【2021年版】医療費控除とセルフメディケーション税制の確定申告
勤務先の年末調整では、医療費控除を受けられません。よって、医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。また、2017年分から通常の医療費控除に加え、「セルフメディケーション税制」がスタートしています。本記事では、両者について解説します。
2種類の医療費控除の概要
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日の1年間に支払った医療費を申告することで、課税所得が控除される制度のことです。医療費控除には、「(従来の)医療費控除」に加え、「セルフメディケーション税制」と呼ばれる期限付きの特例があります。なお、これら2つの控除を併用することはできません。2種類の医療費控除についてみてみましょう。
通常の制度「医療費控除」について
従来からある医療費控除は、納税者本人とその家族のために一定額以上(年間10万円以上)の医療費を支払った場合に控除を受けることができる所得控除制度です。その年の1月1日から12月31日の1年間に支払った医療費が対象となっています。
医療費控除の対象に該当する場合は、確定申告することで、後日、還付金を受け取ることができます。つまり、課税対象となる所得から一定の額を控除できるため、節税につながります。
新制度「セルフメディケーション税制」について
セルフメディケーション(自主服薬)税制とは、2017年1月(平成29年)からスタートした医療費控除の特例制度です。その年の1月1日から12月31日の1年間に自己負担した対象の一般医薬品等の購入費が一定額を超えた場合、確定申告をすることで控除を受けることができます。
具体的には、健康の維持増進や疾病の予防などを目的とした一定の取り組みをしている、もしくはスイッチOTC医薬品を購入した場合です。なお、一定の取り組みとは、特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康審査、がん検診などが該当します。
また、スイッチOTC医薬品とは、要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品のことです。この「OTC」とは、「Over The Counter」の略した呼び方で、カウンター越しに購入できる医薬品、つまり薬局やドラッグストアで販売されている医薬品を指して使われています。
対象となる医薬品には、パッケージに所定のマークが記載されています。前述したように、セルフメディケーション税制の適用を受ける場合は、従来の医療費控除の適用を受けることはできません。
参照:厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」
通常の制度「医療費控除」の確定申告
医療費控除の対象となるもの
・医師もしくは歯科医師による診療、もしくは治療にかかった費用
・治療もしくは療養に必要な医薬品の購入費
・病院、診療所、介護老人保険施設、介護医療院、指定介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設、助産所などへ収容されるための人的役務の提供への費用
・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師などによる施術費用
・保健師、看護師、准看護師又は特に依頼した人による療養上の世話の費用
・助産師による分娩の介助の費用
・介護福祉士等による一定の喀痰吸引及び経管栄養の費用
・介護保険等制度で提供された一定の施設・居宅サービスの費用
・医師等による診療等を受けるために直接必要となる費用(通院費、医師等の送迎費、医療用器具の購入や賃借の費用、義足・義手・松葉杖・義歯等の購入費、身体障害者福祉法などの規定により、各自治体に納付する費用のうち医師等の診療費用に該当するもの、6ヶ月以上寝たきりの人のおむつ代で医師が発行した「おむつ使用証明書」があるもの)
・健康診断や人間ドッグで重大な疾患が発見された場合の診断料
医療費控除の対象とならないもの
・入院の際の部屋代や食事代
・入院の際、親族による世話の謝礼代
・自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代
・健康診断や人間ドッグで重大な疾患が発見されなかった場合の診断料
・予防接種代
・疲労回復や健康増進のための錠剤やドリンクなどの購入費
・美容目的の歯列矯正やホワイトニングにかかった費用
・近視や乱視など矯正のために必要な眼鏡やコンタクトレンズにかかった費用
・妊娠検査薬の購入費用
医療費控除額の算出方法
通常の医療費控除の控除額は、以下の計算式で算出します。
「医療費控除額=その年に支払った医療費ー保険金などで補填される金額ー10万円」
上限額は10万円なので、所得金額が200万円を超えた場合は、一律10万円で計算します。
一方、所得金額が200万円未満の場合は、以下の計算式で求めます。
「「医療費控除額=その年に支払った医療費ー保険金などで補填される金額(その年の総所得金額200万円未満の場合は×5%)」
一般的には、実際に支払った医療費が10万円以上でなければ医療費控除は受けることができませんが、総所得が200万円未満の場合でも、総所得の5%を超えた場合に医療費控除の利用が可能です。
通常の医療費控除の確定申告期限
前述したように、医療費控除を受けるためには、確定申告をする必要があります。
【医療費控除の申告期限】
所得税法では毎年1月1日〜12月31日までの所得に関して、翌年2月16日〜3月15日までの1ヶ月間に確定申告と所得税納付をするよう定められています。それぞれに日付が、土日祝日と重なる場合は、翌日が期限日となります。医療費控除のみ「還付申告」をする場合は、1月から申告書を提出することができます。
なお、今年2021年(令和3年)の確定申告は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、申告期間が4月15日までと1ヶ月間延長されました。
【申告期限が過ぎてしまった場合】
還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間遡って申告することができます。つまり、確定申告の期間に医療費控除の申告を忘れてしまったとしても、5年以内であれば申告することが可能です。
医療費控除の対象となる医療費について
ここでは医療費控除の対象になるかどうか曖昧な医療費について解説します。
新型コロナウイルス感染症のPCR検査費用
医療控除の対象となるのは、医師等による診療や治療のために支払った費用や、治療に必要な医薬品を購入した費用などです。
そのため、結論から述べるなら、医師等の判断によりPCR検査を受けた場合は、医療費控除の対象となります。一方、自己判断でPCR検査を受けた場合は、医療費控除の対象とはなりません。
【医師等の判断でPCR検査を受けた場合】
医師等が新型コロナウイルス感染症にかかっている疑いがあると判断し、PCR検査を受けた場合は医療費控除の対象です。ただし、医療費控除の対象となる金額は、自己負担部分に限られています。よって、公費負担により行う部分については、医療費控除対象外となります。
【自己判断でPCR検査を受けた場合】
感染しているかどうかを明らかにする目的や自己判断で受けるPCR検査は、医療費控除の対象にはなりません。しかし、PCR検査の結果が「陽性」で治療を行った場合は、治療に先立つ検査や診察とみなされます。よって、検査費用は医療費控除の対象となります。
人間ドッグなど健康診断の費用
人間ドッグなど健康診断にかかった費用は、疾病に対する治療ではありません。よって、医療費控除の対象にはなりません。しかし、健康診断等で病気が見つかって治療を行なった場合は、治療に先立つ検査や診察と考えることができます。よって、かかった費用は医療費控除の対象となります。
海外旅行先で支払った医療費
海外旅行先で、現地の医者に支払った医療費は、医療費控除の対象です。治療費を現地通貨で支払った場合は、その支払いをした日時の外国為替の電信売相場と電信買相場の中値で円換算をした金額で医療費控除額を計算します。
視力回復レーザー手術の費用
視力回復レーザー手術、つまりレーシック手術は、視力を矯正する手術です。角膜にレーザーを照射し、医学的は方法で正常な状態へと回復させるこの手術は、医師の診療のもと行われます。よって、医療費控除の対象です。
メガネの購入費用
近視や遠視など日常生活に必要なものとしてメガネを購入する場合は、医療費控除の対象にはなりません。なぜなら、視力を回復させる治療の対価ではないからです。
しかし、白内障や緑内障などの手術後の昨日回復のためのメガネ、子どもの未発達視力を向上させるために必要なメガネなど、治療のために必要なメガネで医師の指示がある場合は、医療費控除の対象となります。
医療費控除の対象となるメガネに関しては、疾病名や治療を必要とする症状が記載されたメガネの処方箋が発行されます。確定申告の際に必要となりますので、大切に保管しておきましょう。
歯列矯正にかかった費用
子供が成長していく上で、歯列矯正が必要と認められる場合は、医療費控除の対象となります。一方、美容目的の歯列強制は、医療費控除の対象にはなりません。
インプラントにかかった費用
歯列矯正は、歯並びが悪く噛み合わせに問題がある場合に行いますが、インプラントは顎の骨を削り、人口歯を装着する手術のことです。インプラントも、歯列矯正同様、美容目的のために行う場合は、医療費控除の対象にはなりません。
しかし、咀嚼障害の改善など、歯科医医師が治療において必要だと認めた治療目的の場合は、医療費控除の対象となります。
通院費(交通費)
通院費にかかった交通費は、医療費控除の対象です。例えば、子どもが医療機関に通う場合、大抵保護者である親が同伴します。この場合、付き添い人である親の交通費も医療費控除の対象となります。
ただし、医療費控除の対象となる交通費は、公共交通機関やタクシー代などです。自家用車のガソリン代や駐車料金代などは医療費控除の対象にはなりません。
出産費用
出産費用には、妊娠が判明してから医療機関を受診する定期検診、検査などが含まれます。これらは医療費控除の対象です。ただし、個人で行う妊娠検査薬の購入費用は医療費控除の対象にはなりません。また、実家で出産するための帰省にかかった交通費も対象外です。
新制度「セルフメディケーション税制」の確定申告
セルフメディケーション税制の対象となるもの
健康の維持増進、もしくは疾病の予防として一定の取り組みをしている方が、納税者本人とその家族のために合計12,000円以上の特定の成分を含んだOTC医薬品を購入した場合は、セルフメディケーション税制の対象となります。
対象となる医薬品には、パッケージに「セルフメディケーション/税 控除対象」と記載された識別マークがあります。また購入した際の領収書(レシート)にも控除対象と記載されています。
控除の対象となる額は、実際に支払った「税込み価格」です。店舗で〇%の割引セールがされている対象医薬品を購入した場合は、「割引後の価格」が控除額になります。
セルフメディケーション税制の対象医薬品の詳細については、以下の品目一覧をご覧ください。
参照:厚生労働省「セルフメディケーション税制対象医薬品 品目一覧(全体版)」
セルフメディケーション税制の対象となる人
・所得税や住民税などを納税している人
・納税者本人とその家族のために合計12,000円以上の特定の成分を含んだOTC医薬品を購入した人
・健康の維持増進、もしくは疾病予防のために、特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康審査、がん検診など一定の取り組みをしている人
セルフメディケーション税制の控除額の算出方法
セルフメディケーション税制の控除額は、以下の計算式で算出します。
「セルフメディケーション特例の控除額=対象市販薬の年間購入額-12,000円(下減額)」
なお、セルフメディケーション特例の控除額には上限があり、限度額は8万8000円となっています。
例えば、課税所得400万円の人が、対象OTC医薬品を年間20,000円分(生計を同一する扶養家族の購入額も含む)購入した場合をイメージして見ましょう。この場合、以下の計算式が成り立ちます。
「20,000円(対象市販薬の年間購入額)−12,000円(下減額)×20%(所得税率)=1,600円(控除額)」
つまり、申告することで1,600円戻ってきます。さらに、翌年度の個人住民税(地方税)分は、以下の計算式が成り立ちます。
「2万円(対象市販薬の年間購入額)-12,000円(下減額)×10%(個人住民税率)=800円(控除額)」
つまり、申告することで800円戻ります。よって、所得税+個人住民税=合計2,400円の減税効果を得られます。
セルフメディケーション税制の確定申告期間
セルフメディケーション税制の確定申告期間は、従来の医療費控除同様、翌年2月16日〜3月15日までです。前年1月1日〜12月31日までに支払った金額が対象となります。
通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は併用することができませんので、納税者本人が確定申告時に選択する必要があります。
セルフメディケーション税制の期間延長について
セルフメディケーションは、医療費控除の特例として2017年〜2021年までの5年間という期間限定で設置された制度です。しかし、令和3年度の税制改正により、2022年1月1日〜2026年12月31日まで5年間、期間が延長することになりました。
セルフメディケーション税制の明細書の記載方法
セルフメディケーション税制の確定申告は、購入した対象医薬品等の領収書(レシート)をもとに、対象となる金額を集計し、「◯年分 セルフメディケーション税制の明細書」に記載するだけです。
また、一定の取り組みとして健康診断や予防接種、がん検診などをした場合は、それらの領収書などの添付や提示が証明として必要になります。ですから、領収書や診断結果などは大切に保管しておきましょう。
「◯年分 セルフメディケーション税制の明細書」の書式は、以下の国税庁のホームページでダウンロードできます。
参照:国税庁「◯年分 セルフメディケーション税制の明細書」
セルフメディケーション税制を利用する場合
セルフメディケーション税制を利用する場合は、「◯年分 セルフメディケーション税制の明細書」を提出する必要があります。紙はもちろん、電子で申告書を記入することもできます。
【紙で申告する場合】
紙で申告する場合は、上記でご紹介した国税庁のホームページで用紙ダウンロードし、作成することができます。また税務署等でも申告書を入手することができます。その後、税務署に提出しましょう。
【電子で申告する場合】
電子で申告する場合は、国税庁のホームページの「確定申告書作成コーナー」から「e-Tax」を利用して確定申告をします。パソコンはもちろん、スマートフォンからでも申告することが可能です。
まとめ
本記事では、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制の2種類の医療費控除について解説しました。2種類の医療費控除を併用することはできません。
しかし、家族の中の1人が通常の医療費控除を受け、それ以外の人がセルフメディケーション税制の控除を受けることはできますので、領収書や診断書などは大切に保管しておきましょう。
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