう。
医療費控除は還付金を受け取るだけでなく、翌年の住民税にも反映されます。医療費は、いつ・どれくらいかかるのか一般的には予想しづらいものですが、いざというときのために利用できるように、日頃から医療費に関連するレシートや領収書などは保管しておくことをお薦めします。
家計における医療費を把握しておき、医療費控除の利用について積極的に検討してみましょう。
税理士コンシェルジュは、2008年サービス開始より株式会社タックスコムが運営する税理士専門の紹介サイトです。会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談し、1万件以上の相談実績がある税理士選びの専門家です。
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