税理士のミスによるトラブルが起きたら?裁判を避けるためのリスク対策
「税務調査で否認されて罰金を科せられたので、税理士に対して裁判を起こすことにした」
「税理士のミスにより損害が発生したので、裁判を考えている」
といった話を聞くことは、少なくありません。税理士にとってはもちろん、経営者の方にとっても恐ろしい事態です。
もしも本当に裁判になった場合は、多大な時間と労力を費やすことになります。いきなり「裁判だ!」と考えるのではなく、まずは過去の事例を参照することをお薦めします。未然に防ぐためにも、頻出事例について知っておくことは大切です。
この記事では、税理士のミスによる頻出トラブルについて解説していきます。
目次
裁判を避けられる・裁判にはならない税理士によるミス
税理士のミスを原因としたトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか。また、いざトラブルが発生したら、どのように対応をすればよいのでしょうか。
ここでは、いくつかのタイプに分け、整理して考えてみましょう。
1、税理士により「更正の請求」を行い、和解できるミス
経営者の方が、最も税理士に責任を取ってほしいと考えるのが「後になって、税金の払い過ぎが発覚する」というトラブルでしょう。
顧問料を支払い、信頼して税務を任せていたのにこのようなことが起きたのなら、賠償を求めたいと思うのは当然かもしれません。
しかし、誤りの理由が悪質なものでない限り「更正の請求」を行うことで、このトラブルのリカバリーは可能です。更正の請求とは、税務署に対してしかるべき手続を期限内にとれば、払い過ぎた税金を取り戻すことができる制度です。
感情的なしこりは残るかもしれませんが、税理士も人間です。時にミスをすることもあるでしょうし、法的にリカバリーする方法があるのですから、今後のためにも裁判とはせず和解としたいところです。
2、税理士と税務署との見解の相違の結果を、ミスと捉えている場合
税務調査によって、納税額の不足を指摘され、追徴課税が発生することがあります。もちろん望ましいことではありません。
しかし、これは「税理士のミス」とはいえません。脱税意識がなく、税務署との会計処理の見解の違いによる結果であれば、仕方がありません。税理士に賠償責任を求めることは筋違いでしょう。
ただし、無責任なアドバイスにより顧客に損害を与えたということであれば、それは問題です。
例えば、新規顧客を獲得したいあまりに、その会社にとっては適切とはいえない節税対策をしたり、長い目で見たときに会社にとってプラスとはいえない提案をしたりする税理士はゼロではありません。
これは「ミス」よりも深刻なものであり、「税務署との見解の違い」にも当てはまりません。
参考記事:税理士は節税提案があると同時に税務調査の対策が重要
裁判になり得る税理士のミス~頻出トラブル例
上記のような、税理士に賠償を求めるには至らないトラブルも多く発生しています。しかし、毎年多くの税賠(税理士損害賠償請求)事故も発生しています。例えば下記のようなものです。
1、税理士が消費税の「課税事業者選択届出書」の提出を失念したというミス
会社が開業してからの一定期間、通常は免税事業者として扱われます。しかし、この期間中に売上高が一定額を超えたり、免税期間を過ぎたりしたときには「課税事業者選択届出書」を提出し、免税事業者ではなくなったことを申告する必要があります。
この届出は、適用を受ける決算期の前に行わなければならならず、この機会を逸すると、消費税の還付が受けられません。税理士の責任が問われる可能性が高いミスです。同様の例として、「簡易課税制度選択不適用届」の届け忘れも多く見られます。
2、税理士が税制の選択を誤った、優遇税制申告の手続漏れをしたというミス
より会社に有利になる税制があったのに選択していなかったり、手続漏れにより免税や税負担の軽減を適用し損ねてしまったというミスもあります。
昨今、様々な優遇税制が設けられています。税制は変化が激しく、それを捉えることはプロでも大変です。また、適用の要件も非常に複雑です。
しかし、会社としては上手く用いて少しでも税負担を軽くしたいところですし、会社に与える影響が大きくリカバリーしにくい(できない)トラブルが発生したので賠償を求めるという事例も少なくありません。
「税理士によるミス」ではなく「無資格者による不法行為」にはさらに注意
なお、上記のような税理士によるミス以外にも頻出しているのは「無資格者のアドバイスによる損害」です。
税理士にのみ許可されている申告の代行や税務アドバイスを無資格者が行った場合、それは違法になります。
参照:国税庁ホームページ税理士法違反行為Q&A
「会計に詳しい」「税務の経験が豊富」といったことをアピールして、税務アドバイスをしてくる人が周囲に現れるかもしれませんが、それは違法ですし、そんな人に仕事を依頼したりアドバイスを受けたりすると、思わぬ損害が発生したり、風評被害に悩まされる可能性もあるので注意が必要です。
参考記事:安いからと無資格(ニセ)税理士に依頼した場合の大きなリスク
税理士とともにリスク対策をしてミスを防ぐことが大切
裁判や賠償請求となることは、誰にとっても望ましいことではありません。避けるためには、日々のリスク対策が大切です。
例えば、経営者の方であれば今後の売上や利益の見通しはある程度つけられるはずです。それをもとに早くから税理士との打合せを密にしていけば、自然と「あの申告は済んでいるだろうか」「取引先が話題にしていた優遇税制は選択可能だろうか」等と考えるようになるものです。そして、気になる点があれば、どんどん税理士に相談することがリスク対策となります。
また、税理士も人間ですし、繁忙期には相当の仕事量をこなすことになります。そのため、ミスが発生しないように税理士の繁忙期を把握しておくことも大切です。
顧客である以上、過度に気にする必要はありませんが、急ぐ案件でなければ税理士も余裕を持って取り組める時期に相談するというのも一考です。普段であればありえないようなミスが起こったり、あまり時間を割いてもらえなかったりすることを防げるでしょう。
「税理士がミスをした」というの事実があっても、それを未然に防ぐことができた可能性や、税理士だけの責任というよりは、日頃のディスコミュニケーションが原因で起こったという場合もあります。
税理士と良好な関係を築き、日頃後から自身でも税務会計にも気を配ることが、未来の大きなトラブル予防にも繋がります。
契約内容によっては「税理士に丸投げ」ということは可能ですし、「そのための顧問契約だ」という考えもあるでしょう。たしかに、専門家ではない人にとっては煩雑に感じる税務や諸手続をアウトソーシングできるのが、税理士に仕事を依頼する一つのメリットではありますが、「会社の会計がどうなっているかは、税理士しか把握していない」という状態もリスク管理上望ましくないことです。
ミスを予防し、「税理士と裁判」という最悪の結果を避けるためには
税理士はとても頼りになる存在ですが、税務も含めた事業の主体はあくまでも経営者にあります。事業の先を見越して経営計画を立て、必要な措置を講じるのに、税理士はよきアドバイザーとなりますが、任せきりにしてはいけません。
そのためには、税理士に任せていることに関しても、常日頃から報告をしてもらい、理解・納得をできるようにしておきましょう。
税理士との良好な関係を構築しておけば、裁判に至るようなミスやトラブルの発生を防ぐことができるはずです。また、万が一発生した場合も大事には至らずにすむでしょう。
株式会社タックスコム:代表取締役
会計の実務経験を活かし、これまで1000名以上の税理士と面談を行い、相談実績は1万件を超える。2017年に執筆した書籍「税理士に顧問料を払う本当の理由」は、出版から半年にわたりAmazonカテゴリ「税理士」で1位を獲得。2021年に実施した日本コンシューマーリサーチの調査では、税理士紹介サービスで顧客満足No.1を獲得。
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